景観重点地区への指定
天王洲地区景観まちづくり研究会や住民説明会、パブリックコメントの募集を行い、各審議会、区議会での審議を経て、2019年9月に品川区景観計画(重点地区・天王洲地区)に指定されました。景観形成の目標が「まち全体がミュージアムのような天王洲ISLE」と定められ、アートを活用した街づくりを推進する地区として「天王洲地区景観まちづくりルール・アイディアブック」がまとめられました。重点地区指定を受けて、天王洲地区景観まちづくり研究会の後継となる天王洲デザイン会議が発足し、これまで巨大壁画制作の手続きの際は品川区景観審議会から東京都屋外広告物審議会と付議していたものが、天王洲デザイン会議から東京都屋外広告物審議会に変更になるなど、地域が掲出したいアートを地域が決められる体制に一歩近づきました。
天王洲アートフェスティバル2020
コロナの影響で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催の1年延期が決まり、新作の掲出が時間的に可能になったことと、また当初は2020年7月で掲出期間が終わる予定であった「天王洲アートフェスティバル2019」の作品の期間延長という2つの観点で、景観重点地区指定後の初めての案件となる「天王洲アートフェスティバル2020」を計画しました。しかし、コロナの影響で海外アーティストの招聘が難しく、国内アーティストを中心に、4カ所の作品掲出を行いました。
天王洲アートフェスティバル2021・2022
「天王洲アートフェスティバル2021」では、以前から課題であった作品決定プロセスの透明化に取り組み、地域の代表者で実行委員会を構成し、場所の選定、アーティスト選定、作品決定の各フェーズにおいて地域の意見を反映させながら実施できる体制を作りました。また、作品は壁画中心でしたが、立体作品も増やしたいとの意見も取り入れ、幅広いアート作品を公共空間に設置することになりました。
「天王洲アートフェスティバル2022」においては、初めてアーティストを一般公募し、美術大学の学生をはじめ、多くの方から応募いただきました。さらにアート専門家だけでなく、品川区を含め地域の方も加わった選考委員会を立ち上げるなど、より地域に根差すアートフェスティバルを目指して進化しています。
天王洲アートフェスティバルの開催費用
壁画制作にかかる費用は、アーティストに支払う費用、画材費用、足場費用、そして屋外広告料となっており、これまでの実施経費のほとんどが、助成金と特定企業の協賛金で賄われてきました。今後、持続可能な取り組みにしていくためには、街として費用を負担する仕組み、外部の協賛企業の募集、一部コンテンツの有料化、屋外広告料の免除など、自走できる仕組みの構築が必要です。
さらなる発展を目指して
現在、壁画19作品、立体3作品が公共空間に設置され、これらを紹介するアートマップの整備、アートツアーの造成、アートグッズの開発などを行い、水辺とアートで人を呼び込む観光地としての整備にも取り組んでいます。日本各地でパブリックアートを用いた街づくり活動が活発になる中、ここ天王洲アイルでの取り組みは、重点地区指定、都市計画変更を伴い、当初考えていたよりもはるかに上回る多くの人々を巻き込み、大規模なものになりました。それゆえにほかにはない大きな壁画のあるダイナミックな景観となっており、さまざまなメディアで取り上げられる機会が増えてきています。アートを見る目的で街を訪れる人も増えてきており、これからは世界中から観光客が訪れて楽しんでもらえるように、街の環境整備もエリアマネジメントと連携し進めていきたいと思っています。アートで街を活性化させる、まだ道半ばですが、さらなる発展を目指して、これからも活動していきたいと思います。
寄稿者 和田本聡(わだもと・そう)㈱トミデン代表取締役/(一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 エグゼクティブプロデューサー