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空前の人手不足にどう向き合うか。“プチ勤務化”で観光業界に新たな働き手を

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 国内外からの観光需要が拡大している昨今。観光関連の事業者のみなさんにとっては大きなチャンスにもかかわらず、十分な働き手を確保することができずにお客様の受け入れを抑制しているところも少なくありません。そこで、旅行情報サービス『じゃらんnet』を運営するリクルートでは、自治体や観光連盟等と連携し、地域一体となって人材課題の解決に取り組んできました。今回はリクルートの旅行Divisionで地域や行政に対し徹底的に向き合い、地域の活性化を担う地域創造部部長の高橋佑司がいくつかの事例を紹介しながら、観光業界の人手不足対策を解説します。

需要は伸びているのに、働き手は減少。事業者の4分の3が人手不足を感じている

 コロナ5類の移行により、国内旅行、インバウンド旅行、双方の需要がV字回復をしたことで、宿泊施設や飲食店、体験施設、土産物店等の観光関連事業者の人手不足が注目されるようになりました。その要因の一つは、コロナ禍で事業者が雇用を維持できなくなり、一部の働き手が業界を離れたまま戻っていないことも影響しています。ただし、過去・未来に視野を広げ、もう少し長いスパンで観光産業の動きを捉えてみると、別の背景も見えてきます。

 もともと日本は、コロナ禍以前から観光産業を日本経済の新たなエンジンにするべく国内外の観光需要喚起に力を注いできました。その結果、観光庁の調査(※1)によると、2019年の訪日外国人旅行消費額は、4兆8135億円で、製品別貿易輸出額と比較しても、1位の自動車(12兆円)・2位の化学製品(8.7兆円)に続く規模感です。観光産業はまだまだ伸びしろがあると見込まれており、日本政府は2030年までに訪日旅行者数を年間6000万人に、市場規模を8兆円にすることを目標に掲げています。国内外に向けたプロモーションが積極的に行われ、旅行者を受け入れる宿の新設・リニューアルも相次ぎました。

 しかし、需要が拡大して受け入れ先の“ハコ”が増えているなか、肝心の働き手は以前から減少を続けており、人手不足は観光業界の慢性的な問題でした。それがコロナ禍を経て、一段と厳しくなって顕在化しているのが現在の状況です。帝国データバンクの調査(※2)によると、2023年4月時点では、旅館・ホテルを運営する事業者のうち実に4分の3以上が人手不足を感じ、外国人労働者の積極的な雇い入れや、業務のDX化による生産性改善など、あらゆる取り組みを行っていますが、需要が急拡大するなかで既存の打ち手だけではとても解消できないレベルまで人手不足が進んでいます。また、今後も国内人口は減少していく見立てだからこそ、現在の人手不足は一時的なものではなく、業界全体が持続的に発展していくためには避けて通れない問題だと言えるでしょう。

※1…(出典)国土交通省観光庁 2019年の訪日外国人旅行消費額

※2…(出典)㈱帝国データバンク 「旅館・ホテル業界」動向調査(2022年度)

業務の中から2~3時間程度の“プチ勤務”を切り出し、主婦層やシニア層に任せる

 こうした課題感のもと、リクルートが全国各地の地方自治体・事業者の皆さんとともに現在取り組んでいるのが、ひとりの従業員が担当している一連の業務を分解して“プチ勤務”として切り出し、新たな働き手に任せるという手法です。この発想のもととなったのは、既存の“一人前”の仕事量で求人を出しても、応募がなかなか集まらないこと。雇う側としては、フルタイム勤務である程度柔軟に対応できる人を採用したい一方で、働くことには意欲的なのに、長時間勤務が難しい“潜在的な働き手”が、地域にいるのではないかと考えました。例えば、育児や介護の合間に数時間だけ働きたいという主婦層や、週5日ではなく週2~3日だけ働きたいというシニア層の方々が当てはまります。リクルートは彼らが魅力的に感じる働き方を提示できれば人が集まるのではないかと考えたのです。

 その先駆けとなったのが、三重県鳥羽市との取り組みです。地域の働きたい人を調査したところ、従来のアルバイト・パート勤務よりもさらに勤務時間・日数が少ない超短時間勤務のニーズがあることを発見しました。そこで、地域の観光事業者のみなさんに参加いただき、“プチ勤務”を創り出すためのワークショップを実施し、働き手が必要な業務を棚卸ししてもらい、その一部を単体のプチ勤務として求人化しました。リクルートは、0円でカンタンに求人募集ができる採用管理サービス『Airワーク 採用管理』や、地域で配布する「おしごとカタログ」の作成などを通して、求人の作成・告知から募集、採用支援までを一貫して行いました。

