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完全復帰!世界最大のドイツ・クリスマス・マーケットがやって来る

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 収穫の秋を過ぎた欧州各国は、キリスト降誕を祝うクリスマスの装いを顕わにし、街に人出が増して活気づく。11月中頃からクリスマス・イブの12月24日まで、欧州各国の街々はクリスマス・イルミネーションで輝き、中央広場や主な辻々にクリスマス・マーケットが立って賑わう。中でもドイツのクリスマス・マーケットは、「世界最大」、「世界最古」、「世界一有名」と形容されるように、どの街にも必ずクリスマス用の装飾品を売る市が立ち、そこに出店するヒュッテ(屋台)の総数は、全国で2500を超える。

 ドイツでは、コロナ禍に見舞われた数年、クリスマス・マーケットの中止や縮小を余儀なくされてきた。しかし、今年2023年には前述した「世界最大」、「世界最古」、「世界一有名」なクリスマス・マーケットが完全復帰し、ジングルベルの響きと共に突如、夢の世界が出現する。

ヒュッテ(屋台)に並んだ品に見入る人たち

飾りからお菓子まで、ヒュッテ(屋台)が軒を連ねる

 市庁舎前の広場に巨大なクリスマス・ツリーが立ち、クリストキント(幼い子供の天使)像が至る所に掲げられ、伝統のヒュッテ(屋台)が公共広場に軒を連ねる。モミの木のツリーやクリスマス・オーナメント(飾り)を売る店、クルミ割り人形やスモーカー(煙出し人形)など木工玩具を売る店、伝統のお菓子「レープクーヘン」(スパイスやジンジャーを利かせたクリスマス・クッキー)を売る店など人気屋台の店先には、クリスマス用品を捜し求める人々が昼間から詰めかけ勢いづく。12月ともなれば、街々の人出は最高潮、聖歌隊がジングルベルを奏で、ドイツの街々はクリスマス・ムード一色になる。

カラフルなキャンドルが所せましと並べられている

 チェコとの国境に近い都市ドレスデンにクリスマス・マーケットが立ったのは、1434年で世界最古(一説に1393年起源のフランクフルトが最古)と言われる。キリスト降誕の日に備えモミの木のツリーに「ベツレヘムの星」をかたどった金色の星型や、「リンゴ」を意味する赤玉で飾り付ける習慣が始まったのも、同じく15世紀であろう。

サンタクロースのモデルは紀元4世紀の聖人二コラ

 クリスマスの主役、サンタクロースの起源は少し遅れて17世紀、オランダを経由して米国に登場し、瞬く間に世界中のアイドルになった。サンタクロースのモデルは、実は4世紀に小アジアのミュラで敬愛された聖人二コラだった。聖二コラには、こんな麗しい伝説がある。破産したため身売りしなければならなくなった3人娘の家に、司教の二コラは夜中にこっそりと金の入った袋を差し入れた。翌朝、父親は長女を身売りに出すことを思い留まった。2日目の深夜にも、3日目の深夜にも、三人娘の家に金の入った袋が届けられたので、3人の娘たちは身売りに出される事なく、幸せな結婚が出来たと言う。

どの国でもサンタクロースは子供たちのアイドル

 欧州では聖二コラの命日にあたる12月6日は古くから、よい子にご褒美が与えられる祝祭日。遅れて17世紀頃、12月25日の未明に2頭立てのトナカイに乗ったサンタクロースが子供のいる家庭を回り、プレゼントを贈り届ける慣習が根付いた。敬虔な宗教行事と子供たちの夢の世界が重なった欧米諸国のクリスマスは、厳寒期の到来に先立ち、家族・隣人・友人が強い連帯を確かめ合い、楽しく過ごすまたとない機会である。

屋台300,世界最大のシュツットガルトのクリスマス・マーケット

シュツットガルト市庁舎前の賑わい

 1692年が起源とされるドイツ南部のシュツットガルトのクリスマス・マーケットは、市の中央に在る4つの公共広場、すなわち、シュロス広場、シラー広場、マルクト広場、カールス広場の4ケ所で同時開催される。クリスマス・マーケットを構成するヒュッテ(屋台)は、その屋根飾りが巨大で豪華なうえに、出店数も極めて多く、シュツットガルト全体で300軒にも上ることから、「世界最大」のクリスマス・マーケットと呼ばれてきた。

