タッチツアーってなに?
先月、7月10日(月)鹿児島市主催の「ユニバーサルツーリズム研修会」に登壇することをお伝えしました。
そのために私は7月8日(土)に鹿児島入りし、その日は鹿児島県視覚障害者団体連合会の元会長の小山さん(全盲)と鹿児島県立博物館を訪れました。
https://www.kagoshima-yokanavi.jp/spot/10067 (鹿児島県立博物館)
なんと、鹿児島生まれ鹿児島育ちで五十数年の小山さんは、今回が初めてだったのです。お話を聞くと、視覚障がい者が行っても楽しめそうにないと思っていたとのこと。では視覚障がい者が楽しめる、行ってみたいと思う博物館や美術館とはどんな施設でしょうか?
全国の博物館、美術館の多くは展示物に「手をふれないでください」という注意書きがあったり、柵で囲われた先に展示されていたりしていますよね。想像してみてください、目をつむってそのような施設内を移動するのは、真っ暗なトンネルを移動するのと変わらないと思いませんか。付き添いの方が見えている展示物を、口頭で解説をしても伝えるのは非常に難しいはずです。
これは2012年8月、視覚障がい者を対象としたロンドンパラリンピック観戦ツアーの際に訪れた大英博物館での一コマです。参加者は、展示してある実物に触れることができるのです。展示物にはこのような表示がありました。
事前に申請した、視覚障がい者に限り触れても良いという「タッチツアー」プログラムです。
台北の故宮博物院では、博物館とは別な建物の中で、展示物の精巧なレプリカを触れながら解説を受けるプログラムが視覚障がい者に用意されています。触れて学ぶ、触れて楽しむというプログラムが楽しそう、行ってみたいにつながるキーワードの一つです。
さて、小山さんが初めて訪れた鹿児島県立博物館はどうでしょうか。
2階の1室には、入口に「ふれて調べて発見」とあり
その部屋の中の展示物は、全て触れることができるのです。
長年、国内外を視覚障がい者ツアーとしてご案内してきましたが、国内の博物館でこのような展示は、ほとんど見たことがありませんでした。ここは絶対に多くの視覚障がい者に来てもらいたい!と思える施設です。ご一緒した小山さんも楽しんでいただけた様子で、なんで今まで知らなかったのか・・・と。
当事者とご一緒することで、新たなアイデアも生まれました。
各展示物には名前が書かれた札が添えてあり、付き添いが読み上げれば分かるのですが、ここに透明な点字シールが貼ってあれば、点字が読める視覚障がい者は自分で確認できるというアイデアです。
小さなアイデアに関係者が動く
7月10日(月)の研修会では、当然この出来事に触れました。秋に国体・障害者スポーツ大会を控える鹿児島県、視覚障がい選手や関係者も多く訪れるはずで、この博物館は大会前後の観光では絶対訪れてほしい施設という内容です。
https://officefuchi.amebaownd.com/posts/45620242 (セミナーの様子)
研修の3日後、博物館にも同行し研修会を計画された鹿児島バリアフリーツアーセンターの代表よりうれしい連絡が入りました。「県立博物館の館長とお話し、あのコーナーの展示物に点字シールを貼ることが決まりました」。今まで、全国の自治体や観光地でさまざまな提案やアドバイスをしてきましたが、こんなスピード感で賛同いただけたことはありません。
https://kagoshima-barrierfree.com/ (鹿児島バリアフリーツアーセンター)
そして、8月1日(火)には関係者総出で点字シールが貼られたとのことです。
今回の鹿児島県立博物館は、全国の観光地、観光施設でも参考になる事例の1つです。地元にとっては当たり前に存在しているものが、視点を変えることでユニバーサルツーリズムの観光素材として活用できるということを実際に動いてくださいました。鹿児島を訪れた際には、ぜひ県立博物館にも足を運んでみてください。また、皆さんの知り合いに視覚に障がいがある方がいたらPRをお願いします。
次回以降も、あ~だこ~だと事例を紹介していきます。
鹿児島市はバリアフリー観光の発信も充実しています。
https://www.kagoshima-yokanavi.jp/article/universaltourism (かごしま市観光ナビ バリアフリー情報)
寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表