今年で11回目を迎える「ソーシャルプロダクツ・アワード」の募集が始まっている。今年は初めて、年度テーマとして「観光」がその対象となった。
ソーシャルプロダクツとは、アワード主催者であるソーシャルプロダクツ普及推進協会によると、「企業および他の全ての組織が、生活者のみならず社会のことを考えて作りだす有形・無形の対象物(商品・サービス)のことで、持続可能な社会の実現に貢献するもの」である。アワードは、同協会がそのソーシャルプロダクツに光を当て、社会性と商品性の両面を評価する表彰制度。「人や地球にやさしい」だけでなく、商品性としてもすぐれていること、すなわち事業性との両立を重視している点が特徴的だ。
昨年の「大賞」は、OUIの「Smart Eye Camera(スマートアイカメラ)」であった。この商品は、現役の眼科専門医が、日本及び途上国での眼科診療を通じて発見した課題を解決しようと、自ら開発・医療機器として実用化した眼科医療機器である。専用アプリを用いた画像ファイリングで眼科の遠隔診療も可能で、実際にインドネシアの国立病院で導入されている。「世界の失明を50%減らし、眼から人々の健康を守る」という大きなミッションとともに途上国や僻地の医療現場でも簡単に導入できる点が高く評価された(販売価格は19万8千円)。
このように、受賞企業にはベンチャー企業やキラリと光る中小企業が目立つが、有名企業の受賞も少なくない。昨年の「優秀賞」は、通販で有名なフェリシモの「CCP ユニカラート」という協業プロジェクトが受賞した。CCPとは、チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクトの頭文字で、チャレンジド(=障害のある方)の持つ個性や能力を価値としてつくられた雑貨のブランド名が「ユニカラート」だ。ポーチや財布、Tシャツなどの販売価格の一部は、基金としてチャレンジドアーチストの支援にもつなげているとのこと(販売価格は1,480~6,300円)。
障害者が製作過程にかかわる物販は数あれど、フェリシモでは、そのアート性を重視して、色使いや表現の魅力を活かす商品づくりに注力し、「障害者が、、、」を前面に押し出すことはしていない。あくまで商品として機能的・魅力的であること、事業として成立することを大事にしている。障害者との協働から生まれるアイデアが商品開発力を向上させるという考え方、基金やアーチスト育成の仕組みが評価されたとのこと。多くの示唆に富む事例ではないだろうか。
さて、このソーシャルプロダクツ・アワードには、毎年「年度テーマ」が設定されており、直近3年の例は「DXソーシャルプロダクツ」「東日本大震災からの復興につながるソーシャルプロダクツ」「障害者の生きがいや働きがいにつながる商品・サービス」であった。その年度テーマが、今回は「地域を元気にする観光ソーシャルプロダクツ」なのである。「その地域ならではの資源や魅力を活かし、観光という視点で、社会課題解決につながる商品・サービス」の応募が求められている。主催事務局は、コロナ禍を経て環境配慮型の観光への意識が高まりつつあるなど世間の注目度から企画したとのこと。
筆者は、どんな観光事業・サービスも地域を元気にしているはずで、地域ならではの資源や魅力を活かしていると思っているが、このアワードは、あらためてその考え方の深さや手法の進化を期待している。観光の分野から世の中へ新しいメッセージを発信できるチャンスなのではないだろうか。
近年、あらゆる企業が「ソーシャル」を意識した活動を重視する時代となり、就職活動中の大学生も企業活動の社会性への関心を高めている。この3月に閣議決定された政府の観光立国推進基本計画は全面的に持続可能な観光を掲げている。
観光分野から多彩で多数の応募を期待したい。締め切りは、2023年10月16日(月)24時。詳細はソーシャルプロダクツ普及推進協会のホームページ(https://www.apsp.or.jp/)へ。
久保田美穂子(くぼた・みほこ)亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科准教授