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アートの街・天王洲を生んだ、巨大壁画

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制作・展示・反応

 このようにして準備が整い、巨大壁画の制作を行い、2018年4月に「品川の月」をお披露目することができました。2017年8月から計画・手続きを行い、9カ月かけての実現でした。許可された展示期間が6カ月のため、その間に次のステップに進めるかがポイントでした。就労者、住民、来街者にアンケートを実施し、巨大アートが景観へ与える影響を検証した結果、おおむね前向きの結果を得ることができました。

「品川の月」壁画制作の様子
「品川の月」壁画制作の様子

天王洲アートフェスティバル企画

 「品川の月」は掲出期間が6カ月で終わってしまうため、同時進行で次の企画を始める必要がありました。単独の巨大壁画だけではやはりアートの街とは言い難いという意見と自身の実感もあり、また、複数箇所で実施した場合の効果検証も必要になるとの考えで、地域内で壁画が描ける壁面を探し、所有者との交渉をスタートさせました。建物所有者からすると、アートを掲出することで建物の価値が下がるのではという懸念もあり、いずれの所有者も慎重になっていましたが、掲出中の作品に対するアンケート調査の結果等を示しながら、少しずつ理解を得ていきました。

地域としてのアート活用計画

 前回の品川区景観審議会において、次回以降のアートによる街づくりの取り組みは、地域のアート活用計画を示した上で進めることとの意見が付されており、アートフェスティバルを企画するということは、アート活用計画の立案が必須ということになります。品川区の景観行政は都市環境部 都市計画課 景観担当という部署が担当しており、当時の熱血係長に「せっかくやるなら景観重点地区を目指そう」と言われ、すぐにその気になったと記憶しています。ただ実際は簡単ではなく、国の法律(景観法、投影広告物条例ガイドライン)、都の条例(東京都屋外広告物条例、水辺景観形成特別地区)、区の計画(品川区景観条例、品川区景観計画)などとの整合性を図りながら、さらに天王洲ISLE街造り憲章、街づくりマニュアルとも連携し、「藝術国際都市・天王洲」の形成をテーマに掲げて活用計画を作成しました。

天王洲地区景観まちづくり研究会(左、中)、アイデアブック

天王洲地区景観まちづくり研究会

 活用計画作成の作業と並行して景観重点地区を目指す核となる組織として、「天王洲地区景観まちづくり研究会」が発足し、各団体の代表者、学識経験者が、街の景観にどのような課題があり、どのような街の景観を目指すのかという議論が始まりました。大枠の議論に加えてアートフェスティバルの次期開催とそれに合わせた活用計画の内容も話し合われましたが、現代アートはアートなのか、グラフィックとアートの違い、誰が作品の決定をするのかなど、私を含めてアートの専門家ではない人がアートを論じる難しさを痛感しました。最終的には2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会への機運醸成も含めてやってみて、その結果で議論を継続するということで地域の合意が得られ、「天王洲アートフェスティバル2019」の掲出期間は東京2020オリンピック終了予定の2020年7月31日となりました。

『”The Shamisen” Shinagawa 2019』 ARYZ  /  TENNOZ ART FESTIVAL 2019
『”The Shamisen” Shinagawa 2019』 ARYZ  /  TENNOZ ART FESTIVAL 2019

天王洲アートフェスティバル 2019

 2度目の景観審議会、屋外広告物審議会を経て、5カ所の巨大壁画、屋内通路の壁画、橋梁へのアート写真を掲出する天王洲アートフェスティバルが2019年2月、無事に開催されました。このイベントはARYZ(スペイン)、Lucas Dupuy(イギリス)、Rafael Sliks(ブラジル)という国際色豊かなアーティストに加え、国内からは著名な淺井裕介、DIEGO、松下徹らが参加し「水辺と出会う日本文化とアート」を具現化した、アートの街・天王洲を発信した意味のあるものだったと思います。複数箇所で実施した場合の効果検証も行われ、当初慎重な意見であった人たちからも概ね前向きな意見が得られ、今後の開催に大きな弾みがつきました。

『どこまでも繋がっていく』 淺井 裕介  /  TENNOZ ART FESTIVAL 2019
『どこまでも繋がっていく』 淺井 裕介  /  TENNOZ ART FESTIVAL 2019
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