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東京再発見 第26章 モノづくりの街~台東区蔵前~

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 木々が芽吹き、冬から春を感じる季節になると、ここ数年SNSで映える小さな神社が有名になった。黄色のミモザと早咲きの河津桜が競演する「早春の都内で一番美しい神社」と紹介された蔵前神社だ。春日通りと江戸通りの交差点からビルの中にひっそりと鎮座する社。そのために、この時期だけ朝も夜もその美しい姿を求める人々が絶えることがない。

ミモザと河津桜の競演・・・蔵前神社
ミモザと河津桜の競演・・・蔵前神社

 徳川綱吉の時代、1693年に京都の石清水八幡宮を分霊勧請し、石清水八幡宮と名乗っていた。そして、1951年に蔵前神社と改称している。

 また、落語の演目「元犬」ゆかりの神社でもある。そのため、元犬の像も境内にある。そして、かつての蔵前国技館に隣接していたこともあり、江戸時代に境内で大相撲興行も行われたという記録もある。そのため、日本相撲協会とも大きな関わりを持っている。

川沿いには「蔵」が立ち並んでいた

 しかし、ここ蔵前は、その名の通り江戸時代からの「蔵」の町である。その歴史は、江戸幕府がこの地に御米蔵(浅草御蔵)を置いたことに始まる。この蔵は幕府が天領などから集めた米を収蔵するためのものだった。

 1620年に鳥越神社の丘(鳥越山)を切り崩し、隅田川を埋め立てて造られた。そして、東を隅田川、他の南北西の三方を堀で囲み67棟の蔵があった。その中には、隅田川の右岸に上流から一番、二番と数える8本の堀。それに面した多くの米蔵が連なっていた。

 この「蔵米」が旗本・御家人たちにとっての扶持米となった。そして、これを管理出納する勘定奉行配下の蔵奉行など大勢の役人が、敷地内に役宅を与えられた。また、御蔵西側にある町は江戸時代中期以降「蔵前」と呼ばれるようになった。多くの米問屋や札差が店を並べ、札差は武士に代わって御蔵から米の受け取りや運搬・売却を代行した。

 1868年、浅草御蔵と蔵奉行以下の役宅地は明治政府が管理することになる。南側を農商務省が、北側を大蔵省が管理した。以降、官公庁関連施設が多く集まるようになる。そして、1875年これまでの「御厩河岸の渡し」に橋梁が架けられた。現在の厩橋である。

大震災が、その進路を変える

 時を経て、関東大震災により浅草御蔵などは被災壊滅した。日本橋の十軒店(現:日本橋室町付近)から被災した人形職人が南側の須賀町から浅草橋周辺へ移転。周辺は玩具問屋街として発展し始める。また、震災の翌年には、蔵前橋も架橋された。

 戦後1949年に、日本相撲協会が第六天榊神社横に蔵前国技館の建設を開始する。翌年「仮設」のまま興行開始、1954年に完成した。大相撲のほか柔道、プロレスなど興行で賑わった。しかし、1984年に国技館は両国に移転する。

モノづくりの街・・・そして

戦前から残るタイガービル
戦前から残るタイガービル

 戦前からの建物も数多く残っており、玩具や革製品、金具などの問屋も「モノづくりの街」として再出発。古き建物や倉庫にカフェや雑貨店も作られるようになった。そして、近くに川が流れ、その雰囲気がニューヨーク・ブルックリンのリバーサイドの景色に似ていることが「東京のブルックリン」と呼ばれるようになった。

 また、現在は、蔵前周辺(台東区南部エリア)のモノづくりを取りまとめたイベント(モノマチ)も毎年5月下旬に行われている。

https://monomachi.com

 都営地下鉄大江戸線が開通し、浅草線とともに二つの地下鉄が走る町となった。しかし、この双方の蔵前駅は同一名でありながら、一旦、地上に出ないと乗り換えができない。それゆえ、このことを知らない乗客は、地上に出た瞬間、迷子になる人が少なくないと言う。都営地下鉄同士、無理やり同一駅にしたとしか否めない。不思議な駅だ。

 モノづくりを体験し、古き建物のカフェなどでランチと洒落こむ。人気店のお昼間は長蛇の列を成している。隣町も「浅草」「柳橋」といった下町を代表する場所である。浅草から蔵前を経て、柳橋まで歩いても一日でお釣りがくる。

 是非ともゆっくりと町歩きに興じて欲しいと思う、そのような魅力のある街である。

モノづくりの街の今を・・・

消防用の井戸の向こうにお茶の名店
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ビルの1階で婦人服を扱うお店
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トタンブリキを扱うお店
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かつては、タバコ屋さんだったかも・・・
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裏通りには、古き木造住宅も残る
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小洒落たパン屋さん
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天ぷら屋の隣には和菓子のお店が・・・
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本が読めるお休み処
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外壁がとても素敵、貴金属會館
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レースを扱う名店のショールーム
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蔵前神社の夜の姿
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(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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