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選ばれ続けるホテルの魅力づくり

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 本連載は、顧客そして働き手や地域社会など多様なステークホルダーに、愛され選ばれ続けるホテルになるための魅力づくりを皆さんと考える機会としたいと考えます。僭越ながら自社の取り組みの紹介、そして学び得たことの情報提供を通じ、業界内での交流につながれば幸いに存じます。

 連載の1~3回目では、人財育成について私見を述べたいと思います。

 テーマは【労使一体となりホテル業界の価値共創を目指す】

①「経済構造と社会課題からホテル業界の重要性ならびに可能性を指摘する」

 まず初めに、日本の少子高齢化や国際競争力低下を背景に、ホテル業発展の重要性と可能性を指摘する。少子高齢化人口減少による観光業及びホテル業における内需の減少は明白である。更に日本の1人当たりGDPは2000年の世界2位から2022年には世界30位まで後退している。つまり、国際競争力が著しく低下傾向にあり、改善の糸口はいまだ明確とは言えない状況にある。

 石油等の資源が十分に採れない国である日本は、外貨を獲得するために貿易黒字を目指す必要がある。日本の輸出入額規模をみると、2015年で輸出が約75兆円、輸入が約78兆円、輸出最大品目は自動車で約12兆円、輸入最大品目は原油で約8兆円である。2017年時点での政府目標として、2020年にはインバウンド観光消費約8兆円をあげ、中東産油国へ支払っている金額相当分を賄う計画であった。

 その方針は現在においても変わらず、2030年にはおそらく自動車産業を上回る最大輸出品目として、インバウンド観光消費15兆円という目標額を据え置いている。インバウンドは少子高齢化の影響を受けず、ポストコロナでも長期に成長が見込めるセグメントである。その受け皿として観光業、とりわけホテル業の発展と整備が必要不可欠であることが分かる。

 つまり、国家戦略上の切り札であり、重要度の高い産業である。

②「ホテル業界の現状と課題」

 前述のとおり、ホテル業や観光業は重要な外貨獲得産業であり、今後もその拠点となるホテル施設数は増加傾向にある。しかし、現在そして「現在の延長線上にある未来」のホテル業界は、人材(人手)不足という深刻な課題に直面している。

 厚生労働省の雇用動向調査によると、従業員が不足していると回答した 企業は2016年以降60%を超えて推移している。さらに、従業員不足が経営悪化に影響したと回答したホテル・旅館は全体の82.8%にのぼる。また、ホテル人材の大きな特徴とし て、入社3年以内の若年層による早期離職率の高さがあり、若手そして中核人材の育成が困難な状況にある。

 ホテル業の人材不足の要因に目を向けると、業界的課題は少なからずあるが、それらの課題だけが直接人材不足につながっているだけではない。それを示す調査結果として「宿泊業従業者対象調査」(総務省 統計局「サービス産業動向調査」2019年)がある。調査によれば、人材の転職理由の上位を占めているのは、業界ではなく会社や職場に対する不満要因であることが読み取れる。さらに、5年以内には現職を離職したいと答えた人材の割合は47%と 約半数であるのに対し、業界を離れたいと答えた人材の割合が19%にとどまることからも、人材不足の主な要因は業界的な特徴だけではなく、現場や企業の魅力不足であるとも言える。

 つまり、「ホテルの仕事は好きだけど5年以内にこのホテルは辞める」ということである。また、学生を含めた若手人材のニーズとして、キャリアパスの明確さや発展性は、各所議論の場を温めているが、「所属企業の経営陣は人を育てようとしている」に 同意した人材の割合は36%と低い。つまり、経営陣による人材育成への姿勢に、人材は敏感に反応している。それらの実態からも、今後の改善が必要なポイントは、ホテル企業及び経営陣の意識や取り組みにあることが分かる。

 そこで、本連載では主に中小ホテルの魅力づくり、そしてホテル経営陣の人材育成や成長戦略への取組みだけでなく、私たち働き手の意識改革を促し、労使一体となり職業価値を高める方法に言及していきたい。

(つづく)

寄稿者 北原信輔(きたはら・しんすけ)㈱更紗ホテルズ取締役統括本部長/(一社)全日本ホテル連盟理事(近畿支部長兼会員増強委員長)

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