10月28日、観光庁が2024年度に実施する「地域観光新発見事業」で採択された高知県日高村を訪れました。主な目的は、日高村の観光素材の1つ「新日下川放水路見学」(インフラツーリズム)を車いすでもご案内できるかどうかの検証です。
新日下川放水路とは、日下川と仁淀川を直接つなぎ洪水時に日下川流域を水害から守る3本目の放水路で、四国最長の約5,300mのトンネル放水路です。
朝、呑口部近くの新日下川放水路管理道に集合し、日高村水害の歴史や放水路の概要、見学ツアーの流れの説明を受けました。管理道は放水路建設時に工事車両、資材を運ぶために作られたもので完成後にふさぐ予定だったものがそのまま残ったため、インフラツーリズム拠点として活用されているとのこと。
中には、見学ツアーで使用する長靴、ヘルメット、ライフジャケット、カヌーなどが用意されています。
一通り説明を受けた後、用意した車いすとJINRIKI(車いすけん引装置)で検証スタート。管理道の暗闇をヘッドライトを頼りに、放水路までのなだらかな下り坂を進みます。車いすの移動でも全くバリアを感じないフラットな路面です。
少し進んだだけでライトを消すと完全な暗闇に包まれます。管理道を200mほど進むと放水路との交差部にぶつかり、左に曲がって放水路の呑口部を目指します。(右に4,800m進むと仁淀川)
放水路の中はフラットではなく逆かまぼこ型で底が低く数センチほど水の流れもあり、観光協会の高野さんは車いすでの移動が可能か? を懸念されていました。水を避けると脇は斜面になっているので車いすは走行できません。車いすのタイヤが少し水に浸りますが、中心部をまったく問題なく移動が可能です。交差部から300mほど進むと、放水路の呑口部(取水)に到着します。
ここも水は溜まっていますが、水深は浅く車いすでも問題ありません。
振り返ると後ろには5,130mの放水路(トンネル)。
大きな呑口部は、さながら屋内ウユニ塩湖、巨大神殿のようでした。
柵を抜けて表に出たところで見学ツアーは終了となります。日高村観光協会では、今後教育旅行(体験学習)としてもこの見学ツアーを磨き上げるとのこと。
教育旅行においてもインクルーシブ教育が進む中、障がいのある生徒とない生徒が一緒に参加できるプログラムが求められる時代です。日高村観光協会も加盟する地域連携DMO「(一社)仁淀ブルー観光協議会」では、今回使用したJINRIKI(車いすけん引装置)を保有しているので、この装置を活用すれば生徒同士で助け合いながら一緒にこの見学ツアーに参加できます。メダカ池自然散策プログラムも楽に案内できます。
前回訪れた際、アジサイの時期に多くの観光客が訪れる道路は道幅が狭く車が通る際に車いすが回避できないという課題を確認しました。200mほどの道路の数カ所に側溝にグレーチングを敷いて回避場所を設けられればというアイデアを、今回の検証に合わせて準備いただいていました。今回はテストで1枚だけでしたが、実際に敷いてみると3枚並べば一般の方も含めて誰もが安全、安心に行き来できますねと確認できました。
午後は、村内の宿泊施設を視察しました。最初に訪れたのは「貸切宿 芽」さん。建物手前に5段ほどの階段があり、玄関にも段差がありましたが、階段のサポートの方法や簡易スロープの活用方法などをアドバイスさせていただきました。
しかし! リフォームされた屋内はフラットで、トイレも広く、寝室はベッドルーム 。
バリアフリー対応まで想定されてなかったと思われますが、車いす使用者や足腰が不安な高齢者に使いやすい施設です。浴室もネットでも購入できる福祉用具の活用でかなりの部分がカバーできると思われます。
次に訪れたのは、「村の小さな台所 村のちいさなお宿 おきな」さん。こちらも古民家を活用したレストランなので段差等は残りますが、食事は椅子テーブルなので足腰が不安なおじいちゃん、おばあちゃんとご家族など介助できる人がいれば利用できますね。
隣に建つ宿泊施設は、宿泊客がいらっしゃったので中は拝見できませんでしたが、新築で平屋建て、私の経験から車いす使用者でも使いやすい施設だと感じました。
布団敷きの寝室ということでしたが、足が悪い高齢者や車いす使用者が来たときだけ少しの工夫(簡易ベッドや、裏返したビールケースを並べるだけでも)で十分対応できると思いました。
最後に訪れたのは、まもなくリニューアルオープンする観光協会運営の日高村交流拠点「ARUMO410」さん。レストラン、ミーティングスペース、客室(1階1室、2階3室)という小さな施設ですが、
1階にバリアフリートイレ&シャワーがありました!
もともとあった施設ということですが、バリアフリー観光推進事業で高知県に何十回も訪れ、何回も日高村を訪れた私もこのような施設があったことを初めて知りました。今後の日高村ユニバーサルツーリズムプログラムの拠点としても㏚すべき施設です!
1日じっくり日高村を視察した感想です。人口わずか5,000人、高齢化率も40%を超え、高知市内からも近いがために観光の通過点になると村の人は言います。そんな日高村だからこそ、他の観光地との差別化にユニバーサルツーリズム(高齢者も障がい者も誰もが楽しめる観光)の着手には可能性を感じます。
住んでよし! 訪れてよし! の日高村へ。
最後に、日高村観光協会さんから嬉しい報告が入りました。検証から1週間後の11月4日、放水路見学ツアーに杖を利用の方が参加された際に、車いす&JINRIKIを用意し一般の方と同じようにご案内しました。という内容です。着型ユニバーサルツーリズムプログラムの理想的な対応です。全国でご案内されている着型プログラムを見つめ直すだけで、可能性は広がりますよね。
旅をあきらめるなんてもったいない! さあ、皆さん旅に出掛けましょう!
オフィス・フチでは受け入れ側(地域)送り手側(旅行会社)、どちらに対してもユニバーサルツーリズム推進のアドバイスをいたします。
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寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表