日本遺産認定ストーリーである「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間 北前船寄港地・船主集落」を活用し、関係自治体および団体が連携のもと、観光振興および地域活性化を推進する北前船日本遺産推進協議会は11月21日、「北前船日本遺産推進協議会記念大会in加賀」を石川県加賀市の山代温泉みやびの宿 加賀百万石で開いた。元日に発生した能登半島地震で被災した輪島市や志賀町に応援メッセージを送るほか、活動報告、令和6年度に新たに日本遺産に認定された3自治体(福井県美浜町、新潟県村上市、岡山県岡山市)によるプレゼンテーションなどが行われた。会場には、文化庁の都倉俊一長官が駆け付けるほか、全国から国・自治体や観光関係者ら約300人が出席し、「北前船」を契機とした地域振興の取り組みを学んだ。
3部構成で能登半島地震の被災地への応援、活動報告の発表などを実施
同大会は3部で構成。冒頭、北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事が参加者のほか、会場に掲出された北前船の文字と共に震災で被災した石川県能登町、珠洲市、志賀町、輪島市向けた全国50自治体の首長からのメッセージが寄せられた色紙について紹介した。色紙は、大会後には各市町に贈呈された。
続いて、北前船の日本遺産認定に尽力した秋田県秋田市の納谷信弘観光文化スポーツ部長、北前船交流拡大機構の中野秀治上席研究員の2人に感謝状を授与。納谷部長は、2017年の文化庁の申請や、北前船の魅力あるストーリーづくりを中心的に担った。中野上席研究員は、最初に登録された11市町の構成群の全てを視察をし、申請の業務全般を担った。納谷部長は「平成28年に11時の自治体から学芸員が集まり、申請の準備を始めた。秋田公立美術工芸短大(現秋田公立美術大)の学長を務めた石川好先生や文化庁の調査官から丁寧にご指導いただいた。北前船の最大の魅力は北前船が特別な場所を作ったことであり、ぜひ多くの人にその歴史や育まれた異空間をみてもらいたい」と話した。中野上席研究員は「北前船のストーリーは4つから成り立っており、歴史や特徴をしっかりと伝わるものとなっている。申請そのものも大変だったが、27の市町の追加申請をした2年目がもっと大変だった。文化庁からは指摘もあったが、力強い支援をいただきながら、現在では52の市町となっている。協議会とフォーラムは両輪であり、走り続けていきたい」と述べた。
開会に際して、石川県の馳浩知事からのビデオメッセージを披露。馳知事は「元日に能登半島地震が発生し、多くの犠牲者が出た。また、半島であるがゆえに広域避難した人もたいくさんいる。事態に際して、国内外から多くのお見舞いをいただいた」と能登半島地震後の県外からの支援に謝意を示した。今後に向けては、「能登半島の復活、復興に向けて創造的復興プランをまとめ上げることとなった。日本の原風景である能登半島の自然を守るためにも、皆さんの理解、継続した能登半島の訪問が必要だ」と支援を呼び掛けた。石川県創造的復興プランは、地域の外から継続的に関わる「関係人口」の拡大や、災害時に強い自立型のインフラ整備、デジタル活用などを重点課題とし、2032年度末までの9年計画で取り組まれる。
50の自治体代表があいさつ
第1部では、北前船日本遺産推進協議会50の自治体代表のあいさつなどが行われた。開会あいさつでは、北前船日本遺産推進協議会会長で石川県加賀市の宮元陸市長が「約30人の組長が自ら出席いただいた。今回は、元日には震災、9月には集中豪雨が発生するなど、能登の震災復興をどう支援していくかが目的だ。本日は、輪島市の坂口茂市長も来場しており、坂口市長をはじめ、被災地域を激励をしてほしい。今回の大会は、多くの支援をいただいたことへの感謝の思いを表す式典でもある。日本人は情に厚い民俗であり、その思いを結集した大会としたい」と開会を宣言した。
