コロナ禍で溶けてしまった訪日外国人(インバウンド)が戻ってきた。東京や大阪などの大都市だけでなく地方の観光地でも外国人の姿が目立ったという話をしばしば耳にする。
外国人観光客が日本を旅する時に困ることの一つに支払いの問題があるという。観光庁がコロナ禍前に行った「受入環境について訪日外国人旅行者にアンケート調査(2018年11月~2019年2月、回答数4037)によると、「施設などスタッフとコミュニケーションがとれない」、「無料公衆無線LAN環境」、「多言語表示の少なさ、わかりにくさ」に次ぎ、「クレジットカード/デビットカードの利用」、「その他決済手段(モバイルペイメントなど)」といった支払い方法の問題が挙がっている。
手のひらにお金を乗せて支払う
この調査結果を読んでいて、ある光景を思い出した。信州の小さな薬局で、欧米系と思われる家族連れが風邪薬を買っていた。この薬局は、クレジットカードやスイカ、パスモなどの交通系電子マネーが使えなかった。そのため母親が手の平に小銭をジャラジャラと並べ、店員に見せ、代金を受け取ってもらおうとしていた。
筆者も海外で同じような経験をした。まだ、クレジットカードがそれほど普及していない時代、買い物の時に紙幣や硬貨を見せて支払った。ただ、米ドルだと、どの紙幣がいくらで、どの硬貨がいくらかは分かりやすい。しかし、タイやモンゴル、チュニジアでは瞬時に判断できなかった。それほど高価な買物ではなかったものの、もしかしたらごまかされて多く支払ったかもしれない。
経済産業省によると、日本のクレジットカードなどキャッシュレス決済比率は、2022年には前年比3.5ポイント増の36.0%と増えているが、お隣の韓国の約95%と比べると格段に低い。地方での買い物やタクシー運賃の支払いでは、現金のみということが多く、日本人のみならず、訪日外国人にとっても不便このうえない。JR東日本の交通系カード、スイカにしても、全国各地のすべての駅で使えるわけではない。外国人観光客が全員「ジャパン・レールパス」で移動しているわけではないし、短距離区間などではスイカを利用するケースはあるだろう。
また、日本中至るところに設置されている飲料の自動販売機にしても、支払いは現金だけという機種もある。外国人が自販機の前で小銭を取り出し、金額を確かめ、お金を投入している光景をしばしば目にする。
韓国とならんでキャッシュレス支払い先進国の中国では、物乞いもQRコードを示し、施しを受けるという。中国でキャッシュレス支払いが進んでいるのは偽札対策という側面もあるとはいうのだが。
大阪万博はキャッシュレス決済
こうした日本のキャッシュレス決済を進めようという動きが出ている。2025年開催予定の大阪万博がその舞台だ。
日本国際博覧会協会によると、会場内の支払いは全面的にキャッシュレスすることを発表した。クレジットカードや交通系ICカードに対応するほか、万博独自の決済アプリをブロックチェーン(分散型台帳)技術を使い導入する。
クレジットカードを所有しない学生やスマホを使わないシニア層に関しては、事前支払い式のプリペイドカードを販売することで、キャッシュレス決済が可能になる。現金のやり取りに比べ、支払い時間の短縮や間違い、さらに感染防止なども期待されている。
大阪万博は政府の掲げる訪日外国人の増加、そして彼らの利便性が向上し、リピーターになってもらうことがなどの好機である。そのためにも、キャッシュレス決済の拡大が欠かせない。
取材者 神崎公一