特撮ロケツーリズムもネタがつきてきた。次回からは、普通の映画を取り上げるとして、今日がしたっけ(北海道弁で、さようなら)。
再放送から、ググっと・・・
好き嫌いを越え、私がもっとも驚愕した特撮と言えば、「レインボーマン」(1972年10月から1年間、全52話)だ。学生時代に福岡のローカル局で平日の夕方、再放送があった。その前が「ミラーマン」だったから、これもビデオに録画して、面白い回以外は消せばいいとたかをくくっていた。
番組はいきなりインド・パキスタン戦争から始まる。これは何の番組?眼が釘付けになると、いきなり主人公が戦死。そして、インドの聖者ダイバ・ダッタ登場。これは1話完結ではないシリーズものだ。ではビデオに録画し続けるしかない。
敵役にもびっくり。平田明彦扮するミスターK。戦争中に東南アジアで日本の残虐行為を目の当りにし、復讐のため、日本人皆殺し集団「死ね死ね団」を組織し首領となる(ちなみに昭和の三大マッドサイエンティスト役は、平田明彦、天本英世、岸田森の三人だと私は思う。その後継は、鹿賀丈史、阿部寛、香川照之か? 3人目は微妙)。いずれにせよ、番組のエンディングテーマの歌詞の激しさは、いまならコンプライアンスでアウトだろう。
「死ね死ね団のテーマ」「あいつの名前はレインボーマン」
かつては、特撮も社会的作品だった
なかでも第2クールの「M作戦」が気に入った。怪しげな宗教団体・御多福会を通じて偽札をばらまくことで、日本をハイパーインフレの大混乱に陥れようとする理にかなった作戦だ。街頭で飢えのため食糧を奪い合う日本人たちの描写が迫力満点。社会そのものを破壊しようとする、日本人に対する憎しみが深く、現実を見ているようだった。
レインボーマンがここまで社会的な作品だとは知らなかったのだが、原作者が「月光仮面」も手掛けた川内康範さんだとわかり得心した。彼は「おふくろさん」の作詞家としても知られ、勝手に歌詞を一部付け足して歌った森進一に激怒したことさえある猛者だ(2006年の紅白歌合戦後の事件。森はその後、一時期、歌を封印)。主人公がレインボーマンに変身するときに唱える「アノクタラサンミャクサンボダイ」もお経の一部。実家の仏壇でしばしば私も唱えるが、川内先生はディテールにこだわる方なのだろう。
ところで番組では、印パ紛争の現場(カシミール)、マカオ、洋上の孤島など国際的にも様々な場所が登場するが、実際にロケがそこで行われるはずもなく、東京近辺が多い。ロケ地ハンターもほとんどいない。ここまで世界が広く深いとロケ地探訪など無理がありすぎる。
庵野秀明監督の世界
ところでライダー、ウルトラ、ゴジラと続いたから、最後に私がかつて敬愛していた庵野秀明監督について触れておきたい。シン・シリーズの評価はここではしないが、「シン・ウルトラマン」で彼が実相寺昭雄監督ものに一切、手を付けなかったことが印象に残っている。庵野監督らが若いころ、手がけていたDAICONの手づくり特撮は、実相寺作品を意識したカメラワークがあった。避けたのは尊敬からなのかなと勝手に思ったりした。
庵野監督が自ら、変身し、「帰ってきたウルトラマン」になった姿は、1980年代の多くのファンを魅了した。エヴァンゲリオンなどでブレイクする前の話だ。
帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令
当時、大学院生としてソ連の勉強を始めていた私にとって衝撃的だったのは、むしろ「愛国戦隊大日本」であった。まず歌詞がすごい。「もしも日本が弱ければ、ロシアはたちまち攻めてくる 家は焼け、畑はコルホーズ 君もシベリア送りだろう」 活躍する5人の戦隊一人一人の名前が、カミカゼ、スキヤキ、ゲイシャ、ハラキリ、テンプラ。そしてボスが富士山将軍。対する組織がレッドベアー。「君の教科書マッカッカ」作戦が胸をうつ。教科書をシベリア出版の「赤い本」にして、いずれ日本の思想の主流にするそうだ。
その他、「悪魔の城デス・クレムリン」やら「ミンスク仮面」やら「何のこれしきのピロシキ」やら、テーマが笑えないのに作品のなかはパロディとお笑いに満ちている。右翼も左翼もこの作品にクレームをつけたといわれるが、私は制作者のソ連に対する理解の深さに恐れ入っていた。
万博公園「太陽の塔」
戦隊と戦闘員との闘いのシーンのロケ地が大阪万博公園である。私は仕事がら国立民族学博物館に行くことが少なくない。いつも「太陽の塔」を横切るたびに、この番組を思い出す。若いころ、授業で「愛国戦隊大日本」を見せ、冷戦を説明した。コンパではカラオケで学生とよく歌った(「太陽戦隊サンバルカン」の替え歌だから)。
愛国戦隊大日本「びっくり!!きみの教科書も真っ赤っか!!」
ということで、今回はほぼツーリズムになりませんでした。おだっちゃって、あやわるい。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=20
寄稿者 岩下明裕(いわした・あきひろ) 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授