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第35回北前船寄港地フォーラムを福井で開催、福井の食や伝統工芸など北前船文化を世界へ

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 江戸から明治にかけて海運を担っていた北前船をテーマに、寄港地連携、地域間交流での活性化を図る「第35回北前船寄港地フォーラムin 加賀・福井(福井会場)」が11月23日、福井県福井市の福井県産業会館で開かれた。福井県内では6年ぶり2回目の開催で、全国から自治体や観光関係者ら約310人が出席。会場では、世界に認められる京都・祇園の老舗料亭「菊乃井」の村田吉弘社長、 国内外の高級料亭などに昆布を提供する老舗昆布店「奥井海生堂」の4代目である奥井隆社長、福井県の中村保博副知事の3人による「京都へ、そして世界へ ~世界の和食を支える昆布、福井の伝統工芸~」をテーマとしたスペシャルトークセッション、福井の食材をふんだんに使った昼食の提供、伝統芸能・書道パフォーマンスなどが実施された。参加者は北陸新幹線の敦賀延伸を契機に、北前船の交易で生まれた産業や文化を国内外に向けた発信をするほか、全国の自治体関係者らによる交流が行われた。 

スペシャルトークセッションの様子
スペシャルトークセッションの様子

 北前船は、江戸時代から明治時代にかけて、大阪から下関を経て北海道に至る「西廻り」航路に従事した日本海側に船籍を持つ海運船。食文化や民謡、織物などの文化を運ぶなど、各地域の文化の形成に影響を与えた。会場となる釧路・根室地域からは昆布や魚肥などが全国に運ばれている。文化庁からは、「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落」が日本の文化・伝統を語るストーリー「日本遺産」として認定されている。

会場では各地域、企業のブースが設けられた
会場では各地域、企業のブースが設けられた

 同フォーラムは、2007年から開始。北陸でのフォーラムは、2024年元日に発生した能登半島地震を踏まえ、北前船交流拡大機構が北陸の自治体らに開催を提案して実現。2部構成で開かれた。また、フォーラム前には福井県坂井市にあり2023年にリニューアルオープンした坂井市龍翔博物館に立ち寄り、北前船の5分の1の模型や船箪笥、航海用具など三国湊の海の暮らしを伝える資料、勇壮な武者人形を乗せた三国祭りの山車などを見学した。

坂井市龍翔博物館にある北前船の模型
坂井市龍翔博物館にある北前船の模型

 開会宣言では、福井県の中村副知事が「福井の歴史と文化を大いに触れ合ってもらい、すばらしいひと時を過ごしてほしい」と発した。

福井県の中村保博副知事
福井県の中村保博副知事

 第1部の冒頭では、同フォーラム恒例となる北海道釧路町産の約30mのサオマエコンブを使ったテープカット「コンブカット」が行われるほか、大会記念オブジェとして、SGCが制作した金の「復興のフェニックス」が披露された。

約30mのサオマエコンブを使い「コンブカット」
北海道釧路町産の約30mのサオマエコンブを使い「コンブカット」

 北前船がもたらした食文化をテーマとしたスペシャルトークセッションでは、村田社長が和食が世界遺産となった秘話を話すほか、和食と昆布の関係性について言及。「昆布は北前船で福井県の敦賀に運ばた後、京都に送られた。京料理をはじめとした和食文化の発展に大きく貢献している」と話した。

京都・祇園の老舗料亭「菊乃井」の村田吉弘社長
京都・祇園の老舗料亭「菊乃井」の村田吉弘社長

 奥井社長は、出汁を取る際の水の重要性を説きながら、「水と北前船で運ばれた昆布が組み合わさることで、より和食文化の魅力が高まった」と強調した。

老舗昆布店「奥井海生堂」の4代目である奥井隆社長
老舗昆布店「奥井海生堂」の4代目である奥井隆社長

 中村副知事は、和食に欠かせない刃物やはし、和紙などが福井県にはそろっていることを紹介しながら、「和食文化は、北前船が地域をつないだように、地域交流が盛んになることで発展してきた。今後は世界に発信していく」と展望を述べた。

福井県の中村保博副知事
福井県の中村保博副知事

 第2部では冒頭、主催者あいさつとして福井県実行委員会会長で福井県の杉本達治知事が「能登半島地震からの復興に向けて、北陸新幹線の延伸開業を契機とし、北前船の文化を世界に発信する」とフォーラムの意義を伝えた。北前船については「北前船は動く総合商社と言われ、多くの富を全国に運んだ。寄港地は全国各地にあるが、石川と福井には一番多く集まり、福井には5つの寄港地がある。今や福井県の特産品となる刃物、和紙などの原料は北前船で運ばれてきたもの。昆布は北海道から敦賀にやってきて、熟成され、そして磨かれた技術でおぼろ昆布となっている。北前船の歴史、福井の歴史的背景と奥深さを知ってもらい、二度三度と福井に訪れてほしい」と語った。

福井県実行委員会会長で福井県の杉本達治知事
福井県実行委員会会長で福井県の杉本達治知事

 北前船交流拡大機構理事長代行で日本航空の清水新一郎副社長が、「北陸新幹線の延伸で福井への接続の利便性はより高まった。鉄道と航空を掛け合わせた商品を展開するなど、地域とつながりながら福井の魅力を全国に届けていきたい」とさらなる誘客を宣言した。

北前船交流拡大機構理事長代行で日本航空の清水新一郎副社長
北前船交流拡大機構理事長代行で日本航空の清水新一郎副社長

 来賓からは、浮島智子衆議院議員が「文化庁の全面的な協力のもと日本遺産が2015年から始まったが、現在では104件となる。現在は、教科書の中で子どもたちが検索できるなどさまざまな場所で広がっている。北前船の活動は、広域になれば広域になるほど元気になっている」と話すとともに、支援を約束した。

