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伝統工芸での誘客促進支援へ「KOUGEIツーリズム」を提案、北前船交流拡大機構など「北陸復興支援企画会」開催

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 「地域間交流拡大」を強力に推し進め、地域の活性化及び観光の促進に取り組む北前船交流拡大機構と地域連携研究所は4月25日、「北陸復興支援企画会」を東京都中央区の日本橋とやま館で開いた。富山県や石川県といった自治体や会員企業ら34人が参加し、現地の被災状況の共有、今後の支援について議論した。地域間連携を通じて能登半島地震への支援に取り組む。また、伝統工芸による新たな誘客手法として「KOUGEIツーリズム」の展開を提言し、同企画会に参加した観光庁の竹内大一郎観光資源課長はKOUGEIツーリズム推進への要望の声を受け止めた。

 冒頭、北前船交流拡大機構・地域連携研究所の濱田健一郎理事長が「以前、岡山県倉敷市や真備町を襲った西日本豪雨があった際には、被災地を応援するイベントを行った。こういう時だからこそ、皆の力や知恵を使い気持ちを伝えていきたい」とあいさつした。 

あいさつする濱田理事長
あいさつする濱田理事長

「ミラノフォーリサローネ」での備前焼・曲げわっぱの出展を報告

 同企画会では、会員企業における北陸支援策を発表するほか、主催2組織が伝統工芸品「備前焼(岡山県備前市)・大館曲げわっぱ(秋田県大館市)」を出展作品に、4月16~28日にイタリア・ミラノで開かれた欧州三大家具見本市の一つ「ミラノサローネ」の中で最大級の展示会「フォーリサローネ」での出展参加報告を行った。

参加者を紹介する北前船交流拡大機構・地域連携研究所の浅見茂専務理事
参加者を紹介する北前船交流拡大機構・地域連携研究所の浅見茂専務理事

 ミラノフォーリサローネの報告は、日本旅行事業共創推進本部の安島聖チーフマネージャーが発表。今回は、岡山県備前市から作家と土の関わりと炎から生まれる「備前焼」と、秋田県大館市から自生する秋田杉を主材料とした平安時代と変わらぬ「曲げわっぱ」をプロダクトデザイナーである喜多俊之氏の監修のもと、フォーリサローネのメイン会場であるミラノ大学で展示公開した。現地では、出展記念前夜祭のほか、喜多俊之氏による講演会、備前焼・曲げわっぱの作家と現地学生との交流会、秋田犬セミナーinミラノなどが行われた。会場には、岡山県備前市の𠮷村武司市長や秋田県大館市の福原淳嗣市長らが駆け付けた。

ミラノフォーリサローネの成果を発表する日本旅行の安島マネージャー
ミラノフォーリサローネの成果を発表する日本旅行の安島マネージャー

 同企画会に参加した横山信一参議院議員(公明党所属)は、北陸の復興に向けて各団体から一通りの支援メニューがそろっていることを説明。「目詰まりを起こしているところは、都度役所と連携しながら進めている。各業界団体とも意見交換を密にしながら対策、対応をしていく」と話した。伝統工芸品の振興については、「各省庁に横串しを刺した検討が必要だ。今回発表があったミラノフォーリサローネでの発表は、ヨーロッパに道を開いたという意味でも大きな出来事。単発ではなく、継続した取り組み、仕組みを整えていきたい」と述べた。

横山参議院議員
横山参議院議員

 北陸復興支援策の発表では、4つの発表が行われた。

現地に赴き海外とのネットワーク構築を

 日本政策投資銀行の高澤利康常務執行役員は、「グローバルな視点から、ミラノサローネでの伝統的工芸品の世界戦略と連動させたDBJの北陸支援の位置付けについて」をテーマに発表。地域の活性化の中で伝統工芸品が重要なコンテンツである一方、市場価値を伸ばすための余地があることを示した。市場価値を伸ばすには、海外展開が必要であるほか、表面的な宣伝ではなく職人や事業者が現地の空気や市場の状況を把握しながら人とつながっていくことの大切さを説いた。ミラノフォーリサローネでの所感について、高澤常務は「海外の富裕層は日本の伝統工芸品に関心を持っているが、情報発信がまだまだ足りないことが分かった。継続した取り組み、現地人とのネットワーク化、信頼づくりを引き続き検討していかなければならない」と今後の方針を示した。

本政策投資銀行の高澤常務
日本政策投資銀行の高澤常務

海外へのブランド浸透が後継者不足対策に

 読売新聞の津秦幸江社長室文化芸術企画部長は「日本政策投資銀行様の発表を受けて文化芸術部の事業紹介と北陸支援について」をテーマに発表した。同社は、2018年から文化庁や宮内庁と共に「紡ぐプロジェクト」を展開。国宝や重要文化財を守るため、費用の支援を含めた民間の力を使いながら、日本の美を世界に発信している。また、昨年からは後継者不足の深刻化など伝統芸能や伝統工芸の現状や課題を、新聞を通じて紹介するほか、地域と共に課題解決に向けたアクションを始めている。津秦部長は「日本政策投資銀行からアドバイスや知恵をいただきながら、可能性を探っている。国内市場を頑張ることも大事だが、海外には工芸を楽しむ生活環境がある。海外に販路を切り開くことで可能性は大きく広がり、ブランドを浸透させることは職人を守ることにつながる」と述べた。今後は、職人や事業者の活動が軌道に乗るための支援や、インバウンドなど観光と結び付ける取り組みを進めていく予定だ。

