先日、私の運営している宿のひとつで急なキャンセルがありました。そこで、運営スタッフに連絡し、試泊として泊まってもらうようお願いいたしました。
一棟貸しというスタイルの宿ですから、寒い、暑い以外にも日差しの入り方、美しいと感じるシーンなど可能な限り季節を変えて確認するようにし、新しい魅力や問題点などもゲスト目線で気づいたことをまとめてレポートしてもらっています。そして、届いた今回のレポート、感心する気付きが多かったのですが、これは難しい・・・と思ったのがテレビです。
試泊していただいた宿は定員5名の一軒家、1階のリビングに1台、2階の和室に1台のテレビがあります。しかし、レポートには<2階のリビングにもあったら嬉しい>とのコメントがあるではないですか。
旅館の客室のテレビは・・・
旅館デザインの際にもテレビ問題はつきものです。
無機質なこの家電を、できれば違和感なくどこにどう収めるか?回転できるTV台のようなものだと見る側にとっては便利ではありますが、空間の収まりが難しくなります。最近の傾向としては、シンプルでスタイリッシュに感じる壁付けタイプで設置することが多く、このテレビバックの素材や色がとても重要なアクセントとなります。
また、高額になればなるほどTV自体の存在を隠す手法は以前からあり、格子の建具や襖、また、漆調の扉などが用いられます。これもまたそれ自体がひとつのアートワークのように部屋のアクセントとなります。
一室あたりのTVの台数は、たとえば、スィート客室であればリビングに1台、寝室に1台を設置しますが、露天風呂に、洗面に、とタブレットを置く場合もあります。
テレビはそんなに必要なのか?
テレビは必要なのでしょうか?
最近では、インターネット対応のTVを客室に設置しNetflixなど動画配信サービスをお客様自身のパスワードを入れてお楽しみいただく施設も増えています。テレビ保有率が10代では5割台後半、20代では7割弱と若い世代ほど低くテレビ離れが話題ではあります。そして、スマホで番組を見ることも多く、多様な時代になったことを感じます。
また、高齢者にとってテレビは欠かせない存在です。NHKの朝ドラと朝食の時間が重なることから、個室食事処すべてに小型TVを設置した施設もあります。
宿泊施設のテレビの役割
宿側からすれば、テレビが無くてクレームになるよりは、設置した方が良いと考える施設が多いとようです。そして、お客様からすれば大好きな人と旅をする際に共有する体験がとても重要です。
車窓からの風景、旅先の町並み、宿の食事などと共に<共に感動を分かち合いたい>ひとつとして、客室でのテレビがあります。
一緒に見たテレビからの情報は旅の記憶と共に残ることでしょう。
旅先で見たいテレビ
偶然、予定していた旅の滞在日に、たまたまスポーツの日本代表が勝ち進み、試合があったら、おそらくテレビの前から離れられないお客様も多いと思います。
島根県の仕事先では勝ち進むWBCにワクワクしながら予定していた旅行にいらしたお客様から、どうしようもないクレームがあったそうです。「どうしてテレビで試合が見れないのだ?」
島根県は、テレビ朝日系列の放映が無いため、どうしても見ることが出来ません。
WBCはなくとも、倦怠期のシニア夫妻に会話しなくても間の持てるテレビは必須でしょうし、紅白歌合戦を楽しみに宿で新年を迎えるお客様も同様です。
まして、連泊であれば、ゆっくりと旅先がロケ地になった映画などみながら過ごすのも贅沢なもの、まだまだ、客室にはテレビが欠かせないですね。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=25
(すみやのHPは、こちらです) https://www.sumiya-villa.com/
寄稿者 住百合子(すみ・ゆりこ) AO STYLE インテリアデザイナー・コーディネーター