みけつくに
日本の古の時代から平安時代にかけて、朝廷・皇室に、地域の豊かな食材が献上されてきました。特に、海産物を中心とした御食料(穀物以外の副産物)を提供してきたと推定される、淡路(兵庫)、若狭(福井)及び伊勢志摩(三重)は「御食国(みけつくに)」と呼ばれていいます。
イベントからツーリズムへ
「御食国」を観光振興に活かす試みは、これまでも、さまざま行われてきました。かつて、御食国の淡路から朝廷に夏の食材「鱧(はも)」が献上されたことにちなみ、2009年度から、7月の祇園祭に合わせて淡路の鱧を京都に届ける「はも道中」が実施されています。また、2017年からは、京都府と兵庫県が福井県と三重県にも参加を呼びかけ、毎年持ち回りで「御食国・和食の祭典」も開催されてきました。
これらの活動を更に具体的な誘客活動に昇華させるため、2022年度から、御食国4地域が御食国事業実行委員会を立ち上げ、御食国をブランド化し、秀逸な食材を中心に置いたツーリズムを造成する取り組みが進められています。
離れた地域のテーマによる連携
「御食国」を「みけつくに」と呼ぶことを知ってもらうことから始まるこの事業は、地理的に離れている御食国4地域による事業であり、「共創」の考えを共有することが何よりも重要です。
鯖街道で有名な若狭には、御食国若狭おばま食文化館をはじめ地域内のモデルコースがあります。淡路では、鱧はもとより、潮流の早い漁場が育んだ天然鯛、淡路玉ねぎや淡路牛など上質な食材を使った料理に出会えるモデルプランが、そして、加工した塩やアワビ・海藻などの海産物を朝廷へと供給していた伊勢志摩は、海女さんがおもてなしをしてくれる海女小屋など、新鮮な海産物を楽しめるスポットがあります。そして、集積地である京都は、それぞれの食材を用いた秀逸な料理群が提供されています。
これら4地域の食文化とそのつながりを歴史的背景とともにストーリー化して御食国のコンセプトをブランド化することで、全体の認知度と訴求力を強化していかなければなりません。また、御食国情報をまとめて発信することも必要です(https://www.the-kansai-guide.com/ja/kansai-gastronomy/)。
そして、御食国の食材をどこで食することができるのかもご案内する必要があります。集積地である京都はもとより、料理の食材が御食国食材であることをストーリーとともに提供していただくようお店にご協力いただくことも必要です。
今年度から着手しているツーリズム造成については、御食国ブランドの上に、地域の魅力を重ね、どの地域を訪れても御食国を感じられるものとするよう、専門家の意見もお聞きし、モニターツアーも行いながら、取り組みが進められています。もちろん御食国全地域制覇となるような周遊が実現することにも期待を寄せています。2024年3月には、北陸新幹線の敦賀開業予定です。若狭(福井)は、正に御食国。この好機を活かしていかなければなりません。
「食」をツーリズムの主役へ
2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食への注目が世界的に高まっていますが、出汁や和食、発酵食や日本酒造りなど、地域の気候風土に根ざした多様な食文化が関西には受け継がれています。もちろん関西と言えば、「粉もん」も重要なアイテムであり、今の関西の生活文化に溶け込んでいます。
その土地の風土、風習、風情、風景、を感じながら楽しむ食事は旅行の印象を左右する大切なシーンです。紹介した御食国の取組みを通じて、食を観光の目的として産地を訪れる食のツーリズムのラインアップを一層増やしていくことの大切さを再認識しています。
その豊かな自然に育まれた食文化や歴史を辿りながら、現地で味わう至高の料理の数々。知的好奇心と食欲を存分に満たす「美味巡礼」の旅へ、いざ。
寄稿者 東井 芳隆(とうい・よしたか)(一財)関西観光本部 / 代表理事・専務理事