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コロナ禍を通過して。ホテル業において、AIによって実現できたこと

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「激動の令和」

 宿泊施設を取り巻く環境の変化のスピードと、その変化量の大きさと、「想定外」とは言えなくなったパンデミックからの需要急回復のいま現在と、「激動の令和」を実感しています。

 私は、14ホテルの経営と、AIによる価格設定アプリケーションサービスを運営・開発しています。

 2020年は「明けない夜はない」と頑張れました。

 2021年は「夜明け前が一番暗いものだ」と粘れました。

 しかし、2022年のオミクロン株の登場による第6波では、新株による永久ループが始まったんじゃあるまいかと心は揺れました。この動揺は、わずか1年ほど前のことなのに、懐かしさすら感じます。

AIが「限界利益」を算出

 私たちの14ホテルでは、全ホテルがAIで演算計算を繰り返す完全自動の価格設定を実施しています。価格設定の担当者は社内にいません。完全にシステム任せです。このことは、変化のスピードと変化量の大きさを追従するためには、極めて有効でした。

 私たちは、コロナ禍において雇用調整助成金制度も活用させていただきながら、雇用の確保とお取引先との関係を完全に保ちつつ、ホテル運営を継続しました。このときも、AIが「限界利益」を算出、確保しながら、わずかな利益拡大機会を逃さず価格を変更してくれることで、徹底したキャッシュ回収に寄与してくれたと考えています(「限界利益」=売上-変動費)。

 それは、倒産確率などといった言葉でスタッフの感情をムダに煽ることなく、コロナ禍でもご利用してくださるゲストへ集中し、忙しい日常の仕事を通じてスタッフ各自の成長を図ること、お取引先との良好な関係強化にもつながったと感じています。

果実の収穫期へ

 そして、2022年10月に始まった全国旅行支援制度やインバウンド再開に完全に対応することで、果実の収穫期を迎えたと感じています。すでに2022年9月時点で全ホテルの稼働率が96%以上だったので(客室が故障し販売不能だった1ホテルを除く)、需要回復はすべて単価で受け止めることができ、その単価上昇分の大半は利益に貢献しました。

 過酷な場面から需要急拡大の場面まで、如何なる状況でも経営に寄与するAIが、レベニューマネジメントとして有効であることが証明されたと感じています。

重回帰分析、勾配ブースティング
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【全国旅行支援制度の関係者への感謝と提案】

大きな経済効果、貴重な資産に

 さて、私たちは運営体制が整っていたこともありますが、全国旅行支援制度については、とにかく一生懸命に受け入れをしたい、非常にありがたい制度だと感謝しています。本制度の緊急性は高く、しかし自治体別に実施の判断が求められ、各自治体の関係者の方々の努力やご苦労は想像もつきません。正確性よりも緊急性を優先し、やや強引に開始されたという印象はあったものの、完璧に設計されてから実施していたのでは機を逃すわけで、その分は制度の恩恵を享受する宿泊施設が努力しなければいけない場面だから、しっかり受け付けようと社内には伝え続けました。

 ゲストの様子をみるに、クーポン券以上のお買い物をしている方も多く、全国旅行支援制度に使った費用以上に、大きな経済効果になっていることを期待したいです。

 同様の旅行支援については、激甚災害のあと、地域を限定した支援がこれまでも実施されていましたが、国税により全国の宿泊施設の支援をしていただける時代になった、国としても重要な産業と認めてくれる時代に、この業界に従事できていることをありがたく感じ、関係者の皆さまに深く感謝を申し上げたいです。

 そして、今回いくつかの方法で支援を実現するインフラ(電子クーポンなど)が登場したことは、災害の多い日本において今後も貴重な資産になると想像しますし、応用できることも多そうです。

 一方で、全国旅行支援制度により宿泊施設の現場が疲弊する、全国旅行支援は混乱を招く(既存予約との調整が困難)といった意見が、宿泊施設の関係者からSNSに投稿されていたり、TV報道されていたりしました。経営や労働環境についての考え方は、それぞれの会社にありますが、本制度によって多忙になり疲弊し混乱もするというのはあまりに他責な意見で残念に感じました。(宿泊施設は、予約数・予約受付数・販売室数を制限することが容易であり、忙しいかどうかは自分のさじ加減でいくらでも調整できます。忙しいのは予約を受け付けたからで、支援制度に責任はまったくありません)

数値データの収集が日本の観光業の全体像の把握、DXの推進に

 私が、もし全国旅行支援制度を通じて提案できることは何かと聞かれれば、「支援制度への参加資格として、データ収集を容易に実現し、統計が取れるよう国の指定のソフトウェアを搭載した宿泊システム使用が必須としてはどうか」というもの。

 個人情報を除いた稼働や単価データといった数値データを収集することで、日本の観光業の全体像をつかむことが容易になり、それは日本全体の観光業育成、国際競争力を高めるために定量的な視点から強くサポートすることになると思います。

 またDXを推進することにもつながり、国内ベンダーによる追加開発や導入支援をすることの経済効果も期待でき、「国産」を守ることにも寄与しそうです。

 いずれにしても、「経済支援は受けるけど、実態は内緒です」といった産業では持続可能な支持を得られるわけがなく、今回のような国の予算を動かすような場面においてシステム化を進めることで、制度の費用対効果といったフィードバックを納税者にできるようになり、さらに多くの投資を呼び込み、働く人・志す人にとっても魅力的な産業になるだろう、と感じた次第です。

寄稿者 北﨑堂献(きたざき・たかのぶ)ワンファイブホテルズ㈱代表取締役社長/いちご㈱ホテル事業部長

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