農泊総合情報プラットフォームの構築など推進
農林水産省(農水省)は6月2日、農泊推進の今後の方向性を検討する「第7回農泊推進のあり方検討会」を開いた。農業、旅行、大学、観光関連団体などから専門知識を持つ8人の委員のほか、農泊に関連する省庁(総務省、文化庁、観光庁、環境省、水産庁、林野庁)から担当者が出席。2023~2025年を推進期間とする農泊推進実行計画(案)の説明や、今後の方向性を見据えた委員を交えた議論を行った。今後は、全国で621ある農泊地域の情報を一元化するとともに、商流を意識した農泊総合情報プラットフォームの構築や、農泊人材の確保・育成、情報発信、農泊スタイルの提示などを行い、2025年度までに農泊での700万人泊を目指す。農泊推進実行計画は、今回の検討会の意見を踏まえて修正、正式発表される。
農山漁村イノベーションで新たな消費を生む「農泊」
農林水産省が1992年にグリーンツーリズムに係る取り組みを開始してから 約30 年、持続的なビジネスとしての農泊の推進のための農山漁村振興交付金による支援開始から5年が経過している。現在は、コロナ禍をなどを背景に、農村を取り巻く環境は大きく変化。多様な主体が参画し、地域資源を活用して新たな事業を創出する「農山漁村発イノベーション」による、農業の周辺産業も含めた新たなライフスタイル「半農半 X」の仕事づくりの必要性が認識されている。「農泊」はその実践の最右翼に位置し、観光産業とのタイアップによる、関係人口・消費需要の拡大で、地域に飲食や清掃などの幅広い業種の雇用を創出し、所得確保をもたらす代表的な取り組みとなっている。
農泊を持続的なビジネスにするには
農泊推進のあり方検討会は、「持続的なビジネスとして取り組む地域を 500 地域創出する」とする当初目標を達成した農泊推進政策の今後の方向性について、有識者の意見を聞く場として開かれている。農泊の推進に必要な地域の実施体制の在り方やインバウンドの受け入れ拡大に向けた取り組みを検討するため、2018年12月に第1回を開催し、19年6月には中間取りまとめを発表。コロナ禍以降は、検討会を中断していた。
「成長期」を農泊推進実行計画の実行で700万人泊に
検討会の冒頭、農水省の青山豊久農村振興局長は「今年3月に観光立国推進基本計画の中で、農泊は2025年度に700万人泊の目標を立てている。関係者が連携して取り組むべき事項は、実行計画としてまとめている。計画を着実に進めていく」と話した。
検討会では、農水省農村振興局が取りまとめる農泊推進実行計画(案)の内容の確認のほか、ポイントを説明。700万人泊(訪日外国人旅行者の割合10%)の目標達成に向けて、農泊500地域の創出までを草創期、2023~2025年を成果を示す「成長期」と位置付け、今後は①(コロナで疲弊した)農泊地域の実施の体制を再構築②(これまでに整えたコンテンツを広く可視化し)まずはわが農山漁村(むら)に来てもらう③(訪れた人にとっても)いつも、いつもまでも居て楽しめる農山漁村をつくる—に取り組む。コロナ禍からの復活とコロナ禍前を超える農山漁村地域のへの誘客の実現、農山漁村の活性化、所得向上につなげていく。
具体策としては、都道府県ネットワークの構築、専門家の派遣、地域協議会の登録制度の実現、地域おこし協力隊員等の活用推進、農泊版DXの推進、農泊総合情報プラットフォームによるマーケットに対する農泊の可視化、「インバウンド重点受入地域」の指定、農泊地域の範となる新たなモデルの実証、関係省庁の観光関連施策との連携と役割分担、資金調達のモデル提示、「旅マエ・旅ナカ・旅アト」における消費機会拡大などを展開する。
農泊地域の延べ宿泊者数を増加させる3つの視座として、①来訪者のリピーター化②新規来訪者の獲得③来訪1回あたり平均泊数の延長—を挙げた。その他、これらの施策の実施の基盤となる地域協議会への取り組み持続かに向けた支援が行われる。