屋根の上の飾りが来や美やかなた屋台

 絢爛豪華が売り物のヒュッテの屋根飾りは、キリスト降誕の場面を示す大きな人形たちで飾られ、等身大のサンタクロースが贈り物を持てるだけ持って居座るなど、各屋台の職人芸が披露される。夕闇に包まれる頃、ヒュッテの屋根装飾にライトが灯され、無数の豆電球が点滅し始めると、各マーケット広場は御伽の国に一変し、買い物客を魅了する。コロナ禍直前の2019年には、会期中の内外の来訪者数が300万人を超えた。

キリスト降誕の場面を再現する屋台

素敵な手工芸グッズが並ぶことで世界一有名、ニュルンベルク

 バイエルン州第二の都市ニュルンベルクは、「世界一有名」なクリスマス・マーケットの街として名高い。メイン会場は、13世紀建造のフラウエン教会と「美しの泉」と呼ばれる彫刻水盤塔が建つハウプトマルクト広場。赤と白の縞柄のテント屋根の屋台が150店以上も並ぶハウプトマルクト広場のクリスマス・マーケットは、別名、「クリストキンドレスマルクト」と呼ばれ、2年に一度のコンテストで選出されるクリストキント(幼い子供の天使)嬢の開会宣言によって始まる。金髪の頭に王冠を載せたクリストキント嬢は、会期中にクリスマス市に集まる子供たちに祝福のメッセージを与え続け、キリスト降誕の祝祭を盛り上げる。

開会宣言をするクリストキント嬢

 ニュルンベルクのクリスマス・マーケットの賑わいの源は、屋台で売られるクリスマス向け手工芸グッズが廉価で高品質なことにある。チェコ国境のザイフェン村で製作される木製人形は、ドイツではどの家庭にもあるクリスマスの必需品。クルミを割る道具だった「くるみ割り人形」は、兵隊、王様、徴税官などの顔を愛嬌たっぷりに造作されてユーモラスだ。「スモーカー」は、長い冬の夜に悪霊が家に忍び込まないように、お香を焚く為のお人形。人形の胴体にお香を入れると、口からモクモクと煙が出て来て興味をそそる。天使の顔をした蠟燭立て人形、手作りのカラフルなガラス玉、ツリーの代わりに使われるクリスマス・ピラミッドの模型もある。いずれも精巧でデザイン性に優れ、市に集まる人々の目を奪う。

表情豊かなくるみ割り人形

 手工芸品だけではない。ニュルンベルク産と産地指定された「ニュルンベルガー・ヴルスト」(小振りのスパイスの利いたソーセージ)やニュルンベルク名物のクッキー菓子「レープクーヘン」は、ドイツで一番美味と評判だ。世界一有名なニュルンベルクのクリスマス・マーケットに集まる内外の入込客数は、コロナ禍直前に200万人を超えた。

幻想的でお伽の国を巡るような夢の世界に舞い込む

 幻想的なイルミネーションに輝く街で、お伽の国から出て来たような人形たちに囲まれて子供も大人も夢の世界に舞い込むドイツのクリスマス・マーケット。極東の私たちにとって、全身でドイツ人の元気に触れる絶好の機会となるだろう。

 今にも出かけたくなる年末の欧州の旅。海外への旅行条件は、まだまだ厳しさを伴うが、これまで貯めたマイレッジを使って海外に出かける方々がいる。費用の困難を乗り超えて海外旅行に踏み切る方もいる。旅行条件の改善を期して来年の旅の準備に傾注される方も多いだろう。世界最大、世界最古、そして世界一有名なドイツ・クリスマス・マーケットの賑わいは、今年、完全復帰し貴方を待っている。(2015年、2019年の現地取材、2023年の現地情報に拠る)

寄稿者  山田恒一郎(やまだ・こういちろう) 旅行作家

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