美しい四国「肱川あらし」編
愛媛県西予市宇和町と大洲市の境界付近から河口の愛媛県大洲市長浜町のまで約103kmかけて伊予灘へ向かう肱川(ひじかわ)は、河口から約20km上流に位置する大洲城を中心とした大洲盆地との「共同作業」で、世界三大超現象とも言われる「肱川あらし」を巻き起こす原動力となっている。
また、周辺を約1,000m前後の山々に囲まれている大洲盆地へ到達するまでに、その山々をぬうように流れていることから支流の数が470本を超えており、特異な河川であることを物語っている。
盆地に滞留する放射霧
おおかた9月下旬にもなれば気温が下がり始める。10月を過ぎて北西の風が吹き始めると、伊予灘に向けて北西方向に出ている肱川が寒気吸い込み口の役割を果たす。早ければ深夜24時を過ぎた頃から次第に放射霧が溜まるのだ。そして、明け方にかけて風向が南風に変わり、冷え込む盆地と河口付近との寒暖差によって、満タン状態の放射霧は河口に向かって大移動を開始する。
河口から約1.0km上流の大和橋を下る


写真①は、肱川あらしが発生し始めた午前4時頃の撮影。10年ほど前の写真ではあるが、このときの「大あらし」以来ずっと規模が縮小し続けてきている。こうした現場で撮影を続けていると、心配されている「気候変動」をもろに感じるしそれを目撃するのだ。
写真②は、盆地からの放射霧が、風向きが変わったことにより、盆地側へと戻ってしまうという「逆流現象」の記録。朝陽が昇ると予想もできない色々な現象が起きるが、これもその一つである。
また、気象条件も大きく左右する。肱川あらしそのものの発生度合いは「大潮=満月か新月前後」の時に最大化する。これは海水と肱川の淡水が混じり合う「汽水域」が、大潮になると大和橋よりも上流側へ移動し、蒸気霧の発生並びに移動の度合いが大きくになることに起因すると言われている。
そしてクライマックスへ

大和橋を無事に越えた放射霧は、特にこの付近の水面で発生する「蒸気霧」を巻き上げながら河口へと向かう(写真③)。その勢いは日の出と共に最大化し、風速20m前後にも達するあらしが吹き抜けるのだ。

国の重要文化財にも指定されており日本最古の開閉橋でもある「長浜大橋(通称:赤橋)」は、この強風吹き抜ける様子をカメラに収めるための「主役」として高い人気を誇る。写真④は、蒸気霧が吹き抜ける様子を撮影したもので、この状態で赤橋付近では20m前後の強風が吹き抜けている。
シーズンインすると多くの写真愛好家が詰めかける。コロナ禍明け後、インバウンド効果が起爆剤にもなり、今シーズンに至っては連日多くの見物客や写真愛好家で明け方から賑わっている。
超自然現象のフィナーレ

毎年10月に入り、気温も下がって北西の風が吹き始めると、伊予灘へ北西方向に流れ出ている肱川がその風を吸い込み、盆地に冷気が溜まる。それが夜明け前に放射霧を発生させて河口へと流れ出る。ここで「大潮」が影響し、水面で発生した「蒸気霧」を巻き上げながら伊予灘へと排出される。そして、なぜか日の出と共に、立っているのがやっとというくらいに風は強まり、蒸気霧が赤橋を越えて流れ出る(写真⑤)。

簡単に書くと、これが肱川あらしだが、最も美しくて神秘的なシーンは、実は「満月」の時に観ることができる。10月から年明けの1月末くらいまでの3ヶ月があらし期間になるため、そのチャンスは3回しかない。毎年必ず撮影できるとは限らず、今年撮影できたのは、2022年以来3年ぶりのことになる。写真⑥は2021年撮影のものだが、自然と万物のいとなみを司る「龍神」が「白い竜」に化身して満月へ向かう様子は、世界でもこの場所でしか観ることができない「超自然現象」である。
現場からの声
最近では、大手旅行会社からの依頼で「肱川あらし撮影ツアー」なども企画されており、その人気ぶりに火を付けているようだ。一方で、多くの方々が肱川あらし展望でへ押し寄せることにより、新たな心配事も見え隠れしており、その対応が求められている状況だ。
「歴史・伝統・文化」と「自然のいとなみ」と「素晴らしい水と空気」の三要素が絡み合って醸し出される「素敵な景色」を多くの方々にご覧いただき、愛媛県大洲市を知っていただきたいことに変わりはない。
しかし、危惧する状況の打開策は、受入現場での人的対応でしかないのではないか。例えば「観光インストラクター」のような節度を保ちながらお客様をご案内しサポードするなどの経験と技術を持ち合わせた、新たな人材を配置することで、観光現場での適切なコントロールを行うことができれば、最終的には地域力を高めることができるというものだ。
一年間ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=14
寄稿者 河野達郎(こうの・たつろう) 街づくり写真家 日本風景写真家協会会員