同検討会における委員任期は今年度末まで。第7回となる今夏で計画が取りまとめられたことから、年度内に行う予定は今のところはない。
【委員からの意見】
コミュニティーベースの活動を 大江靖雄委員長(東京農業大学国際食料情報学部教授)
アントレプレナーシップ(起業家精神)も必要だが、自分だけがもうかればいいということではない。視野を広げて新しいものを地域から生み出すコミュニティーベースの活動が必要だ。またアンダーバリューではなく、継続が重要だ。
地域で食や文化に触れるツアーを販売 尾本英樹委員(全国農業協同組合連合会常務理事)
労働力支援をベースとした取り組みをJAグループとして行っている。グループである農協観光を中心に1週間の滞在をベースにした都市部からのツアーを造成し、地域で食や文化に触れてもらえる取り組みを進める。JAでは担い手不足の解消を目的とした農業支援隊は、昨年にJTBと連携する中で5万人超が入った。大分県では農泊モデルの構築が進んでいるが、好事例の水平展開も必要だ。
消費拡大に向けて宿泊・体験価値創出を 上山康博委員(日本ファームステイ協会代表理事)
われわれは、アントレプレナーシップを持つ人がいる地域を支援する団体であり、原点に戻り、収益を上げて地域に波及できる動きになることを期待している。農泊の大きな課題は消費額の拡大。宿泊、体験の価値は低い価格で提供されていたが、安いから良いではなく、高くても理解いただけるような宿泊、体験の価値創出につなげていかなければならない。
滞在に耐えるる地域づくりを 木村宏委員(北海道大学観光学高等研究センター教授)
人材施策をより具体的にし、滞在に耐えうる地域にしていかなければならない。また、農泊を四半世紀以上取り組んでいる人に対し、サービスの高質化や単価向上をどうすればできるかという視点、提案も必要。農泊は子どもの情操教育にもつながるもので、若い人による街づくりと併せて取り組んでもらいたい。
価格の見直し、柔軟な体験の販売を 野浪健一委員(日本旅行業協会〈JATA〉)国内旅行推進部長
日本人は価格を高くすることは罪悪感があるが、一方でランチ1食100万円という富裕層がいるのがインバウンドだ。高くなる理由を作り、付加価値あるものは売れる。リピーターづくりでは、近隣の宿泊施設も活用してほしい。農泊がフルパッケージである必要はなく、例えば旅館で泊まる人にオプショナルとして古民家での農業体験の提案もできる。販売に関しては、餅は餅屋に任せていい。プラットフォームでは発信に耐えうる情報を整理、提供しなければならない。
インバウンドのパターン分析を 平野達也委員(国際観光振興機構〈JNTO〉企画総室長)
旅行商品化をする中、OTAやランドオペレータ―からのフィードバックがある。情報の横展開は全体の底上げになる。訪日のゴールデンルートは6割の回復だが、オーバーツーリズムの声も聞こえている。地方便が回復していない中、2次交通が重要になる。観光庁との連携を進め、コンテンツを外国にしっかりうれる形を構築することが急務である。台湾は78%のリピーター意欲があるが、週末の傾向がある。インバウンドと一言で言うが、全てが平日に来るわけでない。パターンの分析は必要だ。
昔ながらの知恵を集め、農泊の格を上げる 矢ヶ崎紀子委員(東京女子大学現代教養学部教授)
全国の農泊の範となるモデルは、世の中の注目につながる。それぞれのアクションをモニタリングしながら、PDCAの改善のサイクルを回してほしい。農村漁村であるからにはサステナブルな要素が随所に必要。環境負荷をかけないや、ロスを出さないなど、昔ながらの知恵を集めてほしい。横文字のSDGsでなく、農山漁村の知恵となれば、世界に打って出るにも日本の農泊の格が上がる。また、都会の人、同じ地域の人が農泊地域に訪れ、互いの理解を深めてもらいたいし、その中で大胆な取り組みも期待している。
理屈より実行を デービッド・アトキンソン委員(小西美術工藝社社長)
理屈は理屈だ。実行できるかだ。