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天王洲運河活用による水辺観光の可能性

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 品川駅に隣接し、東京モノレールとりんかい線が交差する運河の街・天王洲アイル(東京都品川区)では、2012年より水辺の開発をはじめ、水辺を中心とした街の活性化に取り組んでいます。近隣の品川浦は、屋形船の集積地であり、船宿事業者や行政と一緒に屋形船や平船クルーズの観光促進にチャレンジしています。

 2019年には、江戸文化を継承する屋形船を外国人旅行者向けにサービスをカスタマイズして、少人数で気軽に乗船できる「東京“屋形船”ナイトクルーズ・エンターテインメント」を運営しました。その後、コロナ禍を経て、今では人気コンテンツとなったクルーズですが、始めたころは全く乗船者のいない辛い時期がありました。水辺観光の可能性をクルーズの視点からお伝えいたします。

平船クルーズ(左)、屋形船クルーズ

水辺観光は、忍耐力と拡散力!

 水辺観光の可能性を広げていくには、諦めない「忍耐力」と身近なところからの「拡散力」が必要不可欠です。屋形船・平船でクルーズを何回か実施して思うような結果がでないからといって、「求められていないコンテンツだ」と諦めてしまうのではなく、良い点や悪い点をブラッシュアップして繰り返し運航することが大切です。また、広報活動としてSNSの活用はもちろん有効ですが、地元や近隣の方に知ってもらい、口コミで少しずつ拡散していく「拡散力」が、クルーズ成功への一番の近道だと感じております。

運河クルーズ(天王洲運河)
運河クルーズ(天王洲運河)

 天王洲・キャナルサイド活性化協会(まちづくり団体)は、天王洲運河の観光利活用を目指して2016年からさまざまな水上イベントを実施してきました。事務局メンバーで事前に乗船し、運河から水門を抜けて東京港へ出た先にある、レインボーブリッジ越しのパノラマの景色に魅了されました。また、品川ふ頭のコンテナを吊り上げるガントリークレーンやふ頭に停泊している大型貨物船は、目前で見るとその大きさとコンテナ積みおろし作業に圧倒されました。船から見る非日常の眺望は、東京の魅力ある観光コンテンツになることを確信していました。

いざクルーズへ

 クルーズの魅力を堪能した私たちは、自信を持ってクルーズの運航を実施しました。しかし、運航実績は定員30人で乗船者は各回5人程度。2日間で10便を運航しましたが、乗船者のいない便もあり、とても残念な結果となりました。人気のない理由は、企画や料金設定にあると思い、次の天王洲キャナルフェスでは、乗船しながら生演奏や大道芸人によるパフォーマンスを楽しむクルーズを実施したり、さらに乗船料金を下げたりと試行錯誤しました。その結果、少しずつ乗船人数は増えてきたものの、なかなか赤字を解消できず、クルーズ運航は魅力のないコンテンツであると落胆していました。

キャナルフェス生演奏目黒川クルーズ(左)、キャナルフェスハロウィンクルーズ

気持ちを切り替えて再運航

 しかし、運河を中心ににぎわい創出にチャレンジしている私たちは、イタリア・ベニスのような舟運によるにぎわいが必須だという強い意志を持っていたので、気持ちを切り替えて新しい角度からクルーズの企画を練りました。まずは乗船してもらうことを目的に、東京海洋大学と連携して子ども向けにリチウムイオン電池で走る「雷鳥クルーズ」乗船会を実施しました。この企画は、子どもだけでなく大人も科学を学びながら海の豊かさを学ぶ大きなきっかけとなりました。

 「雷鳥クルーズ」を契機に、東京海洋大学の先生が講義する「こども大学クルーズ」などのクルーズが話題を呼びました。アンケート結果では「前回乗って良かったから」「都心で素晴らしい体験ができる」など好意的な回答が多数あり、近隣の子育て世代の家族が、両親や友達を誘うなど、クルーズの認知は少しずつ広まっていきました。その結果、今では東京の景色を船から楽しむクルーズが、全便満席、キャンセル待ちがでるほどの人気コンテンツに成長しました。その真相は、船から見る東京の景色や夜景、そして天王洲に存在する巨大壁画など、非日常の美しい光景を眺めることを格別なものだと乗船者が認識した結果です。

東京港の夜景(屋形船より撮影)
東京港の夜景(屋形船より撮影)

インバウンドを水辺観光へ

 2019年、多くのインバウンド観光客が東京を訪れていました。天王洲に滞在している観光客から、屋形船に乗りたいがどうしたら乗船できるかという問い合わせを受けました。イベントでクルーズを運航していた私たちは、江戸文化を継承する屋形船に、外国の観光客が乗船できる仕組みを作りたいと屋形船事業者に相談しました。

