ふと、深呼吸したくなる空間とは、どのようなものだろうか。都会で常にビルの谷間の生活に浸かっていると忘れ去ってしまう感覚、この場所に佇むと蘇ってくる。
十日町市松之山、美人林という森林がある。昭和初期に木炭を取るために丸裸になった丘陵地にブナが芽吹いた。そして、背丈のそろった約3,000本のブナは、その立ち姿から「美人林」と名付けられた。樹齢がもうすぐ百年という林の中に佇むと都会の喧騒が嘘のように、静寂という言葉がぴったりと合う。

美人林は、一年を通じて年間10万人が訪れる松之山の代表的な観光地。冬場は一年中の雪景色だ。しかし、春になると雪解けが始まり、緑が見え隠れする。また、林の中の農業用水用の溜池は「つつみ」と呼ばれる。その透き通った池の水は、光の加減で神秘的な水鏡となる。まるで、天と地が逆さまになった感覚が生まれてくる。
そして、森林から一歩外に出ると、隣にはこの里山を学ぶことができる科学館「森の学校キョロロ」という施設もある。館内の暗がりのらせん階段を昇り切ると、展望台からは雄大な妻有郷の姿が見える。このキョロロも大地の芸術祭のアート作品の一つである。
四季折々に、自然に溶け込む松之山温泉
また、車で15分ほど行くと、日本三大薬湯の一つ松之山温泉も観光客を呼び寄せる。約1,200万年前の化石海水が温泉となったものだ。そのため、塩分濃度が強いしょっぱい高温の温泉である。豪雪地帯としても知られ、雪が降ると数メートルも積もる。交通至便ではないが、多くの観光客を呼び寄せる力は、作られた観光地にはない、自然の力があるからだろう。
夏の終わりには、「JAZZストリート」というイベントが開催される。温泉街に一体感が生まれ、「松之山温泉旅館」という一つの旅館となる。町中をそぞろ歩き、祭りに興ずる姿は、手作り感満載のイベントである。
(2016.09.10.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長