地元はありますか?
あなたには「地元」と呼べる場所があるだろうか?その「地元」はあなたにとってどのような場所なのだろうか?
東京都で生まれ育った私は、進学した鳥取県の大学に全国各地から集まってきた同期たちが方言まじりに語る地元についての話を聞きながら、彼らを心底うらやましく思った。私にとって東京都は地元として語れる場所ではなかった。私はいわば「ふるさと難民」だったのだ。
しかし同期たちと様々な話をしているうちに、自分にも語れる場所があることに気づいた。祖父母が山小屋を持っていて毎年家族で夏休みを過ごした長野県信濃町。稲作体験をするために家族で毎年6回通っていた埼玉県ときがわ町。母がかつて1年間住んでいて、高校生までの間に10数回、長い時には半月ほど滞在していた沖縄県伊江村。
もしかしたら、「地元はつくれる」のかも知れない。大学4年間を過ごす鳥取県を「地元」にする実験が始まった。
「週末住人」というコンセプト
鳥取県を地元にする実験は、2016年の夏に「週末住人」というコンセプトでひとつのプロジェクトになり、様々な挑戦と失敗を経て変化を重ねながら、当社の事業、研究者としての研究テーマ、そして私自身のライフスタイルそのものとなっている。
当社では、地域外の若者が週末などの余暇時間をつかって地域の一員として関わるライフスタイルを実現できること、そして地域側がこうした若者のスキルや視点を活かしながら持続可能な地域づくりを実現できることを目指して、4つの事業に取り組んでいる。
「観光」と「関係人口」はいかにしてつながるのか
「関係人口」という概念が地方創生の新機軸として打ち出されてから5年目になる。総務省は「関係人口」を以下のように説明している。
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。
地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。
(引用:総務省関係人口ポータルサイト https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html)
総務省だけでなく、コロナ禍で加速した経済活動や生活のオンライン化を背景に、経済産業省は高度デジタル人材の活用による地域中小企業の持続的な支援を目指し、観光庁は「何度も地域に通う旅、帰る旅」として新たな交流市場の創出を目指すなど、様々な観点で関係人口をテーマとした事業化が進んでいる。さらに、多拠点居住サービスや地域での副業マッチング、ワーケーション需要を取り込んだ観光サービスなど、民間サービスも増加している。
週末住人のコンセプトと事業も、関係人口創出の事例として紹介いただくことが多いが、地域の現場では、結局は一過性のトレンドで終わるのではないか、ワーケーションプランをつくっても利用者がいないなど、関係人口について懐疑的な声も漏れ聞こえてくる。とはいえ、少子高齢化に伴った急速な人口減少と人口構造の変化に対応した持続可能な社会づくりは待ったなしで必要であり、地域内の人材だけでこれを実現するのには限界がある。
この連載では、地域に根差して暮らし働く者と、地域外からその地域に関わる者が、いかにして良い関係性を築き、持続可能な社会づくりにつなげていくか、そしてその入り口として「観光」はどのような可能性があるのかを、週末住人の実践や鳥取県内のさまざまな事例を元に、学術的な分析も交えながら考えていきたい。