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インバウンドの功罪(2)~ツーリズムメディアサービス特集~

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観光立国宣言前夜

 20世紀末、日本はバブル崩壊からの失われた10年。不況から立ち直るのに四苦八苦、バブル経済を前提としたリゾート法も頓挫していました。一方で、世界は米ソ冷戦が終わり、解放されたインターネットを使った新しい産業構造の構築、もの作りからサービス産業へのシフトが進んでいました。

 そして、21世紀になるとイベントリスクの連続。米国同時多発テロ、イラク戦争、SARSと続き、旅行需要も減退し、燃料代の高騰など観光業界は重苦しい空気に覆われていました。

 そのような空気の中、2003年1月に観光立国宣言が発表されました。日本人の海外旅行者、訪日旅行者それぞれの数値目標まで示され、ツーリズム従事者にとっては嬉しく、誇らしい出来事でもありました。「観光」が景気回復、地方活性化、少子高齢化対策など失われた10年に溜まった課題を解決する・・・すごい!

 観光は万能薬なのか!?戸惑いながらも観光庁設立までのスピード感に本気さを感じていたものです。

目指そう!双方向の交流拡大

 観光立国とは、訪日立国ではないので、日本人の国内旅行から海外旅行も含まれ、観光によってより豊かな人生を送ることが目標であることは言うまでもありません。観光立国推進基本法にも双方向の交流を目指す、つまり、交流大国を目指す方針が読み取れ、国際相互理解の増進に寄与すると明記されています。

 観光立国宣言から早や20年。目標を次々に達成している訪日旅行と比べて、やはり、日本人の海外旅行の伸び悩みが残念でなりません。円安だから、と言われます。また、学生たちに聞くと国内旅行が楽しい、海外は危険、言葉が心配などなど、海外へ行かない理由が出てきます。世界一信用されているパスポートがありながら真にもったいないことです。

 実効性のある日本人の海外旅行拡大計画が必要ではないでしょうか?日本らしい「おもてなし」を磨くためにも海外を知ることが大事だとも言われ続けてきました。しかしながら、あえて観光立国政策の原点に戻ってTwo-way Tourismを目指そう、と声を上げたいと思います。

 すでにさまざまな取組がなされている事と思いますが、若い人たちが選挙で投票へ行き、18歳から20歳代の投票率を上げて政策を左右する世代になることも大事です。成人したら最初のパスポートを無料で配布するとか、若い人にとって実効性のある政策も登場するかもしれません。19歳はスキーリフト券を無料にしてスキー需要を拡大した「雪マジ」のように、きっかけ作りが必要です。子供たちにはラーケーション(Learning Vacation)の拡充も急がれると思います。

新しいBeyond JAPAN

 日本国内だけでの観光にあまり拘らず、東アジア全体を旅する仕組み作りの必要性を感じています。空港からソウルや台北を航空機で結ぶだけではなく、例えば、ボーダーツーリズムとして提案している北部九州まで旅した後に船で釜山へ入る。また、八重山諸島を楽しんだ後に石垣島から基隆に入るような旅程もあります。さまざまな障壁があることは承知しています。しかし、国内旅行、海外旅行、訪日旅行という昔からの縦割りの区分では限界があるように思えるのです。

 コロナ禍の真っ最中の2020年頃、Ghost of Tsushimaというゲームが欧米を中心に大ヒット。対馬がゲームの聖地になったのです。時期が時期だけに大々的なPRはできなかったようですが、欧米からの旅行者が増えるとの期待と同時に、対馬に来た旅行者をゲームのテーマである元寇の道を逆に辿り、釜山まで渡る行程を提案したこともありました。

 新しいBeyond Japanは日本人が海外を体験するのにも手頃です。和食と韓国料理、中華料理を楽しみ、双方の視点で歴史を学び、芸術作品、建造物を見比べたり、東アジアの多様性を楽しめます。それはBeyond Korea、 Beyond Taiwanでの訪日の仕組み作りでもあります。

観光圏としてのアジア

対馬比田勝港国際ターミナル
対馬比田勝港国際ターミナル

 2012年に日本で開催された世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)で世界の交流の障害は「ビザ」であるとの宣言に驚いたことがありますが、アジアからの観光客増に査証(ビザ)の緩和が大きく貢献したことはご承知の通りです。

 前記のBeyond Japan、Beyond Korea、Beyond Taiwanの拡大のためには交流を阻害する煩わしさを如何に排除するかは重要です。EUのシェンゲン協定までは期待しませんが、今年の3カ国観光担当大臣会議でも議題となったプレクリアランスの実施はぜひ拡大して欲しいものです。

 日本、韓国、台湾だけでも日本人も外国人も自由にストレスなく交流できる観光圏を構成していくことを夢想しています。

 博多・下関・対馬と釜山との間の航路は年間73万人以上が利用しています(2023年度)。その内、韓国人の利用者が約60万人、対馬と釜山間に限れば98%、32万人以上が韓国人です。さらに、博多ルートは3万人以上の外国人(韓国人を除く)が利用しています。

 また、来年石垣島港から台湾基隆までの定期航路(大型フェリー)の就航も決まっています。訪日旅行者を地方に拡大する必要性が言われますが、地方観光の後、大都市圏に戻り航空機を利用するよりも地方からすぐそばに位置する韓国、台湾へ渡る旅程にも大きな可能性があるように思えます。

 海洋大国日本の交流拡大方法として注目して頂ければ嬉しいです。

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=17

寄稿者 伊豆芳人(いず・よしひと) ボーダーツーリズム推進協議会会長

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