学び・つながる観光産業メディア

【レポート】三宅島で「誰もが楽しめる自然体験」 東京都がシーカヤックやネイチャーウォーク体験会を開催

コメント

東京都は9月15~17日、「令和8年度 誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業」の一環として、三宅島で「シーカヤック&ネイチャーウォーク体験会」のモニターツアーを実施した。旅行業者や体験型観光提供事業者、観光関係者らが参加し、車いすけん引装置「JINRIKI」、アウトドア用車いす「HIPPOcampe」、水陸両用車いす「モビチェア」などを活用。ひょうたん山のショートハイキングやシーカヤック、大路池でのネイチャーウォークを通じて、三宅島の自然を誰もが楽しむための支援方法を実際に体験した。

モニターツアーには、応募した障害者4人とその介助者、旅行会社、観光関連事業者、自然体験型プログラムを提供する事業者など約30人が参加した。以下、ワークショップの様子を紹介する。

シーカヤックや水遊びを楽しむ障害者
シーカヤックや水遊びを楽しむ障害者

船旅から島内移動まで「旅全体」を体験

モニターツアーは15日夜、東京・竹芝からスタートした。参加者は東海汽船の夜便に乗船し、船中泊を経て16日早朝に三宅島へ到着。自然体験の現場だけでなく、島までの船旅や港での乗降、宿泊、島内交通までを実際に体験する行程となった。

三宅島到着後は、船員のサポートを受けながら船を降りた
三宅島到着後は、船員のサポートを受けながら船を降りた

16日朝には三宅村コミュニティセンターでワークショップを開催した。冒頭、東京都産業労働局観光部受入環境課の富永信生課長代理は、障害のある人や高齢者にとっては「現地での体験だけでなくて、移動ですとか情報提供を含めた旅全体の安心感がとても重要」と話した。

今回のモニターツアーについても、シーカヤックやネイチャーウォークといった自然体験だけではなく、竹芝から三宅島までの移動を含め、「旅行全体のアクセシビリティを体験していただきたい」と説明。「自社の商品として提供するとしたらどうするか、お客様に安心して参加いただくためには何が必要か」という視点で参加してほしいと呼び掛けた。

東京都産業労働局観光部受入環境課の富永信生課長代理
東京都産業労働局観光部受入環境課の富永信生課長代理

自然体験の安全確保、事前確認と支援体制が鍵

講義では、NPO法人静岡ユニバーサルツーリズムセンターの西ヶ谷和昭副理事長が、「障害者によるマリンアクティビティやハイキング実施時の注意点」をテーマに、自然体験を受け入れる際の準備や支援方法を披露した。

自然体験では、天候や気温、風、水温に加え、傾斜や地形、波や海流など活動場所の状況を事前に把握することが重要と説明。トイレや着替え、休憩場所の確保、使用する道具の特性、スタッフ間の情報共有なども確認項目に挙げた。また、「事前の聞き取りシート」の例を示し、既往歴や服薬、移動・移乗、座位保持、意思疎通など、参加者の状態をあらかじめ把握しておくことの重要性を紹介した。

ワークショップの様子
ワークショップの様子

西ヶ谷氏が関わる三保ユニバーサルビーチでは、「障害や年齢で参加を制限しない」「参加者・スタッフともに楽しめる設定」「できない→できるにするモノ・人・経験」などをコンセプトに掲げる。ヨットやSUP、カヤック、モビチェアなどを活用し、必要な部分を人や道具で補いながら自然体験を行っている。また、医療依存度の高い参加者がいる場合には、事前にオンラインで情報を共有するなど、当日の活動だけでなく事前準備も重視している。

西ヶ谷氏は、自然体験型観光について、山や海、川など地形変化に富んだ場所へ移動し、自然と人との接点を楽しむ活動と説明した。バリアフリー環境が比較的整った都市型観光とは異なり、自然体験では十分に整備されていない場所で活動することも多い。このため、必要な機材を持ち込んだり、代用品を使ったり、人の力で補ったりして対応する場面もあるという。

一方、こうした専門的な自然体験に取り組む団体はあるものの、「観光との組み合わせとなると未だ未開の領域」と指摘。その上で、「経験者、専門家とのチームをつくり安全に行える体制を整えることが大切」とし、機材だけでなく、事前の情報共有や現場で支援できる人材を含めた体制づくりの必要性を伝えた。

