江戸から明治にかけて海運を担っていた北前船をテーマに、寄港地連携、地域間交流での活性化を図る「第33回北前船寄港地フォーラムin OKAYAMA」が10月6日、岡山県岡山市のホテルグランヴィア岡山で開かれた。「北前船と吉備の穴海~海と川が織りなした文化・産業~晴れの国・岡山から世界へ」がテーマ。岡山県内での開催は6年ぶりで、22都道府県から自治体の首長や企業のほか、観光庁からは高橋一郎長官が出席するなど、北前船や観光に関わる人たちが全国から約380人が出席。北前船を起爆剤に地域間交流の拡大を推し進め、地域活性化や国内外からのインバウンド旅客の誘客拡大を目指す。
北前船は、江戸時代から明治時代にかけて、大阪から下関を経て北海道に至る「西廻り」航路に従事した日本海側に船籍を持つ海運船。食文化や民謡、織り物などの文化を運ぶなど、各地域の文化の形成に影響を与えた。会場となった岡山県内には、備前市と倉敷市に寄港地がある。
フォーラムでは冒頭、北前船交流拡大機構の濵田健一郎理事長が「岡山は、北前船がもたらした産物により独自の産業を発展させた典型例の一つだと聞いている。今回のフォーラムを通してわれわれの知見が深まり、フォーラムが全国各地域の交流による地域の活性化の一助になると確信している」とあいさつ。開催地を代表して岡山県の伊原木隆太知事が「北前船交流拡大機構の皆さま、実行委員会の皆さまのおかげで、これほどまで錚々たる各位のご出席を賜ったことに御礼申し上げる。今回を機会に、岡山の奇麗なところ、おいしいものを体感してもらいたい」と話した。主催者からは、北海道石狩市の加藤龍幸市長、新潟県佐渡市の渡辺竜五市長、香川県多度津町の丸尾幸雄町長、北前船交流拡大機構名誉会長で平田牧場の新田嘉一会長があいさつした。来賓からは、観光庁の高橋長官、欧州連合(EU)日本政府代表部の二宮悦郎参事官、秋田県の猿田和三副知事、全日本空輸の井上慎一社長、関西・大阪21世紀協会の崎元利樹理事長があいさつした。高橋長官は「コロナ禍でも、北前船ゆかりの各地の皆さまに観光庁事業を活用していただき、人流を促してもらえた」と感謝を述べ、「ニシン、塩、昆布など物資の輸送はもとより、民謡、上方芸能、食文化にも影響を与え、各地に富と繁栄をもたらした北前船は壮大な歴史絵巻であり、そのフォーラム活動には大きなロマンがある。そして、日本人の真の魅力は地域にある。北前船の物語を介して各地域間のつながりがより強くなっていくよう全力を尽くしたい」と話した。
第2部では、観光庁の星明彦観光政策調査官がファシリテーターを務め、4つのトークセッションを実施した。
トークセッション1では、岡山県岡山市の大森雅夫市長と林原美術館の谷一尚館長が「ロマンあふれる吉備の国」をテーマに、5世紀前半にヤマト王権に匹敵する国家があったとされるの吉備の足跡が残る造山古墳群(同市北区)や「おかやま桃太郎まつり うらじゃ」などの観光資源をPRした。
トークセッション2では、岡山県倉敷市の伊東香織市長が「北前船によって花開いた 現代へと続く倉敷の文化・産業」をテーマに、吉備の穴海と呼ばれた倉敷の寄港地「下津井」「玉島」に北海道から北前船で同市に運ばれたニシンかすが綿花栽培の肥料に使われ、その後の紡績業の発展につながったことなどを紹介した。
トークセッション3では、実行委員会会長を務める岡山県商工会議所の松田久会頭が「日本遺産認定を目指して 岡山市・西大寺と北前船」をテーマに、海と川の水上交通の中継地として発展した岡山市東区西大寺地区に残る北前船関連の絵馬や常夜燈群、弁財船に関する絵図や文献、食習俗などを紹介するとともに、日本遺産への登録を促した。
トークセッション4では、瀬戸内海沿岸7県の観光関係者で作る「せとうち観光推進機構」の坂元浩専務理事が「岡山の観光の未来」をテーマに、江戸時代に朝鮮通信使が寄港した瀬戸内市牛窓町などを海路で巡るツアーを説明。インバウンドの地方誘客など、富裕層誘客による地域活性化策を披露した。
最後に、総括として内閣府地域活性化伝道師で跡見学園女子大学の篠原靖准教授が「北前船の動きは、国内の連携に留まらず世界に広がっている。地域創生においては『シビックプライド』を持つことが最も重要。130年前の北前船最盛期各地域のプライドを各地で継承し、それを100年先の子孫に伝承させるためにも、北前船交流拡大機構の役割はより大きなものになる」と語った。
次回のフォーラムは2024年6月27~29日に北海道釧路市・釧路町で開かれる予定。