大分県別府市・鉄輪温泉で1922年に創業した「ひょうたん温泉」は、AIを活用して来場動向や顧客ニーズを先読みする「AI予測モデル」の取り組みを始めた。目指すのはAIに経営を任せることではなく、AIで予測し、人が考え、現場で試し、全社員で検証する新たな温泉経営だ。運営はユーネット。
業務効率化から「経営そのものへの活用」へ
ひょうたん温泉では当初、業務を効率化するためのツールとしてAIの活用を始めた。しかし使い続ける中で「AIを、もっと経営そのものに使えないだろうか」という疑問が生まれたという。
単に文章や画像をつくってもらうだけでなく、「次の10日間はどんなお客様が増えそうか」「そのお客様は何を求めて別府に来るのか」「ひょうたん温泉だから提供できる価値は何か」といった未来の仮説をAIと一緒に考え、現場の施策に落とし込む取り組みへと発展した。
同施設は、AIが答えを出すことよりも、AIをきっかけに社員みんなで考えることを重視している。現場の社員から「実際のお客様はそんな動きをしていない」といった意見が出て、仮説が大きく修正されることもあるという。
予測して終わらない「答え合わせ」まで
同取り組みでは、過去の来場データや季節要因、観光動向などをもとにAIを活用し、「いつ、誰が、何を求めて来るのか」を仮説として可視化する。その予測を、SNS発信や広告、イベント、商品開発、館内POP、接客、飲食メニューなどの施策につなげる。
最も大切にしているのは、予測の的中率だけではない。AIで予測し、顧客を具体的に考え、現場で施策を実行し、来場者数や売上を見て、全社員で答え合わせをし、次の予測につなげるサイクルを繰り返す。誰が増えたのか、何時に来たのか、どの温泉を利用したのか、何を食べたのかまで細かく見ることで、次の施策を考える。
幹部だけでなく「全社員」で検証
もう一つの特徴が、取り組みを経営者や幹部だけで完結させないことだ。社員がAIを学ぶ機会を設け、実際の施設の課題や顧客データを題材にしながら、「次は誰が来ると思う?」「その人に何をしたら喜んでもらえる?」を現場で考える。
目指しているのは、社員一人ひとりがお客様を見て、自分で考え、行動し、結果を振り返れる組織だ。経営を一部の人だけが考えるのではなく、現場まで含めた全社員で考える。AIはそのための共通言語の一つとして活用している。
年間来場40万人へ、「温泉は守る、経営は変える」
ひょうたん温泉には現在、年間30万人台の客が訪れている。次の目標は年間来場40万人だが、単純に来場者数を増やすことが目的ではない。誰に来てもらいたいのか、その人は何を期待しているのかまで考えながら目標に挑戦するとしている。
同施設は1922年創業で、源泉100%かけ流しの「源泉十割」や、源泉を水で薄めず自然の力で冷却する「湯雨竹」など、温泉そのものの価値を守り続けてきた。ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでは三ツ星を獲得している。代表は「AIに仕事を任せるのではなく、AIを使って人がもっと考える。そんな会社にしていきたい」とコメントしている。昔ながらの温泉文化を守る一方で、「守るべきものは守り、変えるべきものは変える」として、次の100年につながる温泉経営をつくっていく。