富士山や京都の文化財、最近では奄美、西表島など「世界遺産」はほとんどの方がご存じでしょう。しかし、「世界農業遺産」って耳慣れない方が多いのではないでしょうか?
「世界遺産」とは人類全体のための世界の遺産として損傷、破壊等の脅威から保護、保存する必要があるとユネスコが認めた文化遺産及び自然遺産のこと。2023年1月現在、文化遺産900件、自然遺産218件、複合遺産39件を含む1,157件、そのうち日本からは文化遺産20件、自然遺産5件の計25件が登録されています。
世界農業遺産とは・・・
一方、「世界農業遺産」とは社会や環境に適応しながら継承してきた独自の伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、景観及び海景、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む国際連合食糧農業機関(FAO)が認定した地域(農林水産業システム)です。
世界に24ヶ国78地域、日本では15地域が認定されています(2023年7月現在)。
観光資源として直結する「世界遺産」と、農林水産業としての色合いが濃い「世界農業遺産」では認知度が全く異なりますが、世界規模で抱える地球温暖化、食糧危機は日々の生活の中でも直面し、将来への不安を感じる今だからこそ、「世界農業遺産」に認定される各地域の取組みが世界中の人々に感銘を与え、支援や協力を得る機会になるのではないかと考えます。
掛川周辺の特有「茶草場農法」とは・・・
では、ここで当地域・掛川周辺のお茶栽培「茶草場(ちゃぐさば)農法」についてご紹介します。
「茶草場農法」はお茶どころ静岡県内でも掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町の4市1町で行われている独自の伝統農法です。茶畑の周りに点在する草地(茶草場)からススキや笹などの草を刈り取って、秋から冬にかけて茶畑に敷く農法です。茶草を敷くことで樹勢が良くなり、美味しいお茶になると言われています。
茶草は茶畑の土壌を豊かにし、土壌流出を防ぐ等の効果から地域の茶栽培に欠かせないものであるとともに、豊穣祈願のお供えとして地域の伝統文化の中にも利用されています。また、茶草を刈り取ることで維持されてきた草地には希少な生物が数多く生息しています。このように、美味しいお茶を作るための農家の取組が、同時に、豊かな動植物を育んでいます。
急須で淹れるお茶・・・次の世代につながること
まさに、SDGsを実践する「茶草場農法」は、これからの社会に必要不可欠な取組みです。しかし、生産者に負荷が大きいこの栽培方法を続けていくためには、お茶の消費(急須で淹れるリーフティー)を増やして、生産農家がお茶農家として営み続けられる収入を確保すること。また、お茶を作りたいという若い新規就農者が増えていかなければなりません。
生産者が求める一番は「急須で淹れるお茶」を飲んでくれることです。お茶消費の7割が飲料用、いわゆるペットボトルになってしまった現在、そもそも、急須が自宅になかったり、急須で淹れたお茶を飲む機会が日常生活ではない人が圧倒的に多い中で、私たちが農泊として取り組んでいることは、当地に足を運んでもらう機会を作ること、そこで綺麗な茶畑が広がる景色を眺めて癒されてもらうこと、そして、急須で淹れたホンモノの美味しいお茶を飲んでもらうことです。
まずは、体験すること!~是非、掛川へ~
「ペットボトルのお茶と急須で淹れたお茶ではこんなに味が違うんだ!」「お茶っていろいろな飲み方があるんだ!」「お茶の淹れ方で味がこんなに違うんだ!」「緑茶にもいろいろな種類があるんだ!」「お茶を作るってこんなに大変なんだ!」等々知ってもらい、興味を持ってもらい、ひとりでも多くのお茶ファンが増えることで、茶草場農法が未来へつなぐことができると考え、日々取組んでいます。
(静岡の世界農業遺産 茶草場農法のHPです) http://www.chagusaba.jp
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=23
(体験型古民家宿「旅ノ舎」のHPは、こちらから) https://www.tabinoya-oldjapanese.com/
寄稿者 山田幸一(やまだ・こういち) 体験型古民家宿及び地域限定旅行業「旅ノ舎」代表