歓迎のあいさつでは、坂口市長が「元日に震災が発生し、輪島市では167人が亡くなり、6割の方が住宅をなくした。また、9月21日には豪雨災害が起こり、10名が亡くなり、5%の住宅がさらに失われた。たくさんの大切なものを失ったが、少しずつ復旧が進い、新たな出会いもできている」と支援をいただいた人、地域に謝意を述べた。地域の観光資源についても触れ、「輪島塗、輪島朝市、世界農業遺産である『輪島・白米千枚田』などで大きな被害を受けた。また、北前船の船主が住まわれて国の重要伝統的建造物群保存地区である黒島地区も被害を受けているが、支援をいただきながら前に進んでいる。豊かで素晴らしい安心して暮らせるような輪島市を目指していきたい」と話し、引き続きの支援を訴えた。
石川県志賀町の間嶋正剛教育長は「能登半島地震では震度7を経験し、甚大なる被害が発生した。1年を経過しようとしているが、被害家屋の解体は徐々に進み、少しずつ復興が進んでいる。先日に、中学3年生による子ども議会が開催され、志賀町の復興に関わる前向きな提言がなされた。われわれ大人も前向きに、必ず元気な能登、志賀町を目指して復興にまい進していく」と復興への決意を述べ、北前船関連については、福浦港で当時の佇まいが残る家屋の復元、北前船関連の資料を展示する施設づくりに着手していることを紹介した。
石川県小松市の宮橋勝英市長は能登半島地震への支援の謝意を述べた後、日本遺産関連の取り組みを紹介。宮橋氏市長は「小松市単独で石の文化に関する日本遺産を平成28年に認定いただいている。北前船に関しては平成30年に仲間入りをさせていただき、安宅住吉神社や安宅祭りなどの構成要素がある。市政100年を目指した2040年ビジョンを昨年に策定したが、メッセージの一つに『裏日本からの挑戦』という言葉を入れた。ネガティブに見える言葉だが、あえてそこに着目し、反抗心を持ちながらまちづくりに取り組んでいく。裏には裏技、裏メニュー、裏話など、特別な意味がある。今こそ日本の原風景、本物の日本が残る地域を見てもらいながら、次の世界に受け継いでいきたい」と、今後の挑戦を語った。
北前船日本遺産推進協議会50の自治体代表のあいさつでは、7つの自治体代表がそれぞれあいさつした。
①岡山県岡山市 大森雅夫市長「能登の震災後、能登はどうなるのかと思ったが、この思いは国民の全てが持ったのではないか。創造的復興という話があったが、こういう時こそ52の自治体を有する北前船のネットワークが協力し合い、復興を手助けしていかなければならない。岡山市では実質的に400人以上、延べ3000人の人を派遣した。まだまだ長い被災地での戦いとなるが、必要な限り応援していきたい」
②秋田県男鹿市 菅原広二市長「古来より能登と男鹿は極めて近い所だった。改めて能登半島の災害に対してお見舞い申し上げる。男鹿半島は全国で23ある半島のうち、ただ一つ単独の自治体で構成されている。美しい景観、食、そしてなまはげの文化といった世界に誇れる魅力があるが、発信力が不足している。全国の昔輝いた地方が皆で力を合わせることで素晴らしい無限の可能性がある。皆で力を合わせて地域の魅力、震災の現状を発信していきたい」
③青森県野辺地町 野村秀雄町長「能登半島での地震、豪雨とその心中を察するに余りあるものがある。昨日に行われた全国の町村会があったが、町村会挙げて能登半島の応援をすることに大きな拍手をいただいた。私は船主の子孫であり、過去には北前船フォーラムをかつてに実施させていただいたこともある。52の市町村が手を組み、羽ばたいていきたい」
④青森県鯵ヶ沢町 平田衛町長「元日の能登半島地震、そして集中豪雨で犠牲になられた皆さまの冥福を心からお祈り申し上げる。一昨年には、鰺ヶ沢町も豪雨災害があり、町の中心部の400人以上が浸水被害を受けた。その際は全国から物心両面に渡り支援をいただき感謝している。被災してみると心温まる支援が何よりも支えになる。志賀町の福浦港には鯵ヶ沢町の船が当時は何回も出入りするなど、北前船を通じて能登と鰺ヶ沢町には深いつながりがある。結ばれた絆を連携協力しながら盛り上げていきたい」