浮島智子衆議院議員
浮島智子衆議院議員

 秋田県の猿田和三副知事は「秋田県からは多くの自治体がフォーラムに参加している。来年度は、福井県と共に伝統的工芸品をヨーロッパに売り込もうと計画している。これも北前船の縁である。単体では海外に売り出すのは大変だが、北陸と力を合わせて秋田、日本の文化と経済を発展させていきたい」と力を込めた。

秋田県の猿田和三副知事
秋田県の猿田和三副知事

 ANA総合研究所の功刀秀記社長は「福井で画聖である長谷川等伯が描いた松林図の景色を見た感動は忘れられない。2018年には福井県でフォーラムを開催したときと同様に、今回においても全国横断的に首長が来場している。これは地域連携の結晶と言える。皆が力を合わせることは、北前船という日本遺産にさらに磨きがかかり、これをアピールしていきたい」と、フォーラムを通じたさらなる人の和の拡大、関係人口の増加を目指す考えを示した。

ANA総合研究所の功刀秀記社長
ANA総合研究所の功刀秀記社長

 このほか、福井県選出の滝波宏文参議院議員、岡山県矢掛町の山岡敦町長からの祝電が披露された。

大会記念オブジェとして、SGCが制作した金の「復興のフェニックス」
大会記念オブジェとして、SGCが制作した金の「復興のフェニックス」

 続いて、北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事が全国から集った参加者、鏡開きの登壇者を紹介した。浅見専務理事は「6月に開いたひがし北海道のフォーラムにおいて、能登半島地震で被害を受けた北陸を激励する会を開いたらどうかという声が上がったことが、今回の大会につながった。わずかな期間にも関わらず準備いただいたことに感謝している」と謝意を伝えた。

北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事
北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事

 また、食文化や工芸文化の欧州展開に携わっているメンバーとして、欧州連合日本政府代表部の二宮悦郎参事官、イタリアの伝統的なマジョリカ陶芸の中心地であるファエンツァにアトリエを構えて日伊を拠点に活躍する陶芸家の平井智一氏、正木靖駐インドネシア特命全権大使の令嬢である正木琳氏、ミラノデザインウィーク出展コーディネーターを務める渋谷区観光協会の小池ひろよ理事・事務局長、イタリアの伝統が誇る最高級食材を輸入し、料理にこだわる日本のシェフを応援する佐勇の佐藤広志社長、北前船交流拡大機構事務局長でANA総合研究所地域連携部の本宮重人担当部長らが紹介された。

浅見専務理事が食文化や工芸文化の欧州展開に携わっているメンバーを紹介
浅見専務理事が食文化や工芸文化の欧州展開に携わっているメンバーを紹介

 鏡開き後の乾杯のあいさつでは、福井県坂井市の池田偵孝市長が「人間の幸せは、おいしいものを食べて、いろいろな人と語り合い、仲間を作っていくことだ。フォーラムを皆さまが連携を深めて幸せを作るきっかけの場としてほしい」と呼び掛けた。

鏡開きの様子
鏡開きの様子
福井県坂井市の池田偵孝市長
福井県坂井市の池田偵孝市長

 開催地によるプレゼンテーションでは、坂井市の池田市長、敦賀市の米澤光治市長、小浜市の杉本和範市長、南越前町の岩倉光弘町長、美浜町の戸嶋秀樹町長が地域の自然、歴史・文化、食といった魅力をPRした。

敦賀市の米澤光治市長
敦賀市の米澤光治市長
小浜市の杉本和範市長
小浜市の杉本和範市長
南越前町の岩倉光弘町長
南越前町の岩倉光弘町長
美浜町の戸嶋秀樹町長
美浜町の戸嶋秀樹町長

 歓迎アトラクションでは、三国湊伝統芸能「初香会」による三国節の披露のほか、福井県立武生高校書道部による書道パフォーマンスが行われた。

三国湊伝統芸能「初香会」による三国節の披露
三国湊伝統芸能「初香会」による三国節の披露
福井県立武生高校書道部による書道パフォーマンス
福井県立武生高校書道部による書道パフォーマンス
書道が掲げられた際には歓声が上がった

 次回開催地あいさつでは、長野県、長野県松本市の関係者が登壇。内陸で初めての開催となり、北前船にとって大きな一歩となることへの決意を述べた。次回は、長野県松本市で「北前船フォーラムin信州まつもと」が2025年11月20日に開催予定。

次回開催地である長野県、松本市があいさつ
次回開催地である長野県、松本市があいさつ

 閉会のあいさつでは、福井県実行委員会副会長も務める奥井社長が北前船をルーツに損害保険が立ち上がり、能登半島地震でも対応されたエピソードを伝えながら、「先人たちの夢や思いが今日につながっている。フォーラムでは北陸復興に向けて皆さまの心が一つとなり、被災地に心を寄せた。これが地方創生の礎となる」と述べて締めた。

福井県実行委員会副会長も務める奥井社長が会を締めた
福井県実行委員会副会長も務める奥井社長が会を締めた

 フォーラム後は、3つのエリアに分かれたエクスカーションが行われた。また、夜のレセプションでは敦賀市、小浜市、美浜町の各会場で日本海の海の幸が楽しめる夕食、伝統芸能パフォーマンスが実施された。

会場では福井が誇る食材を使ったお弁当が提供された
会場では福井が誇る食材を使ったお弁当が提供された
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