リクルートはこのほど東京都内で「変わる今、変えるこれから」をテーマに「じゃらんフォーラム2024」を開催した。新型コロナ感染症がほぼ収束し、旅行市場は順調に回復しつつあることを踏まえ、フォーラムでは事例をもとに観光業界が直面している多くの課題とそれらの解決策について提言した。
開会の挨拶に立った旅行Division VicePresidentの大野雅矢氏は、「テクノロジーの活用が進化し、より早く、シンプルな企業経営が求められている」としたうえで、企業クライアントの生産性と収益性向上に向けた課題解決に向けた方策を提言した。特に、人手不足が著しい観光・旅行分野においては、優秀な人材を確保してこそ、魅力的な観光地となりうると指摘した。
慢性的な人手不足対策が喫緊の課題
それは、1おもてなしの基盤作り、2お客様が集まり、リピーターとなるような魅力的な観光地作り、3集客を最大化でき、地域消費額を高める――であると強調。さらに、コロナ禍以前から、旅行業界で生じている慢性的な人手不足についても、その対応策の重要性を強調した。コロナ禍を経て急回復した旅行需要に対し、観光・旅行業における採用の難易度が高まるなかで、いかに人材の育成、定着を図るかが課題であるとした。また、旅行ニーズが多様化し、市場の変化が大きい中で、適切な集客設計の内容が高まっていると分析した。
具体的な事例の一つとして広島県観光連盟HITを取り上げた。広島県は世界遺産である厳島神社と原爆ドームを有しており、欧米系の観光客が多い。彼らの利便性を高めるためには、キャッシュレス決済を軸とするデジタル化の推進を進めることが不可欠と認識で活動を展開しているとの報告があった。
インバウンドの潜在性としてインドの伸びしろの大きさに注目
次にじゃらんリサーチセンター長・沢登次彦氏が登壇。「インバウンドの最新動向と注目事例」について解説した。インバウンドの最新動向としては、24年度は、訪日客数が過去最高の3188万人を超え、3300万から3500万人となり、旅行消費額が約7兆円規模に達するとの見通しを述べるとともに、観光業は、外貨を獲得できる産業として自動車、化学製品に次いで第3位であり、日本経済にとって重要産業だと述べた。
さらに、ポテンシャル比較として地域別のインバウンドを考えるとインドに注目せざるをえない。インドの人口30年には15億人に達し、伸びしろが大きいと明かした。また、世代別人口では世界的にZ世代の比率が増えている。この世代をどう捉まえていくかが、日本にとって極めて重要であると指摘した。
人材確保のうえで、離職防止は採用の最大の武器
最後はリクルート ジョブズリサーチセンターのセンター長の宇佐川邦子氏が「宿泊業における採用と定着について」と題し、自説を展開した。宇佐川氏は、採用に関する業務に数多く携わるなかで最も関心があるのは観光業と述べた。それは、この業界が外貨を稼げ、かつ一定数の雇用を生むからであるが、コロナで2割くらい働き手を失ったと明かした。
そして、現場で目立つのは次のことだという。内定を出しても辞退される、入社後に辞めてしまう。人材が育ちにくくなっている。背景には、働き手の基準に合わないと退職につながることや次の企画、人材を育てるリーダーがいないことを挙げた。人材確保は2つ、採用と離職防止だが、離職防止を優先するべき。採用コスト、育成コストがかかったにもかかわらず辞職されると、採用担当のモチベーションが下がる。
離職防止が採用の際の最強の武器。休日の条件などの働き方などが重要になっている。業界の当たり前、職種の当たり前として、観光分野は、接客業だから、土日働くのが当たり前。これを改めると、他業界へ行ってしまった人材が戻ってくる。そのためには、相場を知る、相手を知る、自らを知る。これは結婚と同じ。求人票はラブレターと同じと考えてほしいと訴えた。つまり、自社の魅力が求職者にとって魅力的になっているかを検証するべきと語った。
今後も人手不足は緩和しない。。観光業にとって必要なクリエイティブITやロボットでは埋められないからだ。人口減少が人材不足に拍車かけるともいう。今の人たちは、ライフ&ワークバランスのうち、ライフを重視している。働き方の選択肢を増やすことも重要だ。そのひとつ、休日を例にとると、産業ごとの競争力の目安は年間120日の休日。なんとか、こうなるように頑張ってほしいと締めくくった。
(会場風景の画像はリクルート提供)