 “プチ勤務化”とは、例えば、「食事をつくる」という業務にて、業務内容を丁寧にひも解いていくと、「食材の発注」「食材の仕込み」「調理」「盛り付け」「配膳」…といくつかの工程に細分化することです。“プチ勤務化”をすると、専門の知識・スキルが必要な業務と、やり方を教われば対応できる業務に分けられます。ある宿泊施設では、料理の「盛り付け」業務を“プチ勤務”として切り出して、夕食の準備で厨房が忙しい時間帯だけの盛り付け担当を募集し、採用に成功しています。

 また、別の宿泊施設ではチェックインが集中する土日祝の午後3時~5時勤務という条件でフロント業務を切り出し、”プチ勤務化”をしました。一般的なアルバイト・パートよりも短い時間で働きたいという人から応募があり、忙しい時間帯だけ効率的に人員補強を実現しています。

都心部の副業人材を確保し、「SNSマーケティング」などの業務強化も可能に

 鳥羽市の事例を発展させ、地域外で暮らす人へも”プチ勤務”をお任せしているのが、岐阜県の事業として高山市で実施した取り組みです。こちらでは、高山市内の宿泊施設を対象に、「①宿の中で対応が必要な業務を地域で暮らす人向けにプチ勤務化」するだけでなく、「②宿の外でも遂行できる業務を地域の外で暮らす人向けにプチ勤務化し、リモートワークで任せる」というスキームに挑戦しました。

 具体的には、SNSマーケティング、ECサイトの運営、パンフレットやWebサイトのデザインなど、高山市内ではスキルを持つ人が少ない、デジタル・クリエイティブ系の専門業務を、リクルートが運営するふるさと副業・社会人インターンのマッチングサービス『サンカク』で募集しました。すると、求人公開された時点で4求人に対して104名もの応募がありました。今回募集された求人に関連する業務経験がある人は都市部に集中しているため、都心の有名企業で働く人からの応募が多数あり、募集企業の方々は大変驚かれていました。

 高山市で実施した取り組みから分かるのは、専門業務を”プチ勤務”として切り出し、仕事の任せ方を工夫すれば、地方の中小企業でも高度な専門スキルを持つデジタル人材・クリエイティブ人材を獲得できる機会があるということです。「都会の本業で培ったスキルを活かし、地元に貢献したい」「地方を元気にできるような副業がしたい」と考えている方は多く、普段はなかなか手が回らない業務を彼らの力を借りて進めていくことも、地方の観光事業者にとって有効な戦略のひとつだと言えます。ただし、彼らに仕事を任せるためには、デジタルツールやデータ活用を進め、リモートワークでやり取りできるような環境を整えることが必要です。それが、地域外の人材を獲得する近道です。

 しかし、今回ご紹介した2地域の取り組みを進めていくにあたっては、「分業を進めるとおもてなしの品質が下がるのではないか」「デジタルを活用した採用なんてやったことがないので、良く分からない」といった意見が事業者からの声としてあがることもゼロではありませんでした。ただ、それでも地域のみなさんが取り組んでいただいたのは、「選り好みをしている状況じゃない。ここで人手不足を食い止めないと商売が成り立たなくなる」というくらいの切迫感があったからだと思います。なかには、「オーナー自らが館内の清掃業務を担当しないと運営がまわらない」といったところもありました。オーナーが本業以外の雑務で時間と労力を使っている状況では戦略を考える暇がなく、事業の発展は臨みづらい。だからこそ”プチ勤務化”により外部人材に業務の一部を任せ、オーナーが本来の主業務に集中できる状態をつくることが大切だと思います。

 人手不足で多忙なオーナーさんは、ひとりで抱え込むのではなく、周囲の事業者や観光協会、自治体にぜひ声を上げてみてください。特に、自治体や政府が観光産業を重要戦略に掲げている以上、皆さんの課題は地域課題であり、政府課題でもあります。私たちリクルートは、長年人材課題解決してきたノウハウを活用し、観光産業における人材課題も解決できればと考えております。

高橋 佑司(たかはし・ゆうじ)㈱リクルート Division統括本部 旅行Division 地域創造部 部長。観光・地域振興支援を担当する観光庁などの中央省庁、全国の地方自治体の営業責任者。2006年(株)リクルート入社。じゃらんリサーチセンターでエリアプロデューサー、マネジャーとしてエリア活性に携わった後、2023年4月から現職。地方自治体の各種審議会委員等を務める。

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