地域連携研究所は、「地域間交流」をテーマに観光交流プロジェクトなどを展開している。各会員(地方自治体・民間企業など)は今、どのような取り組みを行い、何を目指しているのか。第1回目は、岡山県備前市の吉村武司市長に同市の地域活性化の取り組みなど現状を尋ねるほか、800年以上続く備前焼や地域の魅力、今後の方針、地域連携研究所に参画する人たちへの思いなどを聞いた。
――備前市について。
備前市は、岡山県の南東部で兵庫県との境に位置しています。南側には瀬戸内海国立公園、北側には岡山県立自然公園があります。いわゆる里海、里山の魅力があふれている地域です。また、備前市は3つの日本遺産を有する街で、現存する世界最古の庶民のための学校である特別史跡 旧閑谷学校があるほか、六古窯の一つである備前焼は産地として800年の歴史が続いています。
2022年7月には、日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間 ~北前船寄港地・船主集落~」に49番目の自治体として追加認定され、同時に北前船交流拡大機構・地域連携研究所の会員となりました。一番新しいメンバーではありますが、回れ右をすれば先頭になり、前を走る気持ちで頑張っています。
――地域活性化として取り組んでいることは。
日本遺産・北前船関連においては現在、北前船を模した豪華観光船を建造中です。これは、江戸時代当時と同じである木材中心の船ではなく、現代に合わせてアルミを使っています。内外装の設計や施工は、岡山県出身で日本の工業デザイナーである水戸岡鋭治先生にお願いしており、世界で一番ゴージャスな北前船が誕生します。来春に開かれる「瀬戸内国際芸術祭2025」や「大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)」と同時期に運航が始まりますので、期待してください。
――水戸岡鋭治さんとのつながりは。
水戸岡先生とは個人的なお付き合いもありますが、以前から備前市各種事業のデザインの相談をしていました。この船については現代版北前船としてユニークなものを作り上げ、観光立国としての備前市の位置付けを明確にしたいという思いから、プロポーザルを実施したところ、デザインについては先生にお願いする運びとなりました。
このほか、備前市では建設予算を23億円かけた備前焼の美術館を建てています。予算の総額は約25億円で、世界で一番の陶器の美術館となります。美術館は、あらゆる企画展に対応できる仕組みを設けます。2025年春に完成予定で、こちらも瀬戸内国際芸術祭2025や大阪・関西万博に訪れた人が立ち寄ることを想定しています。世界に誇れる備前焼の魅力に触れてもらいたいです。
――新たな観光のステージに向けて、備前市はどう歩むのか。
備前市は、「すべては子どもたちのために」の理念のもと、さまざまな子育て支援に係る施策に取り組んできており、日本一の子育て政策をしていると思っております。子どもの出生後には、3歳まで毎月2万円の電子地域ポイントを配布するほか、子ども医療費として、0歳~18歳までの医療の自己負担額が無料となっています。また、備前市では不妊治療の治療費に対しての補助や、妊婦の方に妊婦保険の加入に対する保険料の補助も行っています。
保育園・こども園(0~2歳児クラス)では、入園後は紙おむつを持参せず登園できる環境を整えています。保育料も無料、給食費・保育材料費も無料としており、給食費については、義務教育を終える中学校卒業まで無料としています。これに加えて、市が新小学校1年生へ通学かばんを支給し、小学校1年生から中学校3年生までの学用品費も予算化して支給しています。
おそらく、ここまで手厚い子育て支援を打ち出しているのは、日本全国を見渡しても備前市だけではないでしょうか。子育てについては、政策的にも進んでいるということを自負しています。
移住に関しては、コロナ禍の影響で人口の地方分散化が期待されましたが、思ったよりは増えてはいません。現在は、地域おこし協力隊の募集をするなど、関西から最も近い場所として、IターンやUターンの受け入れも含めて諸施策をこれからも頑張っていきます。
――地域の課題について。
これは全国の地方都市における共通の課題かと思われますが、若年層の女性の定着が統計上も芳しくありません。先だって消滅する街が発表され、岡山県には14市町村が挙がっていましたが、悔しくも備前市もその中に入っています。18歳から40歳の女性の減少は著しいです。就職や進学で一定数が市外に出るなど、人口減が原因ではありますが、企業誘致を考えるなど、市外に出なくても仕事が見つかり、暮らしが継続できる環境を粘り強く作っていきます。
――今後、備前市が目指す姿とは。
「教育のまち備前市」をモットーにしていますが、生活面においては、耐火物が大きな産業であり、それに伴う運輸業も発達しています。このような製造プラントなど企業誘致、企業団地の開発を通じて地元で働ける場所を作っていかなければなりません。市内には、山陽本線や赤穂線といった鉄道網や、国道2号や高速道路など大きな動脈が3つ、4つと通っています。人口減少の課題に対応しながら、街づくりを着実に進めてまいります。
――備前焼の魅力について。
「備前市と言えば備前焼」「備前焼と言えば備前市」です。釉薬(ゆうやく)を使わずに800年以上煙を絶やしていない焼き物の産地が備前市です。市内には数百人の関係者が生計を立てているなど、備前市のPRにおいても、備前焼は切っても切れない関係です。
備前焼は、日用品として皿、お椀、食器などは、日本・世界を見てもまだまだ開発の余地があります。今年4月16~28日には、イタリア・ミラノで開かれた欧州三大家具見本市の一つ「ミラノサローネ」の中で最大級の展示会「フォーリサローネ」で、秋田県大館市の「曲げわっぱ」とともに備前焼を出展しましたが、まずは世界の方々に備前焼を知っていただく機会となりました。また、備前市は隣の瀬戸内市とも一緒になり、瀬戸内市の虫明焼、備前長船の刀など、岡山県東部の魅力を伝えています。このほか、岡山県には、観光に関する魅力的な資源が多くあります。岡山駅に降り立てば、日本三名園の一つ「岡山後楽園」があり、西に行けば倉敷の美観地区があります。岡山では市町村が連携しながら、県内の魅力をPRしています。
――ミラノサローネでの手応えは。
正直に申し上げて、想像以上に大勢の人が来場されていました。現地メディアでの発表によると35万人以上の方が会場を訪れたそうです。備前焼は、ミラノ大学のキャンパス内の一等地で、大館市の曲げわっぱとともに、それぞれ10点ずつ展示しました。デザインは、工業デザイナーである喜多俊之先生にお願いして統一性のあるものを作っていただきました。反響は大きく、評判が良かったと自負しています。
――6月27~29日には、北海道・釧路で北前船寄港地フォーラムや地域連携研究所大会が予定されるが、関係者に一言を。
北前船を通じてつながる地域は年々増えていくはずです。地域や企業がコラボレーションをしながら、深く、広く産品を新しい流通の中で互いを認識し、購買力を上げていく必要があります。人の交流についても、もっと国内での交流を大いに行い、自治体だけでなく、一般企業や芸術家なども巻き込んだ地域間交流を図っていきたいです。
北前船交流拡大機構、地域連携研究所は、地域間交流ができるもっとも大きく、効果的な組織です。従来からの大都市と地方の関係をネットワークとしてつなげるものであり、強いネットワークの中で魅力の発信がこれまで以上に行われることを期待しています。われわれはその一員として、備前市の産品といった魅力のPRを行いながら、販売の拡大を目指していきます。
タテヨコなど、これだけ多様性、つながりがある組織は他にはありません。皆さま、有効的な商業の交流、文化の交流、そして子どもたちの交流へとつなげていきましょう。
取材:ツーリズムメディアサービス(https://tms-media.jp/)代表/トラベルニュース社事業部長兼記者 長木利通