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秋田犬を活用した観光振興の取り組み

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 大館市は地方における人口減少対策の有効な解決手段として観光を選択しました。2016年に地域連携DMO「秋田犬ツーリズム」を立ち上げ、マーケティングデータを活用したインバウンド受け入れに本格的に取り組みました。

 まず取り組んだのは秋田犬という唯一無二の資源を活用した情報発信。動物名を関したDMOの名称や秋田犬の擬人化アイドル「MOFUMOFU☆DOGS」の動画配信などで一気に知名度を上げ、インバウンドをはじめとした地域への来訪増加の下地作りをしました。

 国のインバウンド政策とも相まって、来訪者も増加し観光振興による地方創生が現実味を帯びた矢先の2020年、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発出など、観光需要が一気にしぼんでしまいました。

 しかし、今振り返ってみると、コロナ禍の3年間は我々に観光の本質を読み解き、取り組むべき方向性をしっかり考えさせる時間だったのではないかと感じています。

大館市の位置

コロナ禍の中、したたかに準備

 大館市はコロナ禍の3年間、歩みを止めることなく、来るべきウイズコロナでの往来拡大に向けてしたたかに準備をしてきました。特に、忠犬ハチ公を介した東京都渋谷区との連携はこの3年間で大きく前進しました。2020年8月、JR渋谷駅前の観光案内所として利用されていた鉄道車両(通称「青ガエル」)が大館駅前に移設。2022年5月には渋谷区と観光・文化・産業・スポーツ等を通じた交流促進協定を締結。そして今年2023年は忠犬ハチ公が生誕100年を迎える記念すべき年で、これを記念した各種事業が大館市と渋谷区で行われることとなっています。

渋谷区との協定締結

 国や関係機関と連携した広域観光フォーラムも開催しました。第1回目は2020年10月に「GoToトラベル感染症対策とWithコロナ時代の観光を考える」というテーマの下、沖縄県で開催されていたツーリズムEXPOジャパン会場からの中継講演も交えて開催。感染症対策として、日本初の集団検疫検査(抗原検査)を実施するなど、全国に先駆けた取り組みとして注目されました。第2回目は2021年11月に「まちとまちをつなぐ♫~空から道から、そしてレールから~」をテーマに開催。多くの自治体や団体と目指すべき方向性を共有して連携することの大切さを再確認するとともに、その中心的な役割を担うことを決意しました。第3回目は2022年11月に「空港が紡ぐインバウンドの取り組み」をテーマに開催。大館能代空港や秋田空港、青森空港の活用に向け、地域同士がネットワークを構築し、北東北周遊などの観光振興で地方創生を目指す決意を新たにしました。

地域連携研究所を通じた自治体や企業との関係強化

 また、2021年に「一般社団法人地域連携研究所」が設立されました。この法人は従来からの「『大都市と地方』の関係で地方振興を図るのではなく、東京に頼らず『地方の地域同士』」が直接つながり、ネットワークを構築し地域の活力を生み出そう」という考えの下、既存の「一般社団法人北前船交流拡大機構」の兄弟組織として設立されたものです。現在、趣旨に賛同する自治体会員は40を超え、大館市が自治体会員制度の会長を務めています。今年度は企業会員制度も設け、官民一体となった地方創生に取り組む体制ができ上がりつつあります。

 2022年10月「一般社団法人北前船交流拡大機構」との共催によりフランスのパリ市においてフォーラムを開催しました。このフォーラムは食文化を中心に広く日本文化を世界に発信することで日本への興味を喚起し、訪日観光客および日本産食材の輸出拡大に繋げ、日本各地方の振興を図ることを目的に開催したものです。この取り組みがきっかけとなり、EU日本政府代表部やアルザス・欧州日本学研究所(CEEJA)との連携が生まれ、観光を切り口にした日欧の地方同士の交流拡大はもちろんのこと、産業や教育への広がりも見えてきました。

第1回秋田広域観光フォーラム

北東北の中心、価値ある目的地を目指して

 大館市は北東北の中心に位置し、秋田市、盛岡市、青森市までは車で2時間圏内です。また、周囲には世界自然遺産白神山地、世界文化遺産である北海道・北東北の縄文遺跡群、十和田八幡平国立公園という素晴らしい資源を有する日本でも類を見ない恵まれた地域で、目的地としての価値は十分あると考えています。市では現在、白神山地の東端にあたるエリアをアウトドアフィールドの拠点と位置づけ、株式会社スノーピークと連携してキャンプ場などの整備を進めているところです。開業が見込まれる2025年は大阪万博の年でもあり、世界中の目が日本に注がれるでしょうから、この機会を活用して「日本らしい地域」である北東北の魅力を十分発信したいと考えています。

 人口減少に立ち向かうため、観光を地方創生の重要な政策として位置付けてきた大館市にとって、地域間連携による交流人口拡大の芽はコロナ禍にあっても怯むことなく前進を続けてきた結果生み出されたものであり、この動きをますます拡大させ地域への人流の拡大、外貨の獲得に向けて取り組んでいきたいと考えております。

寄稿者 阿部拓巳(あべ・たくみ) 秋田県大館市役所 観光交流スポーツ部長

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