そこに温泉が湧いていた
温室効果ガスによる地球規模の温暖化が引きおこしている異常気象は、今年も日本各地で災害を引き起こした。われわれ日本秘湯を守る会の宿も、少なからずその影響を被っている。われわれの会の宿は多くが不便な山の中や谷間に立地しているため、むしろ災害に遭いやすいと言える。なぜそのような場所で営業をしているのか? 答えは簡単で、そこに温泉が湧いていたからだ。
現在であれば好きな所に温泉を掘削し、都合の良い場所に宿を設けることは簡単なことかも知れない。しかし、それはわずか50、60年前からのことである。余談になるが、温泉に「ニセモノ」だとか「ホンモノ」だとかいうことが論じられるようになったのも、その頃からのことだろう。温泉の話をするために小学校に招かれて行った時に、多くの小学生が温泉とは掘削して出すものだという認識を持っていたのには驚かされた。
当然のことながら、その昔は温泉を掘削する技術もなく、遠方に引湯することも難しかった。人々はどんなに不便なところでも、自然に温泉が湧き出している場所へ足を運んで利用した。温泉の湯船を管理する必要が出てきた時に、小屋ができて湯守が住み着いたかもしれない。近郷の人だけでなく、より遠方から浴客が訪れるようになった時に、その小屋は自然に宿となったのだろう。
山の温泉文化を守る
温泉の湧出地は谷底や川のほとりが多い。水は地盤の弱い所を選んで流れて行くし、温泉も地盤の弱い所から湧出しやすいためである。従って、土砂崩れなどの災害を受けやすい場所と重なる場合もある。
温泉の質は2つとして同じものはない。泉質名は、行政が便宜上分類したものであるので、同じ泉質名でも同じものというわけではない。その温泉の違いがそれぞれの宿のあり方を決定づけている場合も多い。われわれ、山の温泉宿は、温泉そのものが存在理由である。温泉なくして他のものでそれを補える物はない。地球からの贈り物である個性ある温泉と共に、山の温泉文化を守り、訪ねていただけるお客様を末長くお迎えしたい。