都市に先駆けた人口減少・過疎化の進展により、第一次産業の生産基盤たる農山漁村を取りまく環境は厳しい状況が続いている。
農山漁村を持続可能なものとするためには、十分な所得と雇用機会を確保できるよう、例えば、農業と他の仕事を組み合わせた働き方である「半農半Ⅹ」といった副業・兼業の形態を含め、安心して農村で働き、生活できる環境を整えていくことが重要である。「半農半X」のXには多様な産業が当てはまり得るが、その中でも、観光は重要なピースの一つである。
「農山漁村滞在型旅行」を「農泊」として推進
そこで、農林水産省では、農山漁村地域に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」を、「農泊」として推進している。農泊の取組を通じ、来訪者の方に、農山漁村地域で地域資源を「消費」していただくことで、地域から得られる利益を最大化すること、また、農山漁村の魅力に触れていただくことを通じて、地域の関係人口になっていただくこと。これが農林水産省として農泊に取り組む狙いである。
この実現のためには、農山漁村ならではの地域資源を観光コンテンツとして提供し、域外の方に、宿泊を伴った形で、「通過型」でなく「滞在型」の旅行をしていただくことが重要である。
地域における農泊の実施体制の構築に当たっては、一つの事業者だけでなく、地域の関係者が幅広く参加する体制下において、訪れた人への温かなもてなしなど、都市とは異なる農山漁村(むら)ならではの価値提供を大事にしつつ、地域としての持続的な自立に資する事業を起こすことを目指す起業家精神、いわば「農山漁村アントレプレナーシップ」を共有して取り組むことが大事である。
また、地域資源はそのままではお金を産まない。例えば棚田であれば、有料の展望台を設置するとか、背景を説明するガイドがいて、初めてお金を落としてもらえる「観光コンテンツ」になる。
農林水産省として、こうした地域の体制整備や地域資源の観光コンテンツ化に活用できる予算を提供している。また、地域横断的に対応が必要な、農泊全体としての需要創出や地域のレベルアップのためのセミナーを通じた指導等については、広域ネットワーク推進事業を通じ、本省・地方農政局・都道府県それぞれの段階において地域の課題解決を図ってきた。
農泊施策は「草創期」から「成長期」に
農林水産省としての支援を開始した平成29年から、これまでに、全国で621の農泊地域が創出されている。農泊施策は、農泊に取り組む地域の創出をアウトプット目標として掲げた「草創期」から進展し、成果を示す「成長期」に移行すべき段階にある。
政府の観光立国の実現に関する基本的な計画として、本年3月31日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」においては、農泊について、滞在型農山漁村の確立・形成に向け、令和元年度において589万人泊、令和3年度には448万人泊であった農泊地域での年間延べ宿泊者数を、「令和7年度までに700万人泊とすることにより、農山漁村の活性化と所得向上を目指す」こととされた。
この目標達成に向け、コロナ後の需要に応えつつ、東京、京都などを巡る、いわゆるゴールデンルートから農山漁村へインバウンドを取り込みながら、「新規来訪者の獲得」「来訪1回あたり平均泊数の延長」「来訪者のリピーター化」に取り組むことを通じて、宿泊者数の増加を図ることが必要である。
「農泊推進実行計画」を3つの方向性に沿って推進
目標達成に向けた具体策については、有識者による「農泊推進のあり方検討会」によって本年6月2日に取りまとめられた「農泊推進実行計画」に基づき、(コロナで疲弊した)「農泊地域の実施体制を再構築する」、(これまでに整えたコンテンツを広く可視化し)「まずはわが農山漁村(むら)に来てもらう」、(訪れた人にとっても)「いつも、いつまでも居て楽しめる農山漁村(むら)にする」の3つの方向性に沿って、進めるべきこととされた。
計画の内容の詳細については次稿に譲ることとするが、いずれにせよ、観光を通じた農山漁村地域の振興に向け、農泊地域、関係事業者、関係省庁がそれぞれ実際に行動することが重要であり、農林水産省としても地域とともに力を尽くしていく所存である。
寄稿者 村山直康(むらやま・なおやす)農林水産省農村振興局農村政策部都市農村交流課農泊推進室長
記事を拝見しました。体験型農泊に取り組んでいきたいので、よく勉強します。ありがとうございます。