静岡ユニバーサルツーリズムセンターの西ヶ谷和昭副理事長
静岡ユニバーサルツーリズムセンターの西ヶ谷和昭副理事長

ひょうたん山の悪路を車いすで進む

座学後は、1940年の噴火で形成された「ひょうたん山」へ。ここでは、NPO法人ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋正巳理事長と、ユニバーサルツーリズムアドバイザーでオフィス・フチの渕山知弘代表が、アウトドア用車いす「HIPPOcampe」や車いすけん引装置「JINRIKI」などの特徴や使い方を説明した。

ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋理事長(左)とオフィス・フチの渕山代表
ユニバーサルツーリズム総合研究所の長橋理事長(左)とオフィス・フチの渕山代表

JINRIKIは、車いすの前輪を浮かせ、大きな後輪を生かして移動する仕組み。通常の車いすでは前輪が砂利に引っ掛かったり、砂や雪に沈み込んだりする場所でも進みやすくなる。もともとは東日本大震災後、車いす利用者が高台へ避難する際の移動を助けるために開発され、その後、荒れた路面のある観光地でも活用されるようになったという。

実地体験では、講師陣が「乗る、引くを積極的にちょっと若干やってみましょう」と参加者に呼び掛け、車いすに乗る側と、前方からけん引する側、後方から支える側を交代しながら体験。マグマのしぶきが固まった「スコリア」が地面を覆う中を、複数人で声を掛け合いながら進んだ。

ひょうたん山を車いすけん引装置などを使って移動
ひょうたん山を車いすけん引装置などを使って移動

長橋氏、渕山氏からは、単に機材の使い方を覚えるだけでなく、「それぞれどういう特性があるのか」「こういう時だったらどんなものを使ったら克服できるんだろうか」と、場所や路面の状態に応じて適した機材を考えることも伝えられた。

現地ガイドからは、これまで車いす利用者を案内する場合、駐車場に近い展望地点などに限られることが多かったとの話もあった。今回、実際に機材を使ってひょうたん山を移動したことで、「ここまで来れる機材があれば、新たなツアーとしての実施も視野に入れられます」と、これまでより案内できる範囲が広がる可能性を感じた様子だった。

モビチェアを使いシーカヤックへ

午後は伊ヶ谷・大船戸海水浴場でシーカヤックを体験した。水際までの移動には、大きなバルーンタイヤとフロートを備えた水陸両用車いす「モビチェア」を使用。砂浜から海へ移動し、参加者やスタッフが乗降や入水時の支援を行いながら、実際の海辺での対応を確認した。モビチェアは砂浜を移動でき、そのまま海へ入って浮くことができる特徴を持つ。

HIPPOcampe(左)、モビチェア(中央)、JINRIKI
HIPPOcampe(左)、モビチェア(中央)、JINRIKI

体験では、午前の講義で西ヶ谷氏が説明した、活動内容に応じた安全管理の考え方も踏まえながら実施した。西ヶ谷氏は、カヤックやモビチェアなど水面を利用する活動では水との接触があり、落水についても「必ずしも事故ではない」と説明。事故につながる状況を防ぐため、それぞれの活動の特徴や参加者の状態を理解した上で支援することの重要性を伝えていた。

水遊びやシーカヤックを楽しむ参加者
水遊びやシーカヤックを楽しむ参加者

火山の痕跡と森の再生をたどる

シーカヤック体験後は、1983年の噴火跡が残る火山体験遊歩道を訪れた。自然ガイドは、三宅島では1940年、1962年、1983年、2000年と噴火が繰り返されてきたことを紹介。1983年の噴火では山の中腹から流れ出した溶岩が阿古地区の集落に達し、現在はその跡地に木道が整備され、火山島・三宅島の歴史を伝える場所となっている。

遊歩道では、黒く固まった玄武岩質の溶岩流や、溶岩の熱によって鉄骨が曲がった旧校舎の跡、樹木を溶岩が取り囲んで固まった「溶岩樹型」などを見学した。ガイドは、噴火時に住民同士が声を掛け合って避難した経験にも触れ、普段から互いの状況を知る「顔が見える関係性」が、災害時の助け合いにもつながっていると説明した。

一方、実際に歩いてみると、整備された木道にも経年による凹凸があり、雨で濡れた場所では滑りやすい箇所もあった。途中の砂利がある休憩場所では、車いす利用者は木道上にとどまるなど、自然観光地を案内する際の細かな配慮も実地で確認した。

