【New!トップページ新着コメント欄追加】 学び・つながる観光産業メディア

「昭和喪失」 番外編~夕やけだんだんは今~

コメント

谷根千を代表するコンテンツである「夕やけだんだん」は、隣接マンション建設によって、大きなうねりを迎えている。2023年6月に再開発をレポートした。詳しくは以下の記事をお読みいただきたい。

https://tms-media.jp/posts/4504/

観光目線と住民目線

2025年12月、さまざまなメディアでその状況が伝えられている。しかし、ほとんどが観光目線からのレポートであるため、地域住民の思いは、なかなか訴求されない。住民不在の論理は、オーバーツーリズムを呼び、マンション建設自体が悪とされることがある。その点を踏まえ、地域住民に寄り添った現状をレポートしたい。

さて、冒頭の写真は、日暮里駅側から谷根千に向かう入り口だ。右手を降りていくと「夕やけだんだん」である。一方、左手が七面坂、この坂が台東区と荒川区に区界。そして、その荒川区側に新築マンションは建設中である。当初は、景観を邪魔しないという低層階のマンションと言われていた。今、この場所に立つと古くから建つ質屋さんの後方にマンション工事が進んでいるのがわかる。

まるで巨大な壁のようになった夕やけだんだん
まるで巨大な壁のようになった夕やけだんだん

歩みを夕やけだんだんまで進めると、階段の両脇は、立山黒部アルペンルートの「雪の大谷」のように既存マンションと建設中の建物がそそり立っている。かつては、ここから眺める夕日がとても優雅であり、日暮れの里という由緒はこの場所かと思うほどだ。日の沈む頃には多くの人々がカメラを向けている。

しかし、このようにその眺望は破壊されつつある。台東区には景観条例があり高さ制限がある。一方、荒川区には高さ制限のある条例が制定されていない。そのため、野放図に高層マンションの建設が可能となった。と、多くのメディアは報道する。また、建築を止めることができない地域行政に問題があるとも伝えている。確かに観光客にとっての夕やけだんだんは、風情がなくなっている。

防災と観光を天秤にかけると

なぜ今、谷根千の再開発が進んでいるのだろうか。谷根千の良さは、戦火を逃れた戦前からの町並みが残り、特に谷中は、狭い路地に入り組んだ建物を巡ることである。それ故、都内の町歩きの原点とも言われてきた。しかし、昨今、木密地域は防災の観点から再整備が求められるようになった。消防車をスムーズに走らせるために道路整備を行い始めた。そのための再開発、建て替えが進められている。

谷中銀座商店街全体でも、老舗のスーパーマーケットが老朽化で閉店し、マンションとコンビニに建て替わる。また、古くからの個人商店の多くも業態変更している。加えて、高齢化した地域住民は、訪問客が残すゴミなどに嫌気をさし、谷根千から外に出ていくことも多いという。自分たちが大切にしてきた谷根千を残したいという方々は少なくない。しかし、これまで町を守ってきた人々の減少が、将来に向けて街を維持することを困難にしている。

かつて、2013年に近隣の「富士見坂」では富士山との延長線上にマンションが建設され富士山が見えなくなった。この時もメディアで報道がされ、遠隔地のマンション計画への反対運動が起こったこともある。また、最近、国立市では入居募集を終えたマンションが、眺望を残すために建築会社自ら取り壊しを選んだ事例もある。このような前例が、夕やけだんだんでもという期待感があったのだろう。

富士見坂の記事はこちらから(https://tms-media.jp/posts/23298/

景観を守ることが正義で、土地所有者の権利は無視され、そのまま建設を進めることが悪であるという考え方がまかり通っている。しかし、地域住民にとって、防災と観光を天秤にかけると、生活に重要なことは防災である。

将来につながる町づくりのために

訪れる人々が見る景色は、一過性のものだ。しかし、地域住民は365日暮らす場所であり、より充実した生活を望むものだ。また、近い将来、この新しいマンションにも居住する人々が集まってくる。彼らも時間が経てば、大切な地域住民となる。自分たちのより良い生活をするために、町づくりを進めることだろう。

そう考えると、住民目線の議論で、この景観の変化を理解を深めることが大切である。「郷に入っては郷に従う」観光、これこそ、未来につながる地域観光づくりだと考える。

ここに2棟建築されるマンション、双方とも2026年前半には完成する。かつての景観はなくなるが、新たな景色が見え、谷根千の新機軸として、第一歩を歩み始める。町を愛する人が一人でも増えれば、必ず、そのことは具現化されるだろう。

訪れる人々と住む人々が共存し、理解し合う空間が生まれることを切に望みつつ、もうしばらく、ウォッチを続けたい。

赤のマーキングが、マンション建築の現場だ
赤のマーキングが、マンション建築の現場だ

寄稿者 観光情報総合研究所 夢雨/代表

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=181

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/