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伝統「肘折こけし」歴史と特徴

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肘折系こけしの祖

伝統こけし11系統
伝統こけし11系統

 お土産として定着している人気工芸品の「こけし」、東北の温泉場を中心に作られています。東北には11系統の伝統こけしがあり、こけし工人がその土地ごとのこけしの個性的な様式を発展させて確立し、その伝統を現在まで守ってきました。その11系統の中の一つ「肘折系」こけしの歴史と特徴をお話しします。

 肘折こけしの開祖は初代 柿崎伝蔵という肘折の木地師です。元の名を八鍬酉蔵(やくわとりぞう)と言いました。酉蔵は1825(文政8)年に肘折で誕生。

 12歳の頃、隣の柿崎伝蔵の一家が離村して空き家となったため、肘折村の相談によって家督と姓名を継ぎました。その後、宮城県の鳴子で木地師として修業し、肘折に戻り、明治10年頃に開業したと言われています。

肘折系こけしの確立~2つの系統を融合~

肘折系工人系統図
肘折系工人系統図

 山形県村山の井上藤五郎は明治13年に柿崎伝蔵の弟子になリました。伝蔵の元で学んだ後に、宮城県遠刈田(とおがった)で修行し、伝蔵の没後に肘折に戻りました。

 そして、伝蔵の家名を継ぎ、鳴子と遠刈田の様式を融合させて、独自のこけしを作り始め、肘折系こけし様式の主流を完成させました。この2つの系統を総称して「肘折系こけし」と呼ばれています。

 伝蔵のもう一人の弟子、奥山運七は「うんつこけし」を製作し、素朴でひなびた雰囲気のこけしは肘折こけしの名声を高めました。奥山運七系列は、奥山喜代治、奥山庫治へと継承され、現在肘折唯一のこけし工人、鈴木征一工人 へと引き継がれています。

 この他、肘折こけしには明治30年代に佐藤周助を祖とした「佐藤周助系列」、佐藤文六を祖とした「佐藤文六系列」があり、これらの系列は県外で活躍する工人によって継承されています。

肘折こけしの特徴

肘折こけしの制作過程
肘折こけしの制作過程

 肘折系のこけしの様式は、120年以上前から忠実に継承され続けています。形状は鳴子系と言われており、胴部は太めの円柱形、肩には段が入っています。頭部をくり抜き内部に空洞を作った上で、中に小豆を入れて振ると音が鳴るようにできています。描彩は遠刈田系と言われています。

 肘折こけしを語るうえで欠かすことのできない特徴、それは個性あふれる表情です。顔の描彩は工人の個性や持ち味が強く表れます。その背景には、精神風土や生活背景が色濃く反映されています。工人によって描かれる顔の違いとその表情の豊かさが肘折こけしの魅力と言えます。

歴史と伝統を受け継ぐ

鈴木征一さん
鈴木征一さん

 肘折系こけし工人は全国で約50人ほど、現存されている方は8人ほどです。そして、現在肘折の地でこけしを作っている工人は鈴木征一さんただ一人となってしまいました。鈴木さんは1972(昭和47)年5月に奥山庫治工人に弟子入り。5年間の修行を経て25才でこけしづくり工人となりました。

 1979(昭和54)年には県知事賞を取り、2015(平成27)年、2022(令和4)年「みちのくこけしまつり」、2019(令和元)年「全日本こけしコンクール」にて、伝統こけし部門で3回の内閣総理大臣賞を受賞。他にも様々な賞を受賞しています。

 こけしは何十種類もあり、1メートルを超える大きなものから、キーホルダーになる数センチのものまであります。

全国こけしコンクール内閣総理大臣賞
全国こけしコンクール
内閣総理大臣賞

 鈴木さんの工房には肘折こけしを求め、海外のコレクターや観光客も多く訪れる。年間200本ものこけしを作るが、注文してから2年も待つ特別注文の客もいるという。鈴木さんはこけしの他にも木地玩具を製作する工人でもあります。その作品は、大砲や人形笛、けん玉、入れ子など多くの種類がある。玩具からも技術の高さが見て取れる。「玩具を作れるのも修行をしたから、玩具は手数がかかるけど、おもしろい」という。

風土を感じるオリジナルこけしの制作

 「肘折こけし」は風土そのもの、ここに来て肘折らしい雰囲気も感じ取ってもらいたい」と話す。こけしづくりはそれぞれの工程で様々な道具が使われています。使用しているカンナやパンカキなどの道具は鈴木さんの手作り、こけし工人はそれぞれにあったオリジナルの道具を自分の手で作る。そのため道具を作れない工人はいないといいます。

鈴木征一さん制作の玩具
鈴木征一さん制作の玩具

 そして、こけしに命を吹き込むとも言える顔の絵付けには集中力が欠かせない。そのため、顔を描く作業は決まって早朝に行うそうです。

 工人として肘折こけしを作り続けるうちに、伝統を守りたいという想いが強くなってきたそうです。常に新しいこけしを作ることも忘れてはいない。遊び心が伝わってくるユニークなものも多い。

 肘折にお越しの際は是非「鈴木こけし工房」に立ち寄っていただき、肘折こけしの魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
【参考:11系統】
宮城:遠刈田系・弥治郎系・鳴子系・作並系 福島:土湯系
山形:蔵王高湯系・山形系・肘折系 秋田:木地山系 岩手:南部系 青森:津軽系

鈴木こけし店に並ぶこけし
鈴木こけし店に並ぶこけし

鈴木こけし工房(肘折温泉)
住 所:大蔵村大字南山2126ー291
連絡先:TEL0233ー76ー2217
U R L:https://hijiori-touji.jp/souvenir/suzuki/
(不在の時も多いので事前に電話してからお伺いして下さい)

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=390

寄稿者 小林孝一(こばやし・こういち) 大蔵村 観光プロデューサー

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