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コロナ5類移行後の観光振興|(公社)日本観光振興協会理事長 久保田穣氏

コメント

訪日、人材、DX…どう解決する 

 ——コロナが5類となったが、観光業界の現状について。

新型コロナウイルスが2類から5類に引き下げられるということは、いろいろな対応やケアはまだ必要ではあるが、ある意味コロナ前の平時の状態になっていくということ。今は、多くの人が自主的に感染対策を行いながら、さまざまな場所で旅行を楽しまれている。各地域に話を聞いても、まだら模様で特定の場所に集中しているとも言えるが、全体的にお客様の増加の傾向が顕著になっている。

 一方で、少し心配なのがアウトバウンドだ。海外旅行の費用が円安の影響もあり高いというイメージもあるが、日本人が外国に出るという機運が高まっていないと共に、感覚としても海外旅行が戻っていない。もともと海外旅行をする人の多くは、経済的に困窮しているわけではない。先日にJTB総合研究所が海外旅行に関する意識調査を発表していたが、今後海外旅行を止めるという人が3分の1、考慮中の人が3分の1、徐々に始めていくという人が3分の1いるという。海外旅行をする人がどんなに増えてもの3分の2程度となると、双方向交流という観点でも良くない。一方通行となると海外からの航空便も増えない状況が続き、せっかく伸びているインバウンドの効果も弱くなる。アウトバウンドをしっかり取り戻していくことがインバウンド、国内旅行の活性化に、ひいてはサステナブルな観光につながっていく。

 観光庁は、3月15日にアウトバウンドの本格的な回復に向けた集中的な取り組み、5月10日に「今こそ海外!宣言」の発出等を行った。日本旅行業協会(JATA)や旅行会社、航空会社などと連携し、「#今こそ海外」を共通の旗印とした情報発信や、「パスポート取得費用サポートキャンペーン」を行うなど機運を高める取り組みが促進されている。今は若い人を中心に有効期限が切れたパスポートを申請しようとパスポートセンターで行列をなしているという報道もあるが、早期に戻ることを期待している。

 ——今後、観光業界はどう変わっていくのか。

 インバウンドを考えると、日本の魅力はすでに国際的な評価は高い。受け入れる施設やコンテンツがそろうに連れて、それなりに日本を訪れる人も戻るだろう。だが、課題も多い。特に人手不足は深刻だ。観光以外の業界からも人手不足に対する声はたくさん出ているし、産業間の人材奪い合いにも発展している。労働力の確保は、一朝一夕では解決できない問題であり、多くの要素が重なっている。

 観光は、ホスピタリティなど多くの部分で労力を割いている現状があり、典型的な労働集約型産業とも言われてる。他産業では、春には基本給の水準を上げること(ベア)を発表し、そのための動きを進めているが、観光産業ではまだ賃金を上げる動きは一部である。また、労働力のマネージメントは根本的な所から見直さなければならない。例えば、外国人労働者は世界各国に様々な分野に働きに出ているが、日本は円安の影響もあり、選ばれない地域になっているとも聞く。より高い水準で給料を支払い、しっかり働ける役職やタスクなども整備する必要がある。

 人材不足に対しては、ITやDXを活用しながら、人を介在させずに効率性を上げることも有効だ。観光の仕事を進める上では、ITやDXで人を介さない仕事、外国人労働者で対処する仕事、高い賃金を払える高度な仕事などに切り分ける人材のマネージメントが今後は今まで以上に重要になってくる。

 ——現在、観光産業では高付加価値の取り組みが進んでいるが、商品価格や賃金はどこまで上げられるか。

 商品に関しては、少なくとも2倍は取っても良いポテンシャルがある。東京・歌舞伎町では、1泊300万円超えで販売しているホテル客室もあるが、そういう極端に尖ったことも考えられるが、全体的に尖ってほしいという意味ではない。日本国内における一般的な水準のサービスで、例えば東京や大阪、京都のホテルであれば、現状が1泊2万円ぐらいのものが、4、5万円でもサービスの質が高いと判断されれば価格は受け入れられる。為替レートの問題もあるが、ニューヨークやロンドンでは、日本のサービスの質に満たない場合でも10万円程度の金額になる場合は多々ある。旅館の場合は、食事が朝夕付くなど、付帯サービスは多く、本来は現状の2倍以上はいただかないといけない。外国人においては、価格が安いと感じることが不安につながることもある。

 商品の値上げで顕著なものとしては、インバウンド向け鉄道周遊パス「ジャパン・レール・パス」があり、これは最大で77%値上げを予定している。これまでは安すぎた感があり、インバウンドの現状を見る限りでは値上げの影響はないはずだ。追加料金で新幹線の「のぞみ」が利用可能にはなるが、サービスが大きく変わらなくても値上げできる状況にあることを鑑みると、今こそ価格も世界水準を目指しすべき。値上げすることに躊躇する必要はないし、十分今のサービスに自信を持ってよい。

 賃金は、他産業との関係もあれば、それぞれの企業の経営者が通常もらっている給与水準との兼ね合いもある。経営者が高くなければ従業員も相対的に高くならならいこともあるが、他産業のベアが今春3%台だったこともあり、着実に上げていかなければ、人材確保、人材維持の面でも遅れをとることになる。これまで低かったのであれば、少し上回るぐらいなことをしなければ、優秀な人は来ないし、今後も来ない、稼げる魅力がない産業ということになる。人材が観光振興の阻害要因になりかねない。

