観光は、地域における交通運輸・宿泊・飲食・製造物販・農林水産など、多岐にわたる裾野の広い総合産業であり、わが国においては成長戦略の柱、地方創生の切り札ともなっております。
わが国は自然・文化・気候・食という観光振興に必要な4つの好条件を備えた世界でも数少ない国の一つです。特に関東につきましては、海山の豊富な自然をはじめ、魅力的で多彩な観光資源があるほか、国内外を代表するゲートウェイでもある成田空港と羽田空港にあわせて鉄道や港湾・高速道路等の交通インフラが十分に整備されているなど、国内他の地域と比べましても優位な条件を兼ね備えている極めてポテンシャルの高い地域です。観光による交流人口の増大とそれに伴う経済効果については、人口減少と少子高齢化による地域の過疎化対策にも大きく貢献できます。
コロナ禍で変化した観光施策
2020年から始まった新型コロナウイルスの世界規模でのパンデミックにより国内における観光需要は大きく減少し、2019年には3188万人を記録した訪日外国人旅行者数も、2021年には25万人にまで落ち込みました。
パンデミックから3年が経過した現在、昨年10月からの水際対策緩和により、いったんは大幅に落ち込んだ訪日外国人旅行者も回復傾向にあります。先日には、観光庁が2019年当時の7割程度まで回復したことを表す統計を発表しております。しかし、全てが回復傾向にあるわけではなく、関東の観光業界においては依然として厳しい状況が続いております。
今年3月に閣議決定した「第4次観光立国推進基本計画」では、今後の観光立国復活に向けて、単なるコロナ前への復旧ではなく、「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」をキーワードに、これまで以上に「質を重視した観光」へと転換し、観光政策を推進すると掲げました。ウィズコロナとなるこれからの時代では、観光に対する意識や旅行者の行動形態に関しましても、国内外を問わず大きく変化していくでしょう。
今後、私どもが展開していきます施策につきましても、幅広い連携のもと、それら状況の変化に対応する形で取り組んでいくことが必要だと考えています。
関東エリアにおける新たな取り組み
この関東には、慶長6年(1601年)より徳川家康が整備に取り組んだ、日本橋を起点とする五街道と、その枝道として整備された水戸街道や成田街道等の脇往還(以降、五街道と脇往還を合わせて「江戸街道」という)が関東エリアを網羅する形で存在しており、現在でもこの江戸街道や街道沿いには歴史的な観光資源はもとより、食や文化など魅力的なコンテンツが豊富に点在をしています。
そこで、関東運輸局では、この関東の新たな観光振興施策の1つとして、この街道を活用した「江戸街道プロジェクト」を昨年度からスタートしました。
このプロジェクトについては、この関東において、街道観光を積極的に推進し、ブランディング化を図りながら、効果的に国内および海外に向けて発信することでの誘客促進などを目的としています。ブランディングがうまくできれば、マーケティング全般において優位性を保つことが可能となり、九州や北海道など他の地域と差別化を図りやすくなるなど、エリア全体における誘客促進につなげられます。
幅広い関係者との連携
また、街道による観光振興については、ウォーキングだけでなく車や公共交通機関等を使うことも考えると、歩道や宿泊・休憩等施設の整備以外にも、駐車場、ターミナル等交通結節点の整備も必要となります。道路管理者である国や自治体等と民間事業者団体等が余儀なく連携することは、同時に地域住民による受入環境整備への協力が進むことにもつながりますので、必然的に観光による地域ネットワークを構築することが容易となります。
そして街道観光は、地域の産業や文化、食や自然等に地域住民との交流を通して接する機会(体験)も増えますので、交流人口を増やすことにもつながり、地域経済の活性化にも大きく貢献することになります。
関東運輸局としましては、ウィズコロナ時代の新たな観光施策の一つとして、街道観光の取組の啓発と機運の醸成を目的とした「江戸街道プロジェクト」を積極的に推進していきます。
寄稿者 岡村清二(おかむら・せいじ) 国土交通省関東運輸局観光部長