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東京再発見 第34章 江戸時代から続く学問所~文京区湯島・湯島聖堂~

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 山手線の内側でバリアフリー化が一番難しいと言われるのは御茶ノ水駅だ。それは、神田川の崖の上に作られた猫の額のような場所だからである。2012年からずっと駅の改良工事は続いている。小生は前職時代の初任地が、すぐそばにあったため、秋葉原寄りの聖橋口は懐かしい場所である。一時期、所用で御茶ノ水駅に降り立った時、聖橋口が閉鎖されていたことにショックを覚えた。しかし、十年以上かかり、新たな改札口は、2023年12月にリニューアルオープンした。駅全体が最終的に完成するのは、2024年度末と言われている。

歌にも詠まれる「聖橋」

 さて、さだまさしさんの名曲「檸檬」にも歌われる聖橋は、この改札から本郷へ抜ける神田川に架かる橋だ。この上からは、中央線の橙色、総武線の黄色、そして、丸ノ内線の赤色を同時に見ることができる。鉄道ファンだけでなく、数多くの方々が好む景観である。また、丸ノ内線の橋梁は、国の有形文化財に指定された。この橋を渡り切った場所に、湯島聖堂は位置している。

黒々とした大成殿の姿
黒々とした大成殿の姿

 江戸時代1690年、徳川綱吉によって建てられた孔子廟であり、後に幕府直轄の学問所となった。「日本の学校教育発祥の地」と言われている。また、湯島天神とともに、受験合格祈願のために、受験生が参拝に訪れる。

聖堂と呼ばれる謂れは・・・

 その由緒は、林羅山が上野忍岡に建てた「先聖殿」に代わる孔子廟として造営したもの。そして、将軍綱吉がこれを「大成殿」と改称し、自ら額の字を執筆したことに始まる。また、付属する建物を含めて「聖堂」と呼ぶように改められた。

 大成殿の建物は、度重なる火災によって焼失。そして、幕府の実学重視への転換によって、再建できずに荒廃していった。また、寛政年間には、異学の禁止の対象となった。そのため、1797年に林家の私塾が幕府直轄の昌平坂学問所となる。「昌平黌(しょうへいこう)」と呼ばれた。

水面に映える合格祈願の絵馬
水面に映える合格祈願の絵馬

 「昌平」とは孔子が生まれた村の名前。そこから「孔子の諸説、儒学を教える学校」の名前とし、この地の地名にもなった。これ以降、聖堂とは湯島聖堂の中でも大成殿のみを指すようになる。また、2年後には、長年荒廃していた湯島聖堂の大改築が完成した。この大成殿は明治以降も残っていた。

 明治時代1872年3月、ここ大成殿で、文部省主催の「湯島聖堂博覧会」が、初めて開催された。これが後の東京国立博物館の始まりである。そして、1922年には敷地が国の史跡に指定されたが、翌年の関東大震災で入徳門と水屋以外の建物が焼失した。現在の大成殿は、1935年に鉄筋コンクリート造で再建されたものである。

湯島聖堂には、世界で一番高い孔子像

 1975年に中華民国台北ライオンズクラブから孔子像が寄贈される。そして、孔子像の他、孔子の高弟「四賢」も安置されている。それは、世界で一番背の高い像である。このように由緒正しい聖堂ながら、観光客は、その存在を知らないことが多い。重厚な築地塀を通り過ぎてしまうのは、大成殿が週末と祝日しか開かれていないからであろう。木々が茂り、扉を閉ざした中華風の建物は、なかなか入りづらいものである。

築地塀の先に聖堂の入り口がひっそりと
築地塀の先に聖堂の入り口がひっそりと

 また、近くには神田明神があるため、目的地に急ぐ人々にとっては、眼中にない施設と言っても過言ではないかもしれない。かつて、テレビドラマ「西遊記」のロケ地となったこともある。昨今では、ロケ地ツーリズムも観光コンテンツの一つと数えられるようになった。しかし、ここがロケ地であったというその記憶も薄らいだものとなっているのが実情だ。

広域連携による町歩きの充実を!

 御茶ノ水は、かつての学生街であった。しかし、最近は、大学キャンパスがこの地に戻ってきていると言われている。駿河台と呼ばれる学生街と本郷の文教地区、そこに建つ湯島聖堂や天神様などをゆっくりと巡る仕組みづくりもこれからの大きな課題ではないだろうか。坂の町には、隠れた名所も数多く存在する。

 聖堂の敷地内には珍しい楷の木もあり、秋から冬にかけては、銀杏の木々の黄色も素晴らしい。また、今渡ってきた聖橋は「2つの聖堂(湯島聖堂と川の向こうのニコライ堂)を結ぶ橋」であることから名づけられている。目的地に直行するだけでなく、少しばかり寄り道してみると、わき役が見つかるものである。

橋の向こうに対を成すようなニコライ堂
橋の向こうに対を成すようなニコライ堂

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8

取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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