観光における平準化は、解決しずらい大きな課題だ。そして、平準化には「時期」と「地域」の分散という二つの課題がある。例えば、花を愛でる観光や地域のお祭り・イベント鑑賞などが時期分散である。一方、東京や京都などの常に人気の観光地が地域分散の代表例となる。
今回は、時期分散化の事例をご紹介する。
越中八尾は、毎年9月1日から3日に「おわら風の盆」という祭りが開催される。期間中、地域住民の数倍以上のお客様が町にやってきて飽和の量を越える。そもそも、地域住民の祭りに、その魅力にとりつかれた人々がやって来るのだ。八尾には、大規模な宿泊施設がない。
逆境から生まれた二つ目の祭り
1997年、ロシア船籍のナホトカ号が日本海に重油を流出させる。その結果、風評被害から日本海側の各県観光地は、訪問客が激減するという事故が起きた。その時、富山県の観光関連事業者はリカバリーを求めて、とある旅行会社に送客を要請した。
既に「おわら風の盆」は人気の祭りとなっていた。パッケージツアーを作るとすぐに完売する。そのため、その旅行会社は、地元の方々に「時期をずらした祭りの開催」を提案する。観光客が比較的少ない9月下旬に「おわら風の盆」をもう一度開催する。独自イベント故、お客様もゆっくりと祭りを鑑賞できるという取り組みだ。
当初、地元の反対は多かった。仕方なく、初年度は町の入口の駐車場でイベントを開催した。しかし、徐々に地域の方々にも理解を得る。今では町の中心部で実施する祭りとなっている。旅行会社が、地域の一員となり、住民との共生も進んだことが大きな要因である。
クラブツーリズムの「月見のおわら」は、コロナ禍も乗り越えて、2025年10月に28回目の開催となる。時期分散の成功事例の一つとして、この先も語り継がれていくことだろう。
(2013.09.29.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長