 ——現在の日本観光振興協会の取り組みについて。

 私どもの協会は、歴史的には地域の観光組織を統一するというところでスタートした。地域の受け入れ体制や、地域の観光振興をしっかりと支援する取り組みを多くしている。例えば、課題であるDX化への対応として、DMOや小さな地域でも使えるようなマーケティングソリューションシステムを提供している。全国観光情報データベースはあらゆる人が使えるようにしており、発信する側、受信する側が利用しながら販売や情報提供に生かせる。より使いやすいツールへと整備していく。

全国観光情報データベースウェブサイト

 今後は、需要の平準化をどう進めていくかも考えなければならない。曜日、季節、地域の平準化があるが、これは一つの組織でできることではなく、皆さんに声掛けしながら共に進めていきたい。全国を慣らして平準化することで、オーバーツーリズムの課題解決、全国各地の観光事業者の経営に資することにつながる。われわれは、皆で取り組む状況を作るナショナルセンターの役割を担っていく。

全国の観光地の皆さまにメッセージを送る「いつか“キット”会いたい!旅はグーだ!プロジェクト」

 ——日本各地の観光振興の取り組みの中で、先進的な事例は。

 何をもって先進的かということはあるが、今後は高付加価値が求められる点で言うと、アドベンチャーツーリズムを挙げたい。今年9月11~14日には、北海道で世界大会が開かれる。北海道や沖縄、長野といった地域では取り組みが加速しており、特にコロナの時には多くのガイドの人が仕事を失っていた通訳案内士などガイドの人たちがそれなりのインカム(収益)がある。質の高い商品を提供し、稼ぐ力を発揮できていることは目を見張るものがある。これは、インバウンドの人たちの満足度が高め、日本でお金を使ってもらう環境、状況づくりにもつながっていく。アドベンチャーツーリズムを通じて地域のけん引者が増えることも期待している。

 これはコロナ前からの取り組みでもあったが、都市部を中心に富裕層に向けたホテルの開業が急ピッチで進んでいる。たた高級ホテルが増えているという事実を眺めるだけでなく、地域がそれを利用しながら、より高付加価値な商品を作って販売し、お金を使ってくれる人をリピーター化してもらいたい。都市部に限らず、地域でも観光庁の補助金を使って高付加価値化をはかる旅館が増えてきている。これもインバウンドを含めた誘客のきっかけとなる大事な取り組みであり、地域を巻き込んだ取り組みへと発展すしなければならない。

 ——日本の観光の課題は。

 先ほどDXや人材不足を挙げ、経営に関する問題ばかりになるが、債務問題は大きな課題だ。コロナ禍で多くの観光事業者が多くの借金を抱えることとなった。観光産業はほとんどが中小企業であり、ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保のコロナ融資)の返済も始まることから、抱えている債務問題を解決することは急務である。

先日に日本旅館協会の大西雅之会長と話したところ、全国の旅館を平均値で見ると、債務の返済には90年はかかり、攻めの投資などには厳しい状況と言われた。さまざまな金融面の支援の仕組みを利用しながら早く減らす施策を取るとともに、将来的に収益性が高まる可能性がある前向きな投資やビジネスをしていくことも必要だ。地域のコンサルティングや金融機関、商工会議所のようなアドバイスをしてくれる場所もあるので、有効に活用してほしい。観光事業者が強靭化されることがサステナブルにもつながっていく。今こそ皆の知恵や協力が必要な時だ。

 ——日本の観光が目指す姿とは。

 一言で言うと、観光は豊かな地域社会をつくる、その基礎産業になるべきだ。地域や企業はサステナブルなものとなるため、働く人たちの適材適所での活用、平均以上の給与水準、適正な休日の設定などをしながら、豊かな生活ができる環境を用意しなければならない。それが、より良い地域、サービスにつながり、多くの人が観光地に訪れて消費をし、経済の正しい循環を作っていく。

 また、観光産業は、地域の経済エンジンとならなければならない。大きな工場を誘致したいという話もあるが、全国各地が誘致できるわけではいない。農業が盛んな地域もあるが、消費を継続するには人口減少が進む中で、インバウンドを含めて地域に人が訪れてその価値を認めてもらう必要がある。観光はそういう意味でも、多くの地域が豊かでサステナブルな地域社会を作るエンジンとなるし、日本の観光はエンジンになりえる力を持つ。

 ——今年のツーリズムEXPOジャパン2023は大阪で開かれる。

 今回の開催テーマは「未来に出逢える旅の祭典」。コロナ禍を経て旅の未来像を発信していく契機として、2025年に開かれる大阪・関西万博につなげていく。大阪では2019年にも開催したが、地域の協力もあり大いに盛り上がった。大阪・関西万博の機運醸成の時期としても開催は良いタイミングである。

 万博への機運は、東京にいるとまだ感じないところはあるが、関西に行くと高い熱量を感じる。関西からツーリズムを通して全国に高い熱気を波及できるような機会にしたい。会場におけるブースの出展についても順調で、ほぼ目標に近い感じになりつつある。

 ——最後に、観光事業者や関係する人たちに一言を

 観光は、地域により濃淡はあるが、地域を総合化したサービス産業であることは間違いない。明日を豊かにするための経済のエンジンであることを皆さんが理解しながら政策や事業を進めていきましょう。京都市の門川大作市長は、観光は地域政策の総合的な到達点だという趣旨を言われている。例えば、街づくり、道路整備、医療の備えについても、全て最終的には観光につながる。観光のためにしているという言い方ではないが、最終的に観光につながりそこで経済効果を生み出す。地域経済を管理するという意味でも、観光に携わる人はそのような循環する機能を観光が持っているという観光の本質を理解しながら取り組みを進めなければならない。

久保田穣(くぼた・みのる)=東京都出身、東大経卒。1979年4月国鉄(当時)入社。執行役員長野支社長などを経て、2011年6月JTB常務、2016年6月から日観振副理事長。2020年6月から現職。

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