墨田区と江東区、江戸川区の区界辺りに三日月湖のように残されている河川が存在する。1924年に荒川放水路(現在の荒川)が完成する。その結果、中川の下流部分はせき止められ、今では旧中川と呼ばれている。
江戸川区平井の木下川水門で荒川から分水。大きく蛇行しながら南へ流れていく。そして、江戸川区小松川の荒川ロックゲートで、ふたたび荒川へ合流する。全長6.68 kmの一級河川である。
そのほぼ中間に、ふれあい橋は造られている。平井と亀戸結ぶ幅6.8mの歩行者・自転車専用橋だ。正面にスカイツリーを眺めることができ、橋のライトアップとともに夕暮れのビューポイントとして有名となった。長さ56mのアーチ橋で、1994年に供用開始された。ふれあい橋という名前は、「両エリアの交流が一段と深まるように」という意味合いでつけられた。
水害から水辺に親しむ河川に変化を
この辺りは、地盤沈下による水害が多かった。そのため、旧中川は、長い時間をかけて人工的に水位を地盤面より下げる整備を行っていた。それによって、水辺に親しめる安全で快適な河川に生まれ変わった。地域住民の憩いの場所として、朝な夕なに散策されている人が少なくない。
そして、江戸川区側は、今では、区内有数のさくらの名所となっている。特に河津桜の咲く時期には、初春になると、ニュース映像が流されるようにもなった。一方、江東区側は、ふれあい橋近くにある水辺公園に、ガクアジサイなどが植栽されている。その青や赤の彩りとスカイツリーのライトアップが競演し、総武線が通り抜けていく風景が素晴らしい。梅雨前のひと時、夕暮れを華やかなものにしてくれている。
橋がつなぐ広域連携
2013年、江東区観光協会が発足すると、域内の情報を集約し、新たな観光コンテンツ作りが進められた。隣り合う町の連携も進められ、今はやりの町歩きも広域で行われるようになった。そして、地域外からも観光客が訪れるようになった。同協会が主催する『旧中川 アジサイ祭り』や8月15日に行われる『旧中川東京大空襲犠牲者慰霊灯籠流し』など、さまざまなイベントが毎年しっかりと開催されている。
これからの観光は、大規模なイベントを創出・集客するだけではない。地元の方々がコツコツと作り上げ、情報発信を進め、外からのお客様に対して満足度を高めていくことが重要なことと考える。住まう人々と訪れる方々が同じベクトルになることが大切だ。
ふれあい橋は、「交流が一段と深まるように」との思いが詰まっている。まさしく、広域連携のお手本のような橋だ。最近では、テレビドラマのロケ地としても活用されるようになった。そして、朝な夕なにカメラを構える人々が増えている。これから先も頼もしい企画を構築し、城東地区をリードする観光地に成長することが、すそ野の広い地域誘客につながると考える。
(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8
取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長