⑤秋田県由利本荘市 湊貴信市長「この度の災害については、被災された皆さまに心からお見舞いを申し上げる。秋田県にも7月24日に豪雨があり、由利本荘市が一番被害にあった。いまだに私道だけでも54路線が通行止めという状況にあるが、やっと復興に向けてスタートを切れている。東日本は雨の被害がほとんどなかった地域で雨に弱い町だったが、復興に向けては原状復帰に留まらず、今まで以上の立派なものを築くことが必要で、皆さまとネットワークを生かしながら全力を挙げて取り組みを進めてまいりたい」
⑥新潟県佐渡市 渡辺竜五市長「これまでに輪島、珠洲とは数えきれないぐらい会話をしており、その一つが平成23年の世界農業遺産での取り組みだ。国連大学、東京大学を含めて認定に向けて一緒に取り組んできたことは素晴らしい思い出だ。もう一つ、トキの放鳥を通じた取り組みもある。歴史・文化がある能登の復興に向けて出来る限りの応援はしていく。トキが一つのシンボルになり、皆さんと一緒に明るい未来を作っていく。佐渡は7月27日に晴れて世界文化遺産登録となった。北前船の文化が佐渡の金山を支えていたことも申し上げておきたい。文化遺産も連携しながら、皆さまと一緒に頑張って参りたい」
⑦北前船交流拡大機構 浜名正勝参与「北海道から函館、松前、小樽、石狩と4カ所が参った。能登とは北前船を含めて大きなつながりがあり、今も続いている。私は珠洲市の出身で、大学から北海道に渡った。災害を機に改めて故郷に恩返しをしたい。小さい頃に遊んだ海が荒れ、建物が壊滅した。ありとあらゆる知恵を生かして、大切な能登の復興に頑張っていきたい。また、昆布の収穫において危機を迎えている。海にもっと関心をもってもらうことなど、北前船の新しいテーマとして取り組んでいくことを提案したい」
文化庁の都倉長官が北前船との連携を強調
第2部では、来賓として文化庁の都倉長官があいさつ。都倉長官は、「能登半島に心からお悔やみを申し上げる。3月の終わりに伺ったが、輪島塗においては、親しくしている工房が焼けて跡形もなく消滅してしまった。言葉では言い表せないが、被災者からは『この悲劇、惨劇は取り返しがつかない。先祖代々からの漆の壁などは全て消滅したが、輪島塗の誇り、伝統技術はなくすことはない』と言われた。創造的復興という言葉を先程聞いたが、輪島の人たちの気持ちを表している。日本の宝を消滅させる訳にはいかない」と、物心両面からの協力することを語った。同大会の開催に向けては、「地方創生は国の基本的な方針である。その潜在力の鍵となるものが日本遺産であり、文化の力で地域の活性化を図るものだ。47都道府県では104の日本遺産が認定されているが、遺産には歴史的な背景、ストーリーがある。皆さんの活動が日本遺産の価値を上げており、北前船のような組織はほかになく、ぜひ力を合わせて隆盛を図っていきたい」とさらなる連携を誓った。
活動の成果、今後の展望を各地域が発表
第3部では、各自治体からの活動報告のほか、令和6年度日本遺産認定3自治体からのプレゼンテーションが行われた。活動報告は3つの地域が発表した。福井県小浜市の杉本和範市長は「小浜市 日本プレミアム認定『御食国若狭と鯖街道』」をテーマに、「海のある奈良」と例えられる、海外・日本海沿岸諸国・都との交流を示す文化遺産群について説明。古代から、今も、鯖街道を通じて、都の食を支える御食国若狭として、①都で珍重される若狭もの②若狭とつながり都で継承される食文化③都とのつながりの中で生まれ、継承される優れた加工技術―などを紹介した。また、取り組みの成果として、地域活性化については「鯖街道」をテーマに回収した道の駅で前年比で1億超の売り上げが増加したことや、非公開であった文化財の観光拠点化、文化価値の明確化と発信により文化資源の保存活用が進んでいること、伝統的古民家ホテルの開業・多言語化で訪日外国人宿泊者の増加など魅力向上・来訪者増加につながってることを発表した。
