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東京23区 リーダーたる観光振興 その現状と将来像を考える!

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1.はじめに~発想が逆転した観光コンテンツ作り

 時はまさに「着地型観光」に舵を切り始めた。黙っていてもお客様がやってくる時代から地域の宝物をプロモーションし、来てもらう時代に変化を始めた。

 温泉旅行が華やかし時代、大都市から数時間の温泉地が旅行の主流を占めていた。例えば、首都圏から草津温泉や鬼怒川温泉などがそのような温泉地の代表である。旅行会社は、発地型商品を造成し、各温泉地に送客をしていたのである。

 しかし、それは金太郎あめのような商品販売を押し付けていたことになる。そして、地域の方々をはじめ、お客さまからも、その脱却を望まれるようになった。

 発想が、「発地」から「着地」に変わったのである。そんな転換すべきことを忘れ、あぐらをかいていたのは、実は大都市圏である。

世界一有名と言われる渋谷スクランブル交差点

 東京も大阪も、さまざまな世代・老若男女の求めるモノ・コトがあふれている。そのため、地域の宝物を本気で探そうとしなかった。東京ディズニーリゾート・ユニバーサルスタジオジャパンが目的地の中心。新宿や渋谷、梅田や難波といった街がAIの回答。まさしく、大都市圏は観光客のニーズに合致していると錯覚していたのではないだろうか。

 今や旅行客は「一人十色」、その時々で同一人物の旅行目的も変わるものである。

 私たち観光業界に携わる者は、大都市圏の観光振興を率先して着地目線に移し、素材探しをしなければならない。日本全体の観光振興が「より強固に」「より素晴らしい」ものに仕上げるために、東京23特別区の観光振興はどうあるべきか、考えてみたい。

2.きっかけは、2011年東日本大震災

 新型コロナウイルスのまん延は、世界中の経済活動を止めた大きな事象であった。

 しかしながら、日本国内においては、東日本大震災が与えた影響がコロナ禍に匹敵したものであると言っても過言ではない。

 「これまで聞いたことの無い計画停電」「昼間に公共交通機関である鉄道の運休」

 地域ごとに停電が実施されるのである。大都市・東京も例外ではなく世の中が暗くなった。そして、名立たるホテルのロビーからも訪日外国人が居なくなった。

 東京都は、この地震の後、国内外の観光客を呼び戻すために、23特別区に観光振興を目的として、観光協会設置を要請する。

2019年 調べ

 東京23区の観光協会の設置状況をひもといてみよう。上野観光連盟が1947年、文京区観光協会が1954年に設立と記録されている。20世紀末までに設立された数は6区。東日本大震災前に設立されたのは合計9区を数えるに留まる。そして、コロナ禍前の2019年までに20区に観光協会が設立されている。しかも、観光協会と言っても、任意団体から法人登記されたのも大震災の後がほとんどである。

3.花盛りな「町歩き」こそ、SDGsな取り組み

 東京23区は、一部の例外(新宿や渋谷、池袋などの大消費地)を除いて、地方都市と変わらない町である。日々暮らしている地域住民にとって、来訪者が増えることは、たくさんの不都合を生み出した。江戸時代以前の名所旧跡があるにもかかわらず、その謂れを理解することも少なく、そのまま放置されていたのだ。来訪者から問われても「わからない」ことばかり、地域のサービス機能は最低のものと言われた。

 昨今、歴史好きな方々が中心となって、「町歩き」が花盛りである。「ボランティアガイドと巡る○○ツアー」といったたぐいのものである。しかし、ほとんどのボランティアが無償でツアーに携わっているため、そのスキルは旅慣れたお客様を満足させるものにつながらなかった。

京都市内の修学旅行ボランティアガイドの姿

 ボランティアという名の無償ツアーは長続きしない。ボランティア疲れしてしまうからである。長続きさせるためには、地元の方々に予定収入(経済効果)を見込むことができるようにすることが重要ある。自由食ではなく、地元の食事施設に予約を入れる。ボランティアガイドには対価を支払う。このようにすれば、地域の方々の意識が高まり、ブラッシュアップされることによって、当該ツアーにたくさんのお客様が集まるのである。

 しかし、持参したお弁当のごみをそのまま捨て去る、狭い道路を幾重にも重なって練り歩くなど、「観光なんぞは、迷惑千万なものだ」と地域住民から思われることが少なくなかった。

 地元のルールが順守され、お客様が消費される経済効果を可視化できれば、地域住民の理解度は深まる。

 観光は「地元の宝物の価値向上」「地域消費の拡大」「将来を見据えた地域蓄財」

といった、住民意識が高まれば、地域の宝物を観光コンテンツ化することは、SGDsな取り組みになるのである。

4.限られた予算をどのように執行するか?

日本一の着地型観光コンテンツ、皇居・二重橋

 地域住民の幸福度は外からの人々の来訪数に比例するとも言われる。しかし、行政は、住民サービスを医療や教育に掛かる費用に支援することを重視する。それは地域住民に直接見える支援となる。

 一方、観光客が地域で消費する「食べ物」や「お土産」「見学料金」などは、即効性が少なく、なかなか経済効果が目に見えない。そのため、観光に重きを置いてこなかった。現在でも、その傾向は変わっていない。

 少ない観光予算をいかに増大させるか、観光は「将来を見据えた地域蓄財」になるのであれば、より効率的な予算執行を進め、来訪者を増やす必要ある。次回は、観光予算について、考えてみることとする。

(つづく)

取材 中村 修 ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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