ANA X(神田真也社長、東京都中央区)は11月19~20日の2日間、報道関係者を対象に東京・伊豆諸島の八丈島を視察するツアーを実施した。八丈島では1954年に羽田空港との民間の航空路線が開設され、70年を迎えた。全日本空輸(ANA)が長年にわたり維持してきた同路線、地域への関係者の想いや、10月に2度の台風に見舞われた島の観光の現状を紹介する。
□安全運航の堅持 “一機入魂”で
八丈島路線は1954年に青木航空の小型機が不定期で運航を開始した。のちに藤田航空と改名し、63年にANAに吸収合併された。昭和40年代の離島ブーム時には1日10往復以上に増便され、82年にはジェット機が就航した。
現在は羽田空港から八丈島空港まで、ANAの定期便が朝・昼・夕の1日3往復しており、所要時間は約55分。体感ではあっという間に到着するが、実は八丈島空港は気流の関係で「日本一着陸が難しい空港」といわれている。
ANA八丈島空港所の塩入康夫所長は今年の4月に赴任したが、所長の仕事の第一に「安全運航の堅持」を掲げる。70年という歴史のなかで「先人たちから引き継いできた強い“一機入魂の精神”を感じる」(塩入所長)。
ANAから業務委託を受け、空港ハンドリング業務を担っている、八丈島空港ターミナルビル委託業務責任者の村川陽亮課長代理は、「ANAが就航する空港としては、人口が圧倒的に少なく、一人ひとりの顔が見えるほど利用者との距離が近い。安全運航には“身内が乗っていると思え”といわれるが、まさにその感覚だ」と話す。本土の病院への通院など島民の足となっている生活路線のため、「安全運航は大前提として、病院の時間などを考えると定時運航を守ってあげたい」と気持ちがこもる。
空港内も小ぢんまりとしているため、受託業務課の安形光希さんは「お客様との距離が近いのを生かし、楽しく飛んでもらう努力をしている。個々に『今なら保安検査もスムーズにできますよ』とお声掛けすることもある」と工夫を話してくれた。
一方、日本一着陸が難しい空港である。ANAが就航する空港ではランク分けがあり、八丈島空港だけが最難関のカテゴリー「D」に分類される。村川課長代理は「両側に山があり、とても気流が悪い。通常、航空機は向かい風で着陸するが、八丈島空港は360度すべての風向きで着陸に制限値が設けられている。パイロットの技術が必要だ」と解説する。地上では、車でランウェイまで行き天候を確認し、航空機に具体的なアドバイスをすることもある。「1便に集中できるからこそ。確実に降ろして飛ばすことを考えている」と、これが前述の“一機入魂の精神”だ。
□観光客はもちろん歓迎 回復途上でジレンマも
同じく受託業務課の岩本友花さんは10月9日、13日と台風22・23号が相次いで襲った島の現状について、「行きつけの飲食店の方は『コロナ禍みたいだ』と話している。空港では釣りやダイビングなどの荷物があり、お客様は戻ってきている印象だが、街には出ていないようだ」と明かす。
現状、観光客が過ごすうえでのインフラはほぼ回復しており、受入側も歓迎の意を示しているが、冬の売りである温泉については取材時、全面閉鎖となっていた。
岩本さんは島の事業者を考えると「観光客に来てもらいたい」が、島を愛し、魅力を知るものとして、「完全に回復していないなかで、がっかりされるのは不本意」と正直な胸中を語った。なお、八丈島観光協会はホームページで11月30日に各施設の情報を更新した。これによると、通常から時間を変更して営業を再開した温泉もあり、12月2日以降順次再開が見込まれる。
塩入所長は「海、山、空、食と魅力はたくさんある。島の経済活性はもちろんのこと、島民の笑顔を取り戻す為にもぜひともこの八丈島を訪れてほしい」と述べた。
島で最も大きい宿泊施設である「リードパークリゾート八丈島」の土岐朋子副支配人によると、11月から観光客の受け入れを始めた。復興関係者の宿泊が大半というが、11月29日から通常営業を再開。一方、町では水源設備の復旧作業が続いており、町からの節水要請があるため、同施設の大浴場は朝の営業を中止している。(同館の大浴場は沸かし湯)。

政府は11月28日、10月の台風22号と23号で被害を受けた東京都・八丈町と青ケ島村を局地激甚災害の対象に指定した。
八丈島で最も被害が大きかった末吉地区で、土砂が押し寄せた交流施設「八丈島の海・山・暮らし館」を訪れた。視察時も被害の爪痕が色濃く残り、発酵臭が漂っていた。同施設は島で最古の小学校が廃校になり、25年4月、交流施設に生まれ変わった矢先の出来事だった。
□観光スポット紹介
島内には営業を再開した観光施設や店舗も多数ある。抜粋して紹介する。

ふれあい牧場は八丈富士の中腹に位置する畜産振興のための牧場。放牧のため、牛が自由に行き交う姿が間近に見られるほか、三原山や海、市街地から空港まで八丈島が一望できる。入場無料。
歴史民俗資料館は25年10月1日にリニューアルオープンした。1939年に建てられた東京府の八丈支庁庁舎を活用したもので、国有形文化財に登録されている。今回、耐震改修工事や展示改修を行い、新たに開館した。縄文時代から人が住んでいた記録や、江戸時代には流刑地であった歴史など、八丈島の成り立ちが学べる。
八丈民芸やましたでは、八丈島の伝統工芸品の「黄八丈」の手織り体験と草木染め体験(5人以上)ができる。料金は1人3850円(税込)。要予約。
八丈島の焼酎は「八丈焼酎」「島酒」などと呼ばれ、昔から親しまれてきた。八丈島には4つの蔵元があり、これらを含む伊豆諸島で製造される焼酎が24年、「東京島酒」として国税庁の地理的表示(G1)に指定された。東京島酒の特徴は芋と麦、芋・麦のブレンドがあること。江戸時代に八丈島では度重なる飢饉対策で穀類を使用する酒造りが禁止されていたところ、薩摩からの流人が地元のさつま芋を使用した焼酎の製造方法を伝えたことが原点となっているそうだ。

坂下酒造(沖山範夫社長)は麦と芋のブレンド「黒潮」と麦の「黄八丈」、樫樽貯蔵酒と黒潮をブレンドした「JONNALIE(ジョナリー)」を製造しており、事前の予約で酒蔵見学ができる。オーナーの沖山氏が丁寧に各焼酎の特徴や製造方法などを解説してくれる。

郷土料理の「島寿司」は旬の白身魚などを醤油ベースのたれでヅケにし、甘めのシャリにワサビではなく、カラシを載せて握る。ネタはメダイやトビウオ、岩海苔などが使われる。岩海苔は甘煮になっており、カラシが効く寿司との箸休めに最適な組み合わせだ。今回利用した「あそこ寿司」では、ヅケの島寿司が前日までの予約で楽しめる。
「PIZZA PARADISO(ピッツァパラディッソ)」は店内にピザ窯を備え、本格的なピザが味わえる。八丈島産のチーズやしいたけなど、地元食材を使用したピザがおすすめ。人気店のため予約が安心だ。
□各社がお得なクーポンを配布
各旅行会社は八丈島への旅がお得になる「ご当地クーポン」を配布中。八丈島観光観光協会がサイトにまとめて紹介している。
情報提供 旅行新聞新社(https://www.ryoko-net.co.jp/?p=159363)