東京都交通局は6月10日から、AIによる忘れ物検索サービス「find chat」を導入する。スタートアップ企業のfind(東京都港区)が開発した、「落とし物クラウドfind」を活用する。
都営交通の利用者はスマートフォンやパソコンを通じて、チャット形式で24時間いつでも忘れ物の問い合わせが可能となる。すでに京浜急行電鉄、京王電鉄、JR九州のほか、大手タクシーグループ、日本交通などがシステムを採用している。
対象となるのは都営地下鉄、都営バス、東京さくらトラム(都電荒川線)、日暮里・舎人ライナーの車内や駅構内での忘れ物。チャット上で忘れ物の画像を添付すると、AIが品目や色などの特徴を自動で判別する。
また、日本語に加え、英語、中国語(簡体字)、韓国語の4言語に対応しており、訪日外国人の利用も見込まれている。
利用者は、専用サイト「find chat」にアクセスし、メールアドレスによる認証登録を行ったうえで、Webフォームから忘れ物の情報を送信。オペレーターが検索を行い、午前9時から午後10時までの間にチャットで回答する。
午後9時以降の問い合わせには、翌日以降に順次対応する。見つかった忘れ物は、都営地下鉄の駅や都営バスの営業所などで受け取ることができる。
駅や営業所で、職員が忘れ物の写真を撮影するだけで、AIが品名や特徴を自動でシステムに入力する仕組みが整い、作業の効率化が期待されている。
交通局が公開した業務フロー図によると、駅員やバス営業所の職員は、落とし物を撮影してシステムに登録するだけで、品目や色といった詳細な特徴の分類はすべてAIに委ねられている。その後、利用者がチャットで問い合わせを行い、画像検索によって該当する物品が見つかれば通知され、引き渡しに至る──というのが一連の流れだ。 しかし、この仕組みには致命的な欠陥があるのではないか。AIによる分類結果に対して、人間が確認・修正を行うプロセスが一切存在しないのである。つまり、AIが誤認すれば、その落とし物は「存在しなかったもの」として扱われてしまう。利用者には再問い合わせや照合の機会もなく、唯一のマッチングの機会がAIの判断に全面的に委ねられている現状は、極めて不安定で非人間的な運用と言わざるを得ない。 本来、公共交通機関の忘れ物対応は「人による信頼」と「確実な返還」に基づくべき業務である。省力化や効率化のために、人の確認を完全に排除してはならない。AIの導入はあくまで支援手段にとどめ、最終的な判断と確認には必ず人の目が介在すべきだ。 都営交通による今回の新システムは、一見するとスマートで先進的な取り組みに見える。だが実際には、「乗客の利便性向上」という名目のもとで、現場の負担軽減とコスト削減を最優先したシステム設計ではないかと疑わざるを得ない。