読売新聞の津秦部長
読売新聞の津秦部長

ミラノでの展開が世界進出の契機に

 ミラノフォーリサローネの参加者による発表では4人が発表した。

 ANA総合研究所の森健明副社長は、「展示会には30代、40代といった日本の若い作家が多く参加した。日常使いしてもらえると販売につながる。現地に作家が行くことは、誰がどのように使うかなどターゲットが見えてくる」と若い人による積極的な活動による販路拡大への期待を語った。また、2022年12月から始まるイタリアのカフォスカリ・ベネチア大学との連携協定について紹介。今秋からインターンの受け入れを始めることを予定しており、日本の伝統工芸品を紹介するプログラムを用意していることを明らかにした。

ANA総合研究所の森副社長
ANA総合研究所の森副社長

 県民性をテーマとした書籍を多数出しているノンフィクション作家の岩中祥史氏は「北前船を追いかけた先にミラノがあった。今回は、岡山と秋田という県民性が濃い2つの県が一緒になるとどうなるかに関心を寄せた。予想外と言っては失礼だが、日本の伝統工芸品を世界に広げる第一歩を築くなど、大変に素晴らしいコラボレーションだった」と話し、今後の展開に期待した。

ノンフィクション作家の岩中氏
ノンフィクション作家の岩中氏

 展示会で撮影や前夜祭の進行などを行ったオーパスの今城裕治社長は「世界中の作品がある中で、しっかりと備前焼と曲げわっぱが存在、主張していた。備前焼に1本の花があればどんなに奇麗になるのだろうか、曲げワッパに卵焼きや秋田の食べ物が入ればどんなにおいしそうになるのだろうかと想像が膨らんだ。日常的に使われるものの価値をもっと知らしめることができればさらに素晴らしいものになる」とカメラを通した視点を紹介した。

喜多俊之氏が富士山をデザインしたポスターを紹介するオーパスの今城社長
喜多俊之氏が富士山をデザインしたポスターを紹介するオーパスの今城社長

 渋谷区観光協会の小池ひろよ理事兼事務局長は、「渋谷区は忠犬ハチ公が生まれた故郷である。ミラノでは、秋田犬のふるさとである大館市と共に曲げわっぱの紹介をした。喜多俊之先生がローテク、ハイテクのコラボレーションが次の100年、1000年を作るという話をされていたが、改めて伝統工芸が物自体というよりは、職人の魂が込められた技術を継承することにつながる。また、日本の伝統工芸がラグジュアリーであるということが当たり前となれば、市場も盛り上がってくる」と期待を寄せた。また、「渋谷区が地方誘客のゲートウェイとして、そして伝統工芸を継承して商売に発展する取り組みを共に行っていきたい」と呼び掛けた。

渋谷区観光協会の小池理事兼事務局長
渋谷区観光協会の小池理事兼事務局長

インバウンドに結び付けることが伝統工芸への支援、世界展開へのカギ

 観光庁の竹内観光資源課長は、「観光庁の北陸支援の現状と被災地石川視察で見た現場が求めている支援について」をテーマに発表した。竹内課長は3月11日から1週間ほど被災地に滞在。現地の状況については、「3月16日には北陸新幹線の敦賀延伸の日を迎えるなど、金沢は明るい雰囲気だったが、一方で輪島や和倉温泉といった北部の地域は復興はまだ道半ばだった」と報告。現地で困っていることとして、仕事がなく収入がない状況が続いていることを紹介した。今後に向けては、なりわいの再建が大事であり、輪島塗など伝統工芸品を始めとした商品販路の再構築の必要性などを語った。また、ミラノフォーリサローネでの伝統工芸品の世界進出の話を受け、「伝統工芸品の世界展開に向けては、インバウンドにしっかり結び付けていくことが重要。日本に訪れることは、産地の風土や直接触れる機会につながる」と、急拡大する外国人観光客への発信、体験コンテンツの提供を含めたアウトカムとインバウンドの両輪で進めていく必要性を説いた。

観光庁の竹内観光資源課長
観光庁の竹内観光資源課長

伝統工芸品を通じた「KOUGEIツーリズム」の展開を

 全体を総括した跡見学園女子大学の篠原靖准教授は「国土交通省に聞くと、能登地方の復興は75%まで戻ってきたが、珠洲地方については、全く手が付けられていないという。被災地域には、縄文時代から伝統技法が引き継がれている輪島塗や九谷焼といった伝統工芸品があるが、職人が被災して離職が進んでいる。われわれは、日本文化・工芸品の世界展開を始めているが、ミラノフォーリサローネでの備前焼・曲げわっぱの世界展開を皮切りに、被災地の輪島塗を始めとした伝統工芸の世界への発信、職人の魂を伝承、伝統工芸品を通じた観光振興に努めていくことが、被災地である北陸支援につながる」と述べた。また、伝統工芸を世界に広める手法として、新たに「KOUGEIツーリズム」を提案し、参加者からの同意を元に観光庁に支援を求めた。

跡見女子大の篠原准教授
跡見女子大の篠原准教授

 このほか、会員による意見交換(ファシリテーターは、カジノ管理委員会事務局の出口岳人財務監督課長)が行われた。

意見交換を行う東武トップツアーズの久保成人会長(右)
意見交換を行う東武トップツアーズの久保成人会長(右)
意見交換を行うジェイアール東日本企画の赤石良治社長(右)
ジェイアール東日本企画の赤石良治社長(右)

 北前船交流拡大機構と地域連携研究所は今後、6月27~29日に北海道釧路市・釧路町で北前船寄港地フォーラム・地域連携研究所大会を開く予定。

取材 ツーリズムメディアサービス編集部

 

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