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俯瞰するニッポン(その24)~京の町が盆送りの夜には~五山送り火

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 五山送り火は、毎年8月16日に左京区にある如意ヶ嶽(大文字山)などで行われるかがり火を指します。その始まりは、平安時代初期に空海、室町時代中期に足利義政、江戸時代初期に近衛信伊が、などと言われます。しかし、江戸時代に始まったという説が通説と言われています。

だんだんと送り火に囲まれる京都の町

 五山と言うように、順番に5つの山にかがり火が焚かれます。

大文字」(京都市左京区浄土寺・如意ヶ嶽、通称大文字山、20時00分に点火)
松ケ崎妙法」(京都市左京区松ヶ崎・西山及び東山、20時05分に点火)
船形万灯籠」(京都市北区西賀茂・船山、20時10分に点火)
左大文字」(京都市北区大北山・大文字山、20時15分に点火)
鳥居形松明」(京都市右京区嵯峨鳥居本・曼荼羅山、20時20分に点火)

 盆送りの行事ゆえ、お精霊(しょらい)さんという死者の霊をあの世へ送り届ける行事です。また、葵祭・祇園祭・時代祭とともに京都四大行事の一つとされています。

 さて、一番最初にかがり火が焚かれる「大文字」は、一帯の山塊を「如意ヶ嶽」と呼んでいました。しかし、現在は火床がある西側の前峰(465.4m)を「大文字山」と呼び、最高点である主峰(472m)を「如意ヶ嶽」としています。また、特に「左大文字」と区別するときは「右大文字」とも呼ばれます。

火床、厄除けのために消し炭をもらうために登山する習慣もある
火床、厄除けのために消し炭をもらうために登山する習慣もある

 そして、大の字の中央には、弘法大師を祀った大師堂があります。ここを中心にして、火をくべる床は、全部で75か所あります。大の字の一画目が80m(19床)、二画目160m(29床)、三画目120m(27床)です。

喧騒を忘れさせる自然空間

 この五山、地域の方々がしっかりと守り抜き、山に登ることができません。しかし、「大文字」山だけは、登ることを許されています。

 観光客が多く行き交う銀閣寺の参道、その門前の手前を左に折れる道があります。そこを道なりに進むと、大文字山の登山道につながります。そして、歩みを進めていくと、観光客の声によって遮られていた自然の音が、聞こえてきます。それは、鳥の囀りや木々の擦れ合う音です。また、荷物を山頂に運ぶロープウェイなども見ることができます。

大の字の中心からの景観(京都の町を一望できる)
大の字の中心からの景観(京都の町を一望できる)

 ゆっくりと登ること約30分。一気に展望の良い場所に出ます。既に「大」の字の中心部に達しているのです。また、右の払いを下っていくと法然院辺りにたどり着くこともできます。そして、真横に進んでいくと清水寺辺りまで東山を縦走できるらしいです。

 一方、目を遠方に向けると、遥か彼方の京都タワーや嵯峨野手前の双ヶ岡、京都御所の緑と、京都の町を一望にした景観に出会うこともできます。

他人の気持ちを思いやる気持ちが増えれば・・・

 昨今、オーバーツーリズムに揺れる京都の町。しかし、日本人が好むモノ・コトと外国の方々が好む観光コンテンツは違います。世界遺産を審査するイコモスが指摘する事例が、その代表例ではないでしょうか。

 日本人に先人が残してくれた史跡などを後世につないでいく姿勢が足りないとは言いません。しかし、日本人の多くが「本当の旅行好き」になれば、もっと大切にすべきモノ・コトに気づくのではないでしょうか。

 人は、常に自分中心的になりがちです。お互いが相手を思いやる気持ちを増やそうとする。そうすれば、オーバーツーリズムという言葉・現象も自ずから消えていくものと思います。日本には、「郷に入っては郷に従う」という諺もあります。互い立て合う世界こそ、未来につながる世の中です。

 また、SNS全盛の時代と言われますが、自分だけの観光コンテンツを自ら探し出すことができれば、喧騒のない素晴らしい景観に出会うこともできることでしょう。

 送り火が、長い期間引き継がれていることこそ、先祖を敬う気持ちの表れと思いつつ、筆を置きたいと思います。

大文字山を少しだけ・・・

町中からも大の字は見える
町中からも大の字は見える
点火用の松葉が置かれている
点火用の松葉が置かれている
御所の北側を東側にうっすらと大文字山が見える
御所の北側を東側にうっすらと大文字山が見える

 「俯瞰するニッポン」シリーズ、一年間、お読みいただき、ありがとうございました。

寄稿者 観光情報総合研究所 夢雨/代表

(これまでの寄稿は、こちらから)https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=181

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