第三回目の今回は、奈良の宿泊施設事情についてお話したいと思います。
来県者数が大幅に減少したコロナ渦では、宿泊者数も大きく減少しました。
泊まる人が少ない・・・
表➀「奈良県宿泊者数推移」のグラフを参考にしていただくとわかるとおり、宿泊者数は、コロナ前は250万人前後で推移していました。しかし、コロナ禍では半分近くまで落ち込んでいます。
延べ宿泊者数ではピンとこない部分もありますが、残念なのは、折れ線グラフの「県内宿泊者数全国順位」です。コロナ前の250万人前後でも全国順位で言うと既に46位。そして、コロナの影響を受けた2021年は47位(全国最下位)という結果となっています。
訪日外国人の宿泊が激減・・・
また、表②「奈良県外国人宿泊者数推移」のグラフを見ていただくとわかるとおり、外国人宿泊者数もコロナ前の24位から2021年は46位まで落ち込みました。
それではなぜ、奈良県での宿泊者は少ないのでしょうか?
おわかりの方も多いと思いますが、ズバリ!宿泊施設が全国平均と比べても圧倒的に少ないからです。
そもそも宿泊施設数が・・・
表③「奈良県旅館・ホテル客室数推移」のグラフをご覧ください。
奈良県は観光地?でありながら、2018年までは旅館・ホテルの客室数では、全国47位と最下位でした。直近では、新規オープンホテルがありましたので、客室数は少し増えて9,948室、全国45位まで順位が上がりました。しかし、それでも、2020年現在の全国平均37,003室のざっと1/4でしかありません。
毎回のことですが、お隣の京都府と比較すると、京都府は47,134室、全国11位であり、奈良県のおよそ5倍の数になります。参考までに上位を見ていくと、1位は東京の202,260室、2位は大阪の117,489室と桁が2つ違います。
一方、奈良県より下位は、45位徳島県9,834室、46位鳥取県9,734室、47位佐賀県9,516室と僅差であり、決して最下位脱出を手放しで喜べる状況ではありません。
奈良県を訪れる観光客の90%が「日帰り」なのは、こういうところにも原因があると想像できます。
滞在時間の拡大のためにも・・・
宿泊者が少なければ、当然、観光滞在時間も少なく、統計を見ると、わずか5時間程度となっています。これは宿泊施設の多い大阪の60時間、京都の30時間に比べて大幅に少なく、滋賀10時間、和歌山8時間、兵庫7時間と比べても少なく、近畿2府4県の中で最低・最短の時間です。
こういうデータを目の当たりにすると、「観光資源が豊富だから」「日本の歴史を語るうえでなくてはならない」だとか、悠長な「大仏商法的」なことを言っている場合ではありません。「奈良は掘れば何か出る」と言われているように、工事現場で何かしらの歴史上の遺構が出る可能性が高いと言われます。そのため、新たな建物を簡単には建設ができないのかも知れません。
しかしながら、観光滞在時間を増加させる手段として、宿泊客を増やすことが近道であるならば、観光関連従事者が一体となって、一般的、魅力的な価格帯の宿泊施設を増やす必要性があるのではないでしょうか?
交通インフラの整備向上も必要なこと・・・
また、鉄道網や道路網等を含めた交通インフラの整備を行い、周辺地域からのアクセスの向上を図る努力も不足しているように感じます。宿泊者が増加すれば、観光消費額も増加し、地域内消費が増加する好循環に必ずつながります。
観光地?→観光地を目指すのであれば、コロナ渦が落ち着いてきた今こそ、外部からの斬新な意見・発想を取り入れる時なのでは?と考えます。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=27
寄稿者 志茂敦史(しも・あつし) 奈良交通㈱ 東京支社長