秋田県にかほ市の市川雄次市長は、「北前船が繋いだ泉佐野市とにかほ市のご縁」をテーマに取り組みを披露。着床式洋上風力発電所(秋田港)の様子や、TDK創業者とのゆかりの話、2021年4~9月にJR東日本と連携して取り組んだ東北デスティネーションキャンペーン(DC)の成果、天然記念物である象潟がある近年の九十九島周辺の耕作放棄地の状況、城下町・羽州街道の宿場町で北前船の寄港地として栄えた地に蔵を持つ飛鳥泉本舗、にかほ市に残る食野家の墓石、泉佐野市との連携による昨年11月に行われた関西地区での北前船寄港地による関西北前船研究交流セミナーの開催、道の駅象潟「むねの丘」で行った泉佐野市との相互交流による特産品の販売についてなど、地域の歴史・文化や魅力、取り組みをを紹介した。
岡山県備前市の𠮷村武司市長は「現代版北前船の取り組みについて」をテーマに登壇。建造中である現代版北前船について紹介。デザインは日本を代表する工業デザイナーである水戸岡鋭治氏が備前オリジナルのデザインとして手掛け、来年の大阪・関西万博、瀬戸内国際芸術祭2025に合わせて建造が進められている。縦が約7m、横が約5mの帆には、岡山藩主であった池田家の家紋であるアゲハ蝶などがデザインされ、客室には木目の壁に重厚なソファーやテーブルなどが並べられる。乗船中には食事などを楽しめる空間が設けられる予定だ。𠮷村市長は、「北前船寄港地全ての関係市町の夢をつむぐことになる。全国の各地域でも現代版北前船を作り、観光客の誘客に努めてほしい」と呼び掛けた。
令和6年度日本遺産認定3自治体からのプレゼンテーションは、「北前船日本遺産を活用した新規認定3市町の地域活性化の取り組みについて」をテーマに代表者が発表。福井県美浜町の戸嶋秀樹町長は、「認定に至るまでに多くの方に指導をいただきながら価値ある認定をいただくことができた。美浜町出身である歌手の五木ひろしさんに報告したところ、『美浜町に大きな魅力が増えた』と喜びの声をいただいた。北前船の認定を契機に皆が誇りを持ったまちづくりを進めていきたい」と話した。また、美浜町内に伝承館建設の検討を始めたことを明らかにした。
新潟県村上市の高橋邦芳市長は「北前船日本遺産を活用した―まちづくり―」を題に、面積の約8割が山林等である村上市内には、山川海が集まる豊かな自然、おいしい食べ物、歴史・文化があることを紹介。高橋市長は、「3拍子そろった笑顔のまち」であることを強調した。村上市には、「村上大祭(7月)」「瀬波大祭(9月)」「岩船大祭(10月)」といった伝統と文化を継承する祭りのほか、北前船が運んだ産物である塩引き鮭や村上茶、村上牛、岩船麩、岩船米といった食、国内最大級の屋内スケートボードパーク、村上・笹川流れ国際トライアスロン大会などスポーツといった魅力が点在している。
岡山県商工会議所の松田久会頭は、「岡山市西大寺と北前船」を題に、高野山真言宗別格本山金陵山西大寺(観音院)の門前町として発達してきた岡山が1250年の歴史を持ち、古くから開かれた市場が発達した商業の町であることや、地域のまちづくり団体として西大寺活性化協議会が立ち上がっていることを紹介。同協会について、松田会頭は「『いつまでも住み続けたい歴史が息づく愛着の持てるまち』を目指してる。会員は276人に達し、7つの委員会に分かれて西大寺の活性化を図っていく」と方針を披露した。
閉会のあいさつでは、北前船日本遺産推進協議会副会長で広島県尾道市の平谷祐宏市長が「能登半島での震災、豪雨で被災された方々には心からお見舞いを申し上げる。尾道市も平成30年に発生した西日本豪雨の際には土砂崩れなどの被害が報告され、市内全体で断水が1週間を超えるなど、市民生活に深刻な影響を与えた。その際には加賀市がふるさと納税の復興支援サイトを開設していただくなど、北前船寄港地の皆様方をはじめ、多くの皆さまから暖かい支援をいただいた。今回の大会、地域連携研究所大会、北前船寄港地フォーラムが能登半島の災害復興の一助になることを祈念している。現在は、全国52自治体による国内最大規模の日本遺産であり、広域連携がさらに進むことを期待している」と話して大会を締めた。
(会場には50地域の首長による「絆」メッセージが掲出された)