前回の<バケーションレンタルに滞在する魅力とは ①>では、新しい宿泊施設の形としての「バケーションレンタルとは何か?」を書かせていただきました。今回は、その魅力のひとつとしての<立地>について触れてみます。
宿はどこにあるのか?隠れ家のような魅力
もし、今から宿泊施設を建てるのであれば、「温泉が出る」「景色が良い」「駅から近い」「わかりやすい」「駐車場を確保しやすい」などといった諸条件をクリアした立地を選ぶことと思います。
しかし、バケーションレンタルは基本的に<家>であるため、そういった立地条件からは少し離れます。Googleマップなどで調べてもわかりにくい。しかも、外観では宿泊施設とはわからない。もしかすると、宿にたどり着くまでもがアクティビティのような楽しさがあるのかもしれません。
まさしく隠れ家ではないでしょうか。私の運営する宿たちも大きな看板は一切つけず、ひっそりと佇むような仕上げにしています。
まさしく町に住まう感覚
そして一度、チェックインしてしまうと、まるで我が家のように感じるのもバケーションレンタルならではです。ホテルの客室ではまずないことですが、玄関を開けるたびに思わず<ただいま>と声に出してしまう心地よさがあります。
滞在中、観光ガイドブックに掲載されることのない「小さなお惣菜屋さん」「古本屋」「美味しいパン屋」などをみつけると町の暮らしに寄り添った<私だけの特別な旅>を感じます。まさしく、このまちの住人になったような感覚を楽しめるのです。
わざわざ行かない場所だからこそ
たとえば、京都に宿泊する際には翌朝の移動を計算して京都駅周辺で宿を探します。しかし、少し時間がある時には、以前から気になっていたバケーションレンタルに宿泊します。
祇園や東山あたりは町でも宿でも馴染みも多いのですが、予約した宿は足を踏み入れたことのない見知らぬエリアだったりします。そこで、徒歩圏内で行ける美味しいお店を探すこととなり、史跡などにも気付きます。
コンビニに行く、夕食に行く、そんな行きかえりの中でなんでもない街を知っていく、覚えていく。たとえ一泊の滞在であっても土地勘がついてくる、そんな時間がとても愉しいのです。
<家>という小さな規模の宿泊施設だからこそ、町に溶け込んだその<立地>の魅力も大きいと感じています。
そして今回の旅
<立地>、その回答を求めるように、昨日の午後から友人らとプチ・トリップに出かけました。
行先は<郡上八幡>。私の住む飛騨高山から約1時間、清流のある城下町でユネスコ無形文化財遺産となった<郡上踊り>が有名な風情ある町です。
以前、美術館にカフェを作る仕事でこの町に通っていました。そうして、久しぶりに選んだ宿はやはりバケーションレンタル、川沿いの岩盤の上に建つ美しい町屋です。これは、空き家となった町屋を郡上八幡産業振興公社が快適に改装して<郡上八幡町屋ステイ>として運営している4軒のうちのひとつです。
(郡上八幡町屋ステイのHPは、こちらです) https://matiya-stay.com/
街歩きを楽しむ
今回、お世話になった宿は建物も快適でしたが、その<立地>が印象的でした。
夕食前に散歩を兼ねて鯉の泳ぐ水路沿いを歩き、歴史ある邸宅を改装したイタリアンレストランにて、鮎のフルコースをいただく。クローズしているSHOPのウィンドウを眺め、明日はどこに行こうかと予定を立てながら、町屋を改装したバーに出かける。太鼓の音が聞こえる、と思ったら広場で中学生の郡上踊りに出会う。
徒歩5分圏内でこれらすべての経験ができる立地というのは、とてもありがたいこと。
そして、部屋の広縁から臨む眼下の川には何人かの釣り人、常にせせらぎの音が聞こえ非日常を楽しむことができました。
まるで宿題のような・・・
かつての城下町の町割りを残している郡上八幡。狭い平地に家が連なり、細い道が多い印象です。
起床後、そんな道を歩いていて、ふと見上げると大きな岩盤の上に赤い鳥居の「白龍神社」がありました。驚いたことに、その神社の裏にわたしたちの宿があったのですね。この神社のある岩盤、道路側から見れば宿への隠し扉のようでもあり、宿の玄関前にはこの岩がまるで壁のように立ちはだかっているのです。逆方向から宿に向かったことで気付くことができました。
宿泊するたびに、与えられた宿題に向かっていくような楽しさがその宿の立地にあるように感じます。
「白龍神社は、なぜ岩盤に建てられたのか?」「郡上の家々は、なぜ正月飾りをつけるのか?」「水路の鯉は、なぜ冬に引っ越しをするのか?」など、たくさんの疑問が生まれてきます。
今夜はそれを調べるつもりです。こうして、その地域を知り、ファンになっていく。バケーションレンタルの<立地>の魅力はそんなところにもあるのでは、と感じています。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=25
(すみやのHPは、こちらです) https://www.sumiya-villa.com/
寄稿者 住百合子(すみ・ゆりこ) AO STYLE インテリアデザイナー・コーディネーター