 そして、その年の10月には外国人旅行者向けにサービスをカスタマイズして、少人数で気軽に乗船できる「東京“屋形船”ナイトクルーズ・エンターテインメント」を運航しました。たくさんのインバウンド観光客が屋形船に乗ることができましたが、2020年1月になると、コロナ禍により中断となってしまいました。

東京“屋形船”ナイトクルーズ フライヤー(左)、東京“屋形船”ナイトクルーズの様子

 2020年11月~2021年3月にかけて実施した「ENJOYしながわ屋形船キャンペーン」では、コロナ禍で大きなダメージを受けた屋形船事業者を応援することを目的に、屋形船事業者・品川区・当協会が共同運航しました。

 本事業は、乗船料金の半額を品川区が補助するというキャンペーンであり、少しでもコロナ禍で困っている屋形船事業者の力になれないかという思いで企画・運航をしました。コロナ禍の厳しい環境でしたが、徹底した感染症対策を講じ、地域の子どもたちを中心に安心して屋形船の素晴らしさを体験できるクルーズとして、大きな評価を得られました。

 延べ8762人が乗船したこのキャンペーンを通して、クルーズが人気のコンテンツに成長した一つの要因になったかもしれません。屋形船事業者の皆さんの多大なるご協力に感謝の気持ちでいっぱいです。

ENJOYしながわ屋形船フライヤー(左)、ENJOYしながわ屋形船(船内)

アフターコロナの水辺観光

 コロナ禍が収束を迎えた2022年10月、「おもてなし品川クルーズ」という品川区内の4カ所の桟橋を結ぶクルーズを実施しました。このクルーズは、東京2020オリンピックパラリンピック競技大会時に整備された大井ホッケー競技場で開催される「WMHマスターズホッケーワールドカップ2022東京大会」に合わせて、競技会場と区内観光地を結ぶ舟運としてホッケー選手や関係者、国内外の観戦客に向けて実施されました。また、品川区民にはホッケー競技会場への交通手段として乗船をアピールしました。

おもてなし品川クルーズ フライヤー
おもてなし品川クルーズ フライヤー

新しい交通手段「舟運」

 この時すでに天王洲キャナルフェスの観光クルーズは大盛況でしたが、まだ定着の浅い交通手段としての舟運での集客は難しいのでは……と過去の記憶が頭をよぎりました。そこで、まずは天王洲キャナルフェスファンの方々にこの企画を知ってもらおうと、プレスリリースやSNSで告知をしました。さらに、近隣の住民に向けてフライヤーのポスティングも実施しました。

 その甲斐あって、大手メディアや新聞に取り上げられ、ホッケー選手・関係者、住民・就業者のみならず、東京23区以外からも来訪し、全ての便が満席となりました。乗船実績は、2日間で1620人となりました。当日は乗船開始前から50人以上が並び、満席で乗船できないお客様が出るほどの想定を超えた事態に、うれしい悲鳴が上がりました。「毎週やってほしい」「もっと広い範囲で運航してほしい」などのアンケートの結果から、舟運クルーズが、水辺観光の大きな柱になるのではと予感しました。

おもてなしクルーズの様子
おもてなしクルーズの様子

水辺観光の磨き上げとマネタイズ

 水辺ではさまざまな事業の可能性があり、クルーズは水辺観光事業の一部であると思います。例えば、天王洲運河沿いのプロジェクションマッピングは格別の水辺空間を演出します。また、サップやカヌーなどの水上アクティビティは、とても人気のあるコンテンツです。そして水辺で過ごすひとときは、心と体を癒やします。このように、水辺は未知なる事業の宝庫ですが、観光事業を継続するためには「稼ぐコンテンツ」にしなくてはなりません。

 今後は、水辺の観光コンテンツを国内外の観光客に向けて磨き上げを行い、ここにしかない特別なクルーズ企画として天王洲の屋外アートを鑑賞する「天王洲アートクルーズ」を運航予定です。観光DXを活用したガイドシステムも開発し、多言語対応はもちろんアバターによるガイダンスも行います。

 アートクルーズに乗船することで「また天王洲に行きたい」「天王洲に来てよかった」となる、稼ぐ水辺の観光商品を作り上げていきたいです。

寄稿者 城田明洋(しろた・あきひろ)寺田倉庫㈱不動産事業グループサブリーダー/(一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 水辺観光活性化プロデューサー

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