ユニバーサルツーリズムの推進に「心のバリアフリー認定制度」
ちょうどこの記事が配信されるタイミングで、2つの自治体が開催するユニバーサルツーリズム推進セミナーに登壇させていただきます。
■7月3日(月)横浜市・公益財団法人横浜観光コンベンションビューロー主催「令和5年度ユニバーサルツーリズムセミナー」
https://business.yokohamajapan.com/ja/img_data/TOPICS251_1.pdf
座学ではユニバーサルツーリズムとは?実際のツアーの様子、他地域の取組みなどを解説します。
観光事業者は貸し出している車いすの事や操作方法は知っておく必要があります。
わずかな時間の体験でも、今後の受入れ対応には大きくプラスの変化が生まれます。
■7月10日(月)鹿児島市主催「ユニバーサルツーリズム研修会」
https://www.city.kagoshima.lg.jp/kan-senryaku/event/documents/tirasi.pdf
くしくも、どちらの自治体もテーマは観光庁が推進する「心のバリアフリー認定制度」です。
この制度はコロナ禍の中2020年12月25日にスタートしました。その時の観光庁からの発信には以下のように解説されています。
【ハード対策に加え、移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフトの対策を強化する「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和2年法律第28号、以下「バリアフリー法改正法」)が成立し、令和2年6月19日より施行されました。
また、 観光施設におけるバリア・バリアフリーに関する情報不足が指摘されているところ、高齢者や障害者の方々がより安全で快適な旅行をするための環境整備が求められます。
このため、観光庁ではバリアフリー法改正法に基づき、観光施設におけるバリアフリー情報の提供を促進する仕組みとして「観光施設における心のバリアフリー認定制度」を創設し、令和2年12月25日より申請募集を開始します。】
制度の詳細は下記を参照ください。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/innovation_00001.html
(4月から新たに「博物館」が認定対象に加わりました)
重要なのは、①ハード面でバリアフリーが整備されている施設だけを認定しているのではなく、人的サポートや簡易な福祉用具等を含むソフト面で積極的に対応されている施設を認定していること。②認定を受けることがゴールではなく、地域で取組むことによって高齢者も障がい者も乳幼児連れも誰もが訪問しやすい観光地、ツーリズムにつながること。だと私は思います。
想像してみてください、個人でも団体(旅行会社、高齢者施設、障がい者施設、障がい者団体)でも、旅行を企画しようとした時にホテル、飲食はなくてはならない要素の1つです。しかし、今やネットで「バリアフリー (観光地)」で検索すれば、相当数がヒットしますが、何がバリアフリーなのかが分かりにくい場合もあり、そこからさらに時間をかけて調べる必要があります。
認定を受けた施設は、理解のための研修等を受講した上で、ウェブサイトでのバリアフリー情報の発信をされているので、認定施設からあたっていくと調べる際の手間が大きく軽減されるのです。
なによりも、心のバリアがない施設ということがわかれば安心して問合せができますよね。
観光客にやさしい地域の見える化が加速
前回「ユニバーサルツーリズム」について解説し、地域間、施設間の差が広がりつつあるということをお伝えしました。3年目に突入したこの制度ですが、2023年5月時点で宿泊459、飲食店66、観光案内所95、全国620の施設が認定を受けています。
横浜市や鹿児島市のように積極的な地域は、自治体や外郭団体が研修会やセミナーを通じて制度の解説や申請のための支援をしていて、今回のようなセミナーが3つの認定要件の1つ「バリアフリーに関する教育訓練を年に1回以上実施」に該当します。
県別に集計してみるとその差は一目瞭然です。
網掛けした自治体は、2022年11月時点から特に認定数が増えたところです。
兵庫県は4月に全国で初めて「高齢者、障害者等が円滑に旅行することができる環境の整備に関する条例」通称「ユニバーサルツーリズム推進条例」が制定されました。
2021年11月斎藤知事が宣言をされてから着実に成果が表れています。
鹿児島県は秋に国体・障害者スポーツ大会を控え、奄美群島も含めて県としてユニバーサルツーリズムの推進に力を入れています。特に鹿児島市では飲食店15軒が認定されていて、大会前後には、全国から訪れる選手の皆さんが市内での飲食も楽しまれることでしょう。
三重県は10年前、2013年6月には鈴木知事(当時)が「日本一のバリアフリー観光県推進宣言」を表明し、ホスピタリティに満ちた三重の観光を磨き上げると宣言されています。
高齢者や障がい者で旅行に行きたいと思う方々は、バリアがないところだけに行きたいわけではありません。多少のバリアがあっても「行きたい」ところにどうやったら行けるかを調べます。うちの地域(施設)はバリアフリーじゃないからとあきらめるのではなく、「何かできることはないか?」を考えてみてはいかがでしょうか。
(江戸時代の街並み、古民家でも景観を損わない簡易スロープでバリアフリー対応される石見銀山「群言堂」の取り組み)
寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)オフィス・フチ代表