フードツーリズム研究に新たな視点を提示する一冊『物語が生まれるフードツーリズム――消費される食からの脱却、メディアとしての食』(青木洋高著/明石書店)が、2026年3月23日に刊行された。
同書は、食を単なる消費対象として捉えるのではなく、人と地域をつなぐ「メディア」として位置づけ、旅行者が地域の文化や歴史、人々との関係性の中で生み出す「物語経験」に着目した点が特徴だ。
フードツーリズムにおいて、旅行者は何を体験し、どのように地域との関係性を築くのか。同書ではナラティヴ・アプローチを用い、生産者や地域の担い手との相互作用を通じて体験が意味づけられていくプロセスを分析。食体験を「消費」から「物語」へと昇華させる理論的枠組みとして、「物語経験の展開プロセスモデル」を提示している。
具体的な事例として、三重県の海女小屋「はちまんかまど」、広島の「ビールスタンド重富」、鹿児島の地域滞在型施設などを取り上げ、来訪者の体験や会話、感想データの分析を通じて、物語が形成されるプロセスを明らかにした。
また、同書はフードツーリズムとコンテンツツーリズムの理論を横断しながら、「ナラティヴ」や「オーセンティシティ」といった概念を整理。食を起点とした観光体験が、いかにして対話的で継続的な価値へと転換されるのかを体系的に論じている。
研究書としての位置づけでありながら、地域づくりや観光商品開発に携わる実務者にとっても示唆に富む内容となっており、食を活用した観光コンテンツの高度化や差別化を考えるうえでの指針となりそうだ。
インバウンド需要の拡大や体験価値の高度化が求められる中、「食」を起点にした観光のあり方を再定義する同書は、観光業界における次の一手を考える上でも注目される一冊といえる。