シリコンバレー。ご存知ここは、アメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコ ベイエリアの南部に位置し、Apple やGoogleに代表される多くのグローバルなIT企業や新興のスタートアップ企業が密集する地域。ここでは、コンピューターやソフトウェア、スマートフォンなどの革新的な技術が生まれ、まるでアイデアや発明が花開く魔法のような場所。「バレー」とあるので、山に挟まれた渓谷に街があるの? と思われがちだが、実はベイエリア・海の近くに位置している。
こちら、能登半島の先端から南方富山方向を俯瞰すると、これがシリコンバレーに似ていなくもない。さらに! 北陸地域にまで目を広げると、金沢の金箔、加賀友禅、九谷焼、輪島塗、高岡の金属加工、越中和紙、井波彫刻…国内でも特に優れた工芸(クラフト)技術が集積しているエリアだ。いや、工芸品ばかりではない。食品水産加工品、日本酒、ワイン、ビールなども含めれば、各種ジャンルのクラフト的な「ものづくり」が集積する一大拠点、であることは間違いない。
「そこは日本のクラフトバレーだ」
富山をよく知る米国シリコンバレー在住日本人のM氏が言い出した。
これが、アメリカから火がついたら面白い。ならば、その「クラフトバレーなものづくり」の物々を集めて、シリコンバレーでお披露目しようじゃないか。アメリカ人も「ワォ!」と膝を打つ、北陸のクラフトを一堂に集め、東京を経由しないで、一足飛びにシリコンバレーと通じ合えたら、今まで見たことのない景色が生まれるかもしれない。そうなれば、シリコンバレーだけでなく、上海にもドバイにも展開のチャンスが生まれる。
確かに、シリコンバレーの富裕層に「アメージング!」と言わせられそうな品々が北陸エリアにはあふれている。
氷見だけでもゾロゾロあるぞ。ということで、先ずは100の候補をリストアップしてみることにした。氷見を代表する魚からはブリしゃぶセット、氷見ブリ焼きほぐし、みりん干し、こんか漬けなどの発酵食品、昨今は和牛ブームだから氷見牛、ノンストレスで育つ高級放牧豚、コンクールで受賞が相次ぐ日本酒、カルト化している氷見産ワイン、国際ビール審査会で金賞受賞のクラフトビール、氷見うどんに連日行列の大人気ラーメン、スイーツ系もあれやこれや…。
新し物好きなシリコンバレー人の買い物ごころをくすぐる“ワンフレーズ”を添えてリストアップをしてみるのもいいだろう。
氷見が動き出したら、同時多発的にあちこちがざわつき始めた。ノリのいい首長はすぐに動く。南砺市で高岡市で、そして岐阜県飛騨市、石川県小松市でも同様の動きが始まった。
「日本に何やら“クラフトバレー”があるらしい。それも上質なものばかりで驚きだ。」シリコンバレー人がSNSでささやくと、それが海を越えて今度は日本に戻ってくるかもしれない。
さあ、これからどんな化学反応が生まれるか、みんなで愉しもうじゃないか。
そうして昨年10月、本当にアメリカで「クラフトバレー」お披露目の場が誕生することとなった。“ざわつき”が海を越えた。反応は上々だった。ただし、課題もたくさん見つかった。一年が過ぎて、今年の秋もさらにバージョンアップをしてトライをすることになっている。
今後はもっと横展開をして、北陸じゅうのプレイヤーが参加してくることだろう。北陸は観光地の宝庫だけでなく、最高峰の逸品も集まっているのだ。
「北陸」をアルファベット表記すると「HOKURIKU」だが、外国人から見たら何のことやらさっぱりわからない。この際、「北陸」を横文字表記する際は「Craft Valley」にすればいい。その方が外国人の目には留まりやすいはずだ。
「今度オレ日本に行くんだ」
「どこ行くの?」
「東京、京都、そしてクラフトバレーにね」
いつの日か、外国人旅行者がこんなことを当たり前に言う日が来ることを、ボクは妄想するのである。
「サンデーひみ」(2022.12.4放送)富山県氷見市の能越ケーブルテレビで月に一度の放送があります。(2022年秋、サンフランシスコで行われたクラフトバレー展示会の模様を17分の番組にしました)
寄稿者 篠田伸二(しのだ・しんじ)富山県氷見市 副市長