さらにガイドは、溶岩に覆われた土地にもイタドリやススキなどが生え、やがて低木から森へと変化していく「植生遷移」を紹介。噴火からの経過年数が異なる場所が島内にあることで、植物が回復していくさまざまな段階を一つの島で見ることができると説明し、翌日に訪れる大路池では、さらに深い森が形成されていることにも触れた。

火山体験遊歩道をガイドの説明を聞きながら歩いた
火山体験遊歩道をガイドの説明を聞きながら歩いた

翌17日はアカコッコ館を経て、大路池でネイチャーウォークを実施した。大路池を一周するコースは約2キロだが、途中には階段や倒木を越える場所もあるため、今回は車で北側桟橋まで移動し、そこから車いすでも進める区間を自然ガイドと歩いた。北側桟橋にはバリアフリー対応のトイレもあり、自然環境そのものだけでなく、移動経路や休憩、トイレを含めて、実際の観光利用を想定した受け入れ環境を確認した。

アカコッコ館で三宅島の自然を学ぶほか(上)、大路池でネイチャーウォーク(下)を体験
アカコッコ館で三宅島の自然を学ぶほか(上)、大路池でネイチャーウォーク(下)を体験

「自分一人じゃできない体験」ができた

最終日の意見交換会では、参加者それぞれが三宅島での体験を振り返った。車いす利用者は、海辺などで「自分一人じゃできない体験を多くの人に助けてもらいながらできたことというのがとても楽しかった」と感想を語った。また、車いす利用者と参加した母親からは、「この企画がなかったら、多分絶対こういう島に来れると思わなかった」との声もあった。実際に海でのアクティビティを体験し、「いろいろ皆さんが考えてくださった道具を使って、海で遊べることができたっていうのは素晴らしい」と振り返った。

このほか、知的障害のある子どもと参加した母親からは、年齢が上がることで参加できるイベントが限られてきた経験を踏まえながら、さまざまな立場の人が楽しめる体験づくりへの期待を語った。

障害者側から意見を述べた参加者
障害者側から意見を述べた参加者

旅行会社から「商品に結び付けていければ」

旅行会社や観光事業者からも、商品造成を意識した意見が出た。旅行会社からの参加者は、普段扱うバスツアーには年配者が多い一方、現状では車いす利用者を含む団体旅行には取り組めていないと説明。「今回いろいろ勉強させていただきましたので、また今後何か考えて商品に結び付けていければいい」と話した。

交通事業者からは、「船に乗船したりなど、障害者も離島に行けるという情報が圧倒的に少ない」との指摘もあった。受け入れ環境を整えるだけでなく、利用者が旅行前に判断できる情報を発信していくことも課題として挙げた。

有識者として西ヶ谷氏は、シーカヤック体験の際に現地側から参加者についての事前情報を求められたことに触れ、今後の旅行商品開発では、必要な情報を事前に聞き取ることで「現場であたふたしない」対応につながると振り返った。

事業者側から意見を述べた参加者
事業者側から意見を述べた参加者

「どうすればできるようになるのか」

ツアーを締めくくった富永課長代理は、ショートハイキング、シーカヤック、ネイチャーウォークに加え、船旅や港での乗降、宿泊施設への移動、島内交通を含めて「旅行全体のアクセシビリティについて考えていただく機会」になったと振り返った。

その上で、「できるかできないかではなくて、どうすればできるようになるのかという視点」と強調。適切な情報提供、サポート機材、受け入れ体制を整えることで、「これまで参加が難しかった方々にも旅の選択肢」を広げられるとし、今回の経験を商品造成やサービス改善につなげてほしいと呼び掛けた。

今回の三宅島での体験では、機材を使うことで広がる自然体験の可能性だけでなく、旅行前の情報提供、参加者に合わせた旅程、現地スタッフとの情報共有など、実際に旅行として提供する際に必要となる視点も確認された。三宅島での実践を通じ、参加者それぞれが今後の商品造成や支援に向けた課題と可能性を持ち帰った。

大路池での集合写真
大路池での集合写真

【参考】
東京都「誰もが楽しめる自然体験型観光推進事業補助金」の詳細は、以下URLから。
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/tourism/kakusyu/nature

東京都「誰もが楽しめる自然体験型観光」特設サイトは、以下URLから。
https://www.sangyo-rodo1.metro.tokyo.lg.jp/tourism/accessible/na

取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/