香港メディアの東京特派員として活動していたころ、瀬戸内国際芸術祭が気になっていた。幸いメディアへの取材案内で、2016年、瀬戸内の島に足を踏み入れることができた。
瀬戸内海には大小700余りの島があり、その中でも小豆島はオリーブの島として有名である。また、映画「二十四の瞳」の舞台でもある。温暖な気候、風光明媚で、海の幸にも恵まれているが、島民は島外の都市生活に憧れ、多くの若者が島を離れ、大都市で暮らすようになった。
2015年、日本では『地方消滅』(増田寛也著)という本が出版された。全国の市町村の中には今後数十年以内に人口減少で次々と消えていくという恐ろしい内容である。この本は日本で大きな反響を呼び、地方の状況がどうなっているのか、海外の記者の注目を集めていた。
小豆島を訪れ、小豆島町長に島の変遷を聞いた(取材は2016年)。小豆島は人口が最も多かった6万人超から、現在はその半分に減り、島民3人に1人が65歳以上の高齢者で、毎年250人規模で人口が減っている。町長自身も小豆島生まれで、島内で高校を卒業して京都大学に進学し、その後中央に勤務し、故郷振興の念を抱いて故郷に帰って町政に携わっていた。
小豆島も島経済の振興に工夫を凝らした。特産のオリーブを栽培できる平地は多くないため、利用できるすべての空間を利用したといえるが、国際競争は厳しく、価格も外国より高い。しかし、島民はここのオリーブが日本一と思っている。そんな中で、2010年から3年ごとに開催される瀬戸内国際芸術祭は、地方経済振興の取り組みといえる。
瀬戸内海の島自体が絵の中に置かれた美しい景色であり、芸術家の芸術創作、芸術作品を通じて生活の理念を伝えている。グローバル化、生産性重視、全国で均一化された商業が広まる流れの中で、瀬戸内海の島も忘れられる運命が待ち受けているかのようだ。
現代アート作家たちの地域への思い
こうした状況下で、現代アートの作家たちは、島人口の流失、高齢化の進行、地方活力の低下などを懸念し、芸術の感染力により都市住民と島民の交流を増やし、この地域を元気にしたいと考えている。
2010年の第1回芸術祭には18カ国·地域から75組の芸術家が参加し、90万人を超える観光客が瀬戸内海の島を訪れた。地方文化のに触れ、人と人の信頼と理解を増えていく。瀬戸内海は古くから交通の大動脈であり、往来する船は瀬戸内海の小島から新たな文化を京都や大阪などに伝えている。
日本中で有名な讃岐うどんは、その歴史は1000年以上前の唐にさかのぼる。香川県善通寺出身の弘法大師空海は、唐土長安に留学し、うどんという郷土料理を日本に持ち帰った。現在、シルクロードの起点である中国・陝西(せんせい)省西安市と香川県高松市は友好都市を結び、両市の人々は友好的な往来を続けている。
また、瀬戸内海を隔てた岡山県倉敷は奈良時代の学者であり政治家の吉備真備の出身地である。吉備真備は2回遣唐史に選ばれ、唐でって交流を学び、向こうの天文暦、音楽、法律などを研究した。吉備が日本に帰国した後に大臣に至ることは、日本の朝廷に大きな影響を与え、高い評価を得た。
現在、瀬戸内海国際芸術祭の開催は、民俗、文芸、風土と現代芸術、建築を融合させ、人文、歴史地理を集め、瀬戸内海の風景、美しさを世界に広めている。
中国人である筆者は、空海や吉備真備ら中国とゆかりのある人物に思いを馳せながら、島旅を楽しんだのである。
寄稿者 李海(り・はい) 貴州民族大学外国語学院準教授
瀬戸内海を舞台にした芸術祭は、地域の魅力や文化を広める素晴らしい機会となっています。また、中国との関係性や中日交流の視点から、地方の地域創生に新たな展開の可能性を見出すことができると感じました。地方の活性化には、交流や協力が重要であり、中国の成功事例を参考にすることが意義深いと思います。