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第4章:インバウンド観光の発展で本当に備えるべきこと

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 現在、観光に係る国の助成金の大半はインバウンドに焦点が当てられ、昨年(令和5年)の観光庁予算300億円のうち、約80%はインバウンドの観光開発に関するものに利用された。国の支援を受けるにはインバウンドへ関与していることが必須条件に近い。日本人海外旅行を主力としていたベルトラにとっても、インバウンド事業は今後も成長が期待されるため、この恩恵は大きい。

グローバル企業が日本の観光産業に不在

 インバウンドの発展は日本経済にも大きく貢献し、国際交流も促進する。オーバーツーリズムなどの問題はあるが、基本的には歓迎されることである。しかし、インバウンドの急速な発展で盲点となっている重要な懸念がある。観光産業におけるグローバル企業が日本に存在しないことだ。今、日本を訪れる外国人がいつ、どのようなきっかけで日本に来たのか。こうした顧客データが日本にほとんど存在せず、日本企業はいつまで経っても外国人観光客を顧客として獲得することができないままでいる。

 インバウンドがこれほど急速に発展する前は、大手旅行代理店などの日本企業が中心となり、日本の観光産業の発展を促してきた。実店舗をもつ旅行代理店だけでなくOTAなども同様だ。それぞれが切磋琢磨しながら日本人客にサービスを提供し、独自の顧客層やファンを形成し発展を遂げた。しかしインバウンドは全く別のロジックである。集客はほぼ全てインターネット経由で行われ、観光サービスの入口はGoogleやInstagramなどのプラットフォーマーや、Booking.com・AirBnB・TripAdvisorといった外資系グローバルOTAがほとんどである。そのため日本企業は現地サービスの供給者としては成長出来ても、外国人(需要者)を顧客として保持し、彼らに直接サービスを提供することが難しい。つまり、訪日観光の需要が伸びれば伸びるほど日本独自のコンシューマーサービス(B2C)企業は衰退し、ビジネスモデルを大きく転換する必要性が出てくる。当社も決して例外ではない。

持続的成長を実現するために変化を

 グローバル企業の脅威は莫大な資金力だ。彼らが日本に注目すればするほどサービスへの投資金額は桁違いとなり、日本企業はこれらのサービス傘下に入るしかなくなる。現時点では日本人に特化したサービスを展開することで日本市場で強い影響力を持っていたとしても、いずれはグローバル企業に逆転されることだろう。さらに今後、AIの発展により顧客データを大量に持つグローバル企業が最もその恩恵を受け、日本市場でもより有利な立場となる。観光事業者や企業はこれらを正しく認識し、対応策を講じるべきだ。

 これまで需要者を自ら獲得し直接サービスを提供していた日本企業は、自らがグローバル企業(海外進出)となるか、スモールマス(特定のカテゴリやテーマ)で特化した市場に集中するか、もしくはコンシューマーサービスをやめるか、このいずれかを選ぶしかないだろう。そして宿泊施設や飲食店や観光施設などの供給者を持つ企業は、日系の旅行会社だけではなくグローバル企業が持つサービスと積極的につながることでさらなる発展が見込めるだろう。

 インバウンドの活況が今後も推測される中、観光企業が持続的な発展を望むのであれば、例外はほとんど存在しない。中国やEUなどのように外国企業を規制や制限を設け、国内企業を守るようなことは日本ではおそらく見込めないだろう。企業は自ら対策を講じる必要がある。グローバル企業が蹂躙する今日の日本の観光産業において、状況に応じて柔軟に、意識的に変化ができる企業のみ持続的な成長が可能であると強く信じ、自らも戒めたい。 

寄稿者 二木渉(ふたぎ・わたる)ベルトラ㈱代表取締役社